理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-4
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口述
集中リハビリテーションによる機能代償における皮質赤核路と皮質網様体路の相互作用
石田 章真小林 憲太伊佐 正飛田 秀樹
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キーワード: 赤核, 網様体, 神経可塑性
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抄録

【はじめに、目的】

脳損傷後には中枢神経系の構造的・機能的再編が生じ、これらは障害された機能の再獲得における生物学的基礎であると考えられる。本報告では、集中的なリハビリテーションが神経系の再編、特に皮質-脳幹系においてどのような作用を及ぼすかを捉えることを目的とする。

【方法】

Wistar系雄ラットの内包部にcollagenaseを注入し、内包出血モデルを作成した。出血後1-8日目において非麻痺側前肢を拘束することで麻痺肢を集中的に使用させた。運動野に神経トレーサーであるbiotinylated dextran amine (BDA) を注入し、出血後12および51日後の赤核および網様体への軸索投射を観察した。更に、皮質赤核路および皮質網様体路の機能を選択的に遮断するため、赤核および網様体にレンチウイルスベクター(NeuRet-TRE-EGFP.eTeNT/NeuRet-MSCV-Cre)を注入し、引き続いて運動野にアデノ随伴ウイルスベクター(AAVdj-CaMKII-rtTAV16/AAVdj-Flex-DIO-hM4D-mcherry)を注入した。これにより、doxycycline (DOX) およびclozapine-N-oxide (CNO) 投与により、皮質赤核路および皮質網様体路の機能を遮断することが出来るモデルを作成した。同モデルを用い、内包出血および集中使用後に各経路を選択的に遮断し、運動機能(リーチ機能)の変化を確認した。

【結果】

内包出血後1-8日後の麻痺肢の集中使用により、リーチ機能の有意な改善を認めた。出血後12および51日目において、赤核では集中使用群で多数のBDA陽性線維を認めたが、網様体では集中使用群と対照群の間に差を認めなかった。加えて、集中使用後にDOXを投与し皮質赤核路を遮断すると改善したリーチ機能が再度悪化したが、CNO投与による皮質網様体路の遮断では機能の変化はみられなかった。しかしながら、皮質赤核路を遮断した状態で集中使用を実施した場合、リーチ機能の改善は起こらず、且つ網様体においてBDA陽性線維が有意に増加した。同様の処置を行った動物において皮質網様体路を遮断したところ、リーチ機能の有意な低下が確認された。

【考察】

内包出血モデルにおける集中的なリハビリテーションにより、前肢のリーチ機能に関しては主に皮質赤核路が機能代償を担うことが示唆された。それに対し、皮質網様体路は明らかな変化を示さず、機能代償にも明らかな関与は確認されなかった。しかし興味深いことに、皮質赤核路を遮断した状態でリハビリテーションを実施した場合、皮質網様体路が機能代償に関与することが示された。これらの結果は皮質-脳幹路系のダイナミックな再編を示しており、リハビリテーションにおける機能代償の一端を担うものであると推察される。

【結論】

内包出血後の集中リハビリテーションによる機能代償には皮質-脳幹路の再編が関与するが、その様式はダイナミックに変化する。

【倫理的配慮,説明と同意】

全ての実験処置は生理学研究所および名古屋市立大学における動物実験指針に従い行った。可能な限り使用する動物を低減し、動物の苦痛を最小限にするよう取り計らい実験を実施した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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