理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-1-9
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一般演題
寝たきり児の気管切開術における喉頭気管分離の有無による術前後の感染頻度および活動体位、経口摂取の変化について
北村 憲一稲員 惠美鈴木 暁名倉 広絵甲斐 美香真野 浩志
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抄録

【はじめに】寝たきり児では,呼吸障害に対し単純気管切開術(以下「気切」)や喉頭気管分離術(以下「分離」)が行われる事がある.周術期および術後合併症予防の為の理学療法は重要である.両手術における適切な理学療法介入について検討する為,当院で「気切」あるいは「分離」を施術された寝たきり児について,術前後の呼吸器感染による入院頻度,活動体位,経口摂取の有無,生命予後について比較し検討した.

【方法】2012年1月から2016年12月に当院で寝たきり児に対して行われた「気切」あるいは「分離」73件中,1年間経過を追えた56件(52名)について,カルテから後方視的に調査した.調査項目は性別,手術時年齢,手術に至った理由,術前後1年間の呼吸器感染による入院回数,活動体位(1.座位,2.臥位や前傾座位など誤嚥予防の姿勢),経口摂取の有無,生命予後について調査した.統計手法はMann-Whitneyの検定,McNemar検定,Fisherの正確確率検定を使用した.

【結果】56件中「気切」34件[男:女=23:11,手術時年齢{中央値(範囲)}:4.8(0.0-16.9)歳](以下「気切群」),「分離」22件[男:女=16:6,手術時年齢{中央値(範囲)}:8.0(0.0-19.7)歳](以下「分離群」)であった.手術時年齢は「気切群」が有意に低年齢であった(p<0.01).手術に至った理由は「気切群」では気道狭窄,呼吸器離脱困難,頻回の吸引,誤嚥,治療の為が各15,16,1,1,1件,「分離群」では気道狭窄,頻回の吸引,誤嚥が各3,7,12件であった.「分離群」の内8件は「気切」が先行され,14件が一期的に施術されていた。「気切群」では手術前後の呼吸器感染による入院回数に有意差を認めなかったが,「分離群」では手術前と比較して手術後で有意に減少していた (p<0.01).活動体位について,「気切群」では手術前後で有意差を認めなかったが,「分離群」では有意に改善を認めた(p<0.01).経口摂取の有無については,「気切群」と「分離群」共に手術前後で有意差を認めなかった.手術後1年以内の死亡は「気切群」9件,「分離群」2件であった.死亡例のうち6件は心臓手術後,2件は悪性腫瘍,2件は脳性麻痺,1件は中途障害であった.前者の8件は全身状態悪化による死亡,後者3件は在宅での突然死であった.

【考察】「分離」は物理的な誤嚥予防となるが,発声機能の確保や将来の気管切開孔の閉鎖は困難となる.結果から「気切群」は気道狭窄や呼吸器離脱困難に対し,救命的処置として発達早期に施された可能性が高かった.これに対し「分離群」では年齢が上がり成長過程の中で誤嚥が増加し呼吸器感染予防を目的に施術され効果を得られたと考えた.また「分離」により座位が安心して使用できる事はQOLの改善につながる為、術後早期に体位管理の見直しなどを行う必要がある.さらに経口摂取については両群ともに確立できておらず,理学療法士等がより関わっていく必要があると感じた.今回の研究では寝たきり児では,「気切」と比較し「分離」が呼吸器感染の予防,活動体位で座位を選択できる事が明確となった.

【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会にて承認を得て実施した.後方視的調査のため,倫理的な配慮として個人を特定できないよう個人情報の扱いに配慮した.

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© 2019 日本理学療法士協会
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