理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-6
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口述
サル脊髄損傷モデルにおける運動機能変化と運動関連領野5層巨大錐体細胞の形態学的変化の関係について
高田 裕生中川 浩山中 創高田 昌彦
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抄録

【はじめに、目的】

運動指令は,大脳皮質の運動関連領野(一次運動野;MI,補足運動野;SMA,背側及び腹側運動前野;PMd,PMv)から皮質脊髄路(CST)を下降し運動ニューロンに伝達される。特に,手指の巧緻動作にはCSTと運動ニューロンの直接結合が重要であり,脊髄損傷によりCSTが傷害されると巧緻動作は著しく障害される。また,脊髄損傷後の巧緻性の回復にはCSTの再編成が重要で,巧緻動作の回復に伴いMI由来のCSTの再編成が脊髄レベルで生じることが報告されている。しかし,脊髄損傷後の運動関連領野における神経可塑的変化については未だ不明な点が多い。そこで,本研究では運動関連領野における脊髄損傷後の神経可塑的変化を明確にするために,CSTを形成する大脳皮質5層の巨大錐体細胞の損傷前後における形態変化を調べた。

【方法】

実験にはニホンザル(4-6歳,6.0-7.0kg)を健常群と脊髄損傷群(損傷後10日目)として2頭ずつ用いた。まず,各運動関連領野の手指領域を同定するために皮質内微小刺激(ICMS)を行った。ICMSは脊髄損傷後にも行い,手指の運動機能障害を電気生理学的に評価した。脊髄損傷は深麻酔下にて右頚髄6/7間の片側2/3を切除し作製した。行動学的解析には手指の巧緻動作を評価できるReaching and grasping taskを損傷前5日間と損傷後7日および10日後に実施し,餌の摂取成功率を算出した。形態学的解析のために,行動解析後に脳を摘出し,ゴルジ染色法によって巨大錐体細胞を可視化した。解析には主にSholl解析を用いて,各運動関連領野5層の巨大錐体細胞の樹状突起の長さと枝分かれの数,スパインの密度と成熟度を定量化した。

【結果】

脊髄損傷群では,損傷前に同定した手指支配領域への電気刺激によって手指の運動が誘発されないことを電気生理学的に確認した。行動学的評価では,損傷前に100%であった餌の摂取成功率が損傷後には0%に低下した。また,形態学的解析では健常群と比較して,脊髄損傷群の樹状突起の長さと枝分かれの数が減少していた。スパインについても損傷群では密度の低下が見られ,成熟したスパインは減少し,未成熟のスパインが増加する傾向が見られた。

【考察】

電気生理学的評価から,脊髄損傷によって解析した全ての運動関連領野のCSTが傷害されていることが示された。また,行動学的解析と形態学的解析から,脊髄損傷後の手指の巧緻性の低下に伴い,運動関連領野の巨大錐体細胞の形態が複雑性を失い単純化すると考えられる。以上のことから,脊髄損傷による運動機能の低下には,MIだけでなく運動関連領野全体が関与していることが示唆された。

【結論】

これらの成果は,脊髄損傷の機能評価は,MIだけでなく運動関連領野に対する影響を加味して行う必要があることを示している。また,領野ごとの詳細な評価を行うことにより,機能障害の顕著な領野に焦点を当て介入することによって症状に合わせた理学療法が可能になると考えられる。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は,京都大学霊長類研究所サル委員会が定めるガイドライン,ならびに「動物の愛護及び管理に関する法律」をはじめとする関係法令を遵守して行われた。

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© 2019 日本理学療法士協会
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