主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
p. J-29
ボイタ法は,ボイタ博士が1950~1960年代にかけて治療原理を確立した運動療法であり,日本では1975年に第1回の講習会が開催され,それを機に導入された。ボイタ博士は,乳児の理想的な正常運動発達を生後何ヶ月でどのような運動を行なっているかというマイルストーン的な見方ではなく,乳児が肘支持や片肘支持,寝返り,四つ這いなどの動作を行うためにはどの筋肉をどのように使っているかを運動学的に分析した。そして,その正常運動発達を基礎として反射性移動運動を発見し治療体系を確立した。そのためボイタ法は発達運動学的アプローチとも言われている。
また,ボイタ法の導入は治療手技だけでなく,ボイタの姿勢反応による診断学も合わせて導入され,医師たちによる脳性麻痺危険児の早期発見が行われていた。今日のようにMRIによるPVLなどの画像診断はその当時はまだなく,原始反射,自発運動,そしてボイタによる7つの姿勢反応によって,医師が脳性麻痺に移行する危険児を診断し,早期からボイタ法による治療を開始していた。私が就職した1985年頃の当園では,数多くの中枢性協調障害:ZKS(Zentral Koodination Stung)と言う診断名の脳性麻痺危険児が,母子入園でボイタ治療を行っていた。
現在の当園は,医療法に基づく病院機能と児童福祉法に基づく障害児入所施設,親子入院(母子入園),医療型児童発達支援センターの機能を持っており,理学療法は各部門で携わっている。そのような施設の特徴から,乳児期よりボイタ法を開始し,長期に治療を継続している20才を超えた患者様も数多く来園している。私自身も1990年にボイタ法講習会を受講し,今日まで約30年間ボイタ治療を続けており,講習会終了時より担当させていただいた患者様が現在も数多く外来で治療を継続している。
本シンポジウムでは,私が長期に治療を継続している症例を中心に紹介していきたいと思う。症例報告を通じて,①ボイタ法の基礎になっている発達運動学的な視点で問題点を分析し,治療を行なってきた結果について,②乳幼児期から学童期,そして成年期を通じて各時期に見られる色々な問題点を理学療法士としてどのように関わってきたか,以上の2点について報告する。小児理学療法は,その対象が小児ということから考えても決して短期間の変化のみで効果を判定するのではなく,少なくとも成長期が終わり,成人になってどのような状態で生活しているのかを見て,行ってきたことが効果的であったかどうか論じることができるものだと考える。理学療法士として,一つの治療手技の効果に固執するのではなく,障害児に対してどのように関わらなければならないかについても議論できればと思う。