主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】筋損傷を誘発する要因の1つに高強度の伸張性収縮(ECC)がある。ECCでは1度目と比較して2度目以降の試行で筋損傷の程度が減弱する反復効果(repeated bout effect;RBE)が報告されている。RBEでは構造的機能的な低下程度が減弱するがその要因は明らかとなっておらず、ECC後の構造的及び機能的回復程度を把握することはRBEの要因を検討する上で重要である。本研究では、1週間隔での第2試行実施前の回復程度を検証し、筋の構造的機能的観点からRBEについて検討することを目的とした。
【方法】本研究では15-16週齢のFischer344系雄性ラットの左前脛骨筋(TA)を対象とし、ECC第1施行の前後(Cont群及びpost-ECC1st群)、第2試行の前後(pre-ECC2nd_1w群及びpost-ECC2nd_1w群)の4群(n=8/群)に振り分けた。第1及び第2試行のECCは同一強度とし第2試行までの間隔は1週間とした。イソフルラン気化麻酔下でTA直上に双極電極を貼付し電気刺激により強縮を誘発した。電気刺激強度は30V、刺激頻度100HzとしTA強縮時に足関節を他動的に底屈(200°/sec)しECCを誘発した。刺激サイクルは2秒on-8秒offとし、このプロセスを10回8セット行い、セット間隔は3分とした。各post-ECC群ではECC実施の48時間後に筋採取を行い、採取直前に等尺性最大筋収縮張力(Fmax)を計測した。全群で筋採取の24時間前にEvans blue(EB)を腹腔投与した。TAの凍結横断切片(10μm)を作成し蛍光顕微鏡で観察後、画像解析ソフトを用いEB陽性(EB+)筋線維数及び免疫染色によるMyosin heavy chain-developmental陽性(MHC-d+)筋線維数の計測を行った。
【結果】Cont群及びpre-ECC2nd_1w群ではEB+線維はほとんど観察されなかった。post-ECC1st群及びpost-ECC2nd_1w群ではEB+線維が確認されたが、その数はpost-ECC2nd_1w群で有意に低値を示した(p<0.05)。MHC-d+線維数はCont群と比較してpre-ECC2nd_1w群及びpost-ECC2nd_1w群で有意に高値を示し(p<0.05)、pre-ECC2nd_1w群とpost-ECC2nd_1w群の間に有意な差は認められなかった。FmaxはCont群を100%としpre-ECC2nd_1w群では約67%レベルまでの回復が認められた(p<0.05)。低下率はCont群と比較してpost-ECC1st群で71%低下し、pre-ECC2nd_1w群と比較してpost-ECC2nd_1w群では29%であった。
【考察】ECC実施48時間後に膜透過性亢進筋線維は増大し、1週後にはほとんど認められなかった。MHC-d+線維は1週後に高値となったが、第2試行実施後に有意な変化は認められないことが示唆された。また、第1試行の1週後に最大筋収縮機能は67%程度回復することが示された。本研究では反復効果が認められたが構造的変化と機能的変化の各指標に関し、その出現程度には差異が生じる可能性が示唆された。
【結論】ECCの1週後には膜透過性亢進筋線維は認められず、MHC-dを評価指標とした構造的な回復が観察された。また、機能的回復は1週後では不十分であった。1週間隔での第2試行では構造的機能的観点からRBEが確認された。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」(日本学術会議、2006)を遵守して、新潟医療福祉大学動物実験委員会の倫理審査の承認を得て実施した。