理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P7-7
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一過性の骨格筋電気刺激および上肢の有酸素性運動の併用が呼吸循環応答に及ぼす影響
石川 みづき三浦 哉東 亜弥子出口 純次井関 博文倉田 浩充日浅 匡彦
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抄録

【はじめに、目的】脊髄損傷,下肢の整形疾患の罹患者は,麻痺,疼痛により下肢中心の運動を行うことが困難である.そのため,持久力向上などに有効な上肢を用いた運動を行うことが推奨されるが,下肢においては不活動による筋力低下,血流量,血管径の減少などが生じる.このような状況の中,骨格筋電気刺激(EMS) は,筋力向上,代謝促進などの効果をもたらすため,上肢の運動に下肢へのEMSを併用させることで,より呼吸循環応答を高め,持久力を向上させる可能性が示唆されるが,この点については十分に検討されていない.そこで本研究では,今後,下肢疾患の罹患者における持久力向上を目的とした運動プログラムを構築するために,一過性の骨格筋電気刺激および上肢の有酸素性運動の併用が呼吸循環応答に及ぼす影響について検討した.

【方法】被験者は健康な成人男性8名であり,下肢筋に対して20分間のEMS (4Hz,最大耐性強度) のみを実施させる条件(E条件),EMSと自転車エルゴメータを用いて50%VO2max強度で20分間の上肢クランク運動を併用させる条件(A+E条件) を設定した.全ての被験者は,運動前,運動終了直後,運動終了30分後の収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP),および運動前から運動開始20分後の酸素摂取量(VO2)および心拍数(HR) を5分毎にそれぞれ測定した.

【結果】運動20分後のVO2は,A+E条件で22.8±4.7ml/kg/min,E条件で9.2±1.5ml/kg/min,HRは,A+E条件で139.2±11.7b・min-1,E条件で93.6±7.9b・min-1であり,それぞれ両条件間で有意な差が認められた.SBPおよびDBPについては,運動前後および両条件間に有意な差は認められなかった.

【考察】両条件のVO2およびHRは,運動前と比較して運動開始後5分後から20分後に有意に増加し,両条件間で有意な差が認められた.この原因として,上肢クランク運動に下肢へのEMSを併用したA+E条件では,全身的な筋活動による骨格筋の酸素需要の増加,静脈還流の促進および血流量の増加から,運動中のVO2およびHR が有意に増加したことが考えられる.また,一般的に上肢クランク運動は,交感神経活動の亢進,末梢血管抵抗の増加を誘発するが,A+E条件は全身的な運動であり,交感神経活動亢進の抑制および血流量の増加による末梢血管抵抗が抑制され,血圧については,両条件間で有意な差が認められなかったことが示唆される.E条件では,EMSによる下肢の筋活動の増加から,運動前と比較して運動開始後にVO2およびHRが有意な増加を示したが,下肢筋群のみの他動的な筋活動であるため,上肢の筋活動が伴うA+E条件と比較して,筋活動量,血流量,酸素需要量が少ないため,VO2およびHRが低値を示したことが示唆される.

【結論】上肢の有酸素性運動および下肢へのEMSの併用は,EMSのみの運動と比較して,心血管へ過度の負荷をかけず,より呼吸循環機能を高め,下肢中心の運動が困難な下肢疾患の罹患者における持久力向上に寄与する可能性が示唆された.

【倫理的配慮,説明と同意】本研究は徳島大学総合科学教育部人間科学分野における研究倫理委員会の承諾を得たものであり(受付番号151),被験者は事前に口頭および文書にて研究の内容・趣旨,参加の拒否・撤回・中断などについて説明し,承諾を得た上で研究を開始した.

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© 2019 日本理学療法士協会
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