主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに】
脳性麻痺 (以下CP) 者の中でアテトーゼ型 (以下AT) は運動中の視覚フィードバックより運動開始前の視覚記憶に依存して動作を行うとの報告がある. 一方, 痙直型 (以下SP) は自発運動に乏しく感覚入力の経験が減少し, 運動の方向もパターン化しており正しい空間位置関係の学習が困難であるとの報告がある. 本研究では視覚フィードバックを用い実際に運動を行うことで, CP者のタイプによる視覚認知機能の違い, 健常者との違いを明らかにすることを目的とした.
【方法】
タブレット上への示指によるポインティングが可能なCP者32名 (SP11名, AT21名, 平均年齢50.4±9.4歳, GMFCSレベルⅠ-3名, Ⅱ-1名, Ⅲ-7名, Ⅳ-14名, Ⅴ-7名) と健常者80名に対して椅子座位にて課題を行った. 対象者はタブレットの黒点の位置を数秒間注視して記憶し, 閉眼にて利き手の指でタッチした. 黒点の位置は身体の中央, 中央を基準として奥側・利き手側・対側の4箇所を定め,循環法により順序が均等になるように施行し, それぞれの箇所3回ずつ, 計12回施行した. 画像処理にはImageJを用い, 各黒点と施行結果との横軸をX, 縦軸をY, X2+Y2の平方根=誤差距離 (以下R) を算出した.
【結果】
Xの誤差について黒点中央は健常群が対側へ0.3±1.2㎝, AT群が同側へ1.1㎝±2.1, 黒点奥は健常群が対側へ0.6±1.6㎝, AT群が同側へ0.7±2.4それぞれ有意に偏移した.
Yの誤差について黒点中央は健常群が手前へ0.7±1.6㎝, SP群が奥へ1.5±3.6, 黒点対側は健常群が手前へ1.0±1.5㎝, SP群が奥へ1.8±3.2㎝それぞれ有意に偏移した. また黒点奥は健常群が1.9±2.0㎝, SP群が1.0±4.5㎝, AT群が3.5±2.7㎝となり健常群とSP群に対してAT群が有意に手前に偏移した. 黒点対側は健常群が手前へ1.0±1.5㎝, AT群が奥へ0.5±3.2㎝有意に偏移した.
Rについて黒点中央は健常群1.9±1.1㎝, SP群4.2±1.9㎝, AT群4.1±2.0㎝, 黒点奥は健常群3.0±1.6㎝, SP群5.8±1.7㎝, AT群5.3±1.8㎝, 黒点同側 (利き手基準) は健常群2.0±0.9㎝, SP群4.6±2.3㎝, AT群4.1±1.7㎝, 黒点対側は健常群2.4±1.2㎝, SP群4.6±2.5㎝, AT群4.1±1.8㎝と4か所全てで健常群よりCP群の方が有意に大きな値を示した. (他有意差なし)
【考察】
CP者は健常者より奥行き距離の知覚が不正確であり, 運動方向がパターン化した中での距離感覚の経験に限られてしまうため誤差が大きくなったと考えられる. 特にAT群で身体の正中に位置している黒点に対し, 課題結果の左右方向の位置が利き手と同側に偏移した. これは正中線指向の獲得がされにくいという幼少期の運動発達特徴が成人しても継続している可能性があり, 肩が後ろに引かれ伸展パターンになりやすい上肢を中心へリーチすることが困難であることが現れたと考える. またSP型は過大に運動を行う特徴があるとの報告と一致しており, 予測した距離に対して過大に上肢をリーチしタッチングを行うことで日常生活における動作の失敗を防ぐように適応している特徴が現れたと考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は北海道文教大学の倫理委員会の承認を得たものであり, 対象者には研究協力にあたって書面および口頭にて説明して, 同意書を記載していただき行ったものである.