理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-3
会議情報

ポスター
右心房内刺激伝導系の肉眼観察と組織学的検討
荒川 高光
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】

 心臓の刺激伝導系において、洞房結節から房室結節に至る結節間伝導路は、生理学的に決定されたルートとして臨床でよく知られる(e.g., de Micheli et al., 2013)。結節間伝導路に起こるリエントリーは不整脈の原因といわれる(e.g., Pathik et al., 2017; Roca-Luque, 2018)。右心房内の刺激伝導系が関係する上室性不整脈(発作性上室性頻拍、心房粗動など)では、原因となるリエントリー部位に対するアブレーション治療が施される(e.g., Yap et al., 2010; Krause et al., 2016)。このように、右心房内の刺激伝導系の形態を明らかにさせることは臨床的に重要な意義がある。

 人体解剖学実習の標本を使用した刺激伝導系の観察では、房室束周囲が剖出できる。房室束は周囲と比較してやや白色化した、少し固い心筋として剖出できる。しかしながら、右心房内の刺激伝導系を観察した報告は驚くほど乏しく、洞房結節から房室結節にかけて筋束が連続する部分を、組織学的に観察しているのみである(James, 1969; James and Sherf, 1971)。結節間伝導路は解剖学の教科書に記載がないばかりか、最新の知見として吟味された形跡もない。よって、臨床的に重要な結節間伝導路を、実物の標本において理解できているとは言いがたいのが現状である。そこで、人体解剖学実習用標本を用い、右心房内の刺激伝導系を観察し、組織学的検討も加えることとした。

【方法】

 2017-2018年度所属大学医学部人体解剖学実習用遺体11体の心臓を用いた。右心房を後面から切開して解放し、肉眼で観察した。さらに部分的にブロックとして切り出し、H-E染色を用いて組織学的検索を行った。

【結果】

 心内膜下の心筋に、白色化した心筋が部分的に観察された。それは先行研究で言われている前・中・後結節間路(James, 1969; James and Sherf, 1971)と同じルートであった。組織学的検索の結果、肉眼で白色化して観察された筋束は、刺激伝導系の形態学的特徴を有していた。

 中結節間路の観察においては個体差があり、肉眼であまり白色化していない標本も存在した。あまり白色化していない中結節間路の組織学的観察では、刺激伝導系特有の形態ではなく、通常の作業心筋とあまり変わらない形態を呈していた。

【考察】

 右心房内の結節間路は肉眼的に確認することができるルートである、ということが明らかになった。また、中結節間路は個体差が存在する可能性が示唆された。今後、刺激伝導系の染色でよく用いられるPAS染色を施し、個体差や病態を含め、さらに検討を重ねていきたい。

【結論】

 右心房内の結節間路は肉眼的に確認することが可能である。また、中結節間路は個体差が存在する可能性が示唆された。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は所属機関倫理委員会の承認を得て行われたものである(承認番号:第487号)。研究に使用した遺体はすべて所属大学医学部に献体されたものであり、研究の使用に際し、遺族に対し説明し、同意を得ている。また演者は死体解剖資格者(系統解剖:第7979号)であり、死体の解剖に際し法に抵触しない。

著者関連情報
© 2019 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top