主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】
組織液を末梢部から心臓へ戻す脈管系には静脈系とリンパ系があり、生体の恒常性の維持に重要な役割を担っているとともに、様々な病態にも関連すると言われる。骨格筋内にも毛細血管とリンパ管は存在しており、毛細血管の骨格筋内分布に関しては、廃用性筋萎縮や筋力トレーニングに対する応答に関する報告が多数存在する。一方、骨格筋内リンパ管の分布応答に関しての報告は、正常筋の分布状態も含めてほとんどない。そこで本研究の目的は、廃用性筋萎縮時の骨格筋内リンパ管分布の変化を明らかにすることである。
【方法】
11週齢のC57BL/6Jマウスを、2週間、4週間の尾部懸垂群と、各群と同週齢の通常飼育を行った対照群の計4群に振り分けた。飼育終了後に各群から採取したヒラメ筋の連続凍結横断切片を作成し、HE染色後に筋腹横断面積、筋線維数を測定した。また、リンパ管内皮細胞マーカー(抗LYVE-1抗体)、血管内皮細胞マーカー(抗CD31抗体)を用いた二重免疫染色を実施し、一切片上に存在するリンパ管と毛細血管の総数を調べた。さらに、Western blottingにより、リンパ管新生因子であるVEGF-C、VEGF-Dと、毛細血管およびリンパ管新生の抑制因子であるEndostatinのタンパク発現量を調べた。各測定結果は、尾部懸垂群と同週齢の対照群との2群間で比較した。なお、統計処理にはstudentのt検定を使用し、有意水準を5%未満とした。
【結果】
筋腹横断面積は尾部懸垂2週、4週ともに対照群に対し20%程度減少し、有意に低値を示したが、筋線維数には有意な差が無かった。対照群と比べたリンパ管総数は、尾部懸垂2週では有意な差が無かったが、4週では有意に少なかった。また、対照群と比べた毛細血管総数は、尾部懸垂2週、4週ともに有意に少なかった。一方、Western blottingでは、VEGF-Dに有意な変化は認められなかったが、尾部懸垂2週にてVEGF-Cのタンパク発現量が対照群と比べ有意に多かった。また、尾部懸垂2週、4週ともに、Endostatinのタンパク発現量が対照群と比べ有意に多かった。
【考察】
今回の実験結果から、尾部懸垂による廃用性筋萎縮に伴い、毛細血管総数だけでは無く、リンパ管総数が減少することが明らかになった。また、この変化にはEndostatinによるリンパ管新生の抑制作用が関与する可能性があると考えられた。また、リンパ管総数が変化する時期は、毛細血管に比べて遅いと考えられた。これは毛細血管とリンパ管の役割の違いが影響していると考えられるが今後の検討課題である。
【結論】
尾部懸垂による廃用性筋萎縮に伴い、骨格筋内リンパ管数が減少することが明らかになり、この変化にはEndostatinが関与することが考えられた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は、大分大学動物実験委員会の承認を得て実施した(承認番号1757001)。本研究に関わる開示すべき利益相反はない。