主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに】
家庭環境における受容経験の乏しさにより歩行困難を呈した症例を経験した.本児は生活に適応できず,身体表現性障害と診断された症例で,今回認知行動療法を軸として介入することで治療効果を得られたので報告する.
【症例紹介】
本児は家庭環境により受容される経験が乏しいことや,WISCより言語理解の弱さ・状況理解の弱さが指摘されている.介入5か月前より歩行困難となり当院入院となったが,1.5か月で松葉杖歩行が獲得されたため退院となった.しかし,退院後2.5か月後より再び歩行困難となったため当院に再入院しリハビリテーションを開始した.
【評価】
入院時の身体機能は,はさみ脚・足部の尖足が強く,立位保持・独歩は不可であった.関節可動域は,股関節外旋(左:-5°,右:-5°),足関節背屈(左:0°,右:0°).下肢筋力は,MMT2.ADLは車椅子にて自立レベル.また,長期の松葉杖使用により歩行に対する恐怖心やボディーイメージの低下・協調運動低下・筋緊張のアンバランス等の二次的な身体機能の低下が生じていた.
精神機能は,受容経験の乏しさや知的能力の偏りにより自他の感情や言語を上手く理解できず,表現をすることや状況を理解することを苦手とし,失敗することを強く恐れていた.そのため自己欲求に対する発言が乏しかった.加えて,歩けない状況を受容できていなかった.
【方法】
受容経験を報酬として充分に与えながら認知行動療法を軸として介入を実施した.身体機能に対しては,歩けない状況を理解し受容していく中で,原因を共に分析し自己の身体が置かれている状況を整理しながら介入した.精神機能に対しては,受容体験を増やしていく中で,失敗しても良いことを理解していき,自他の感情を認識し自己表現をしながら介入した.
【結果】
「心因性の病気なんだよね」「歩けるようになりたい」等,自らの病気と向き合う発言がみられ,介入1週間後に手引き歩行35m可能に,1か月後に独歩40m監視にて可能になった. 3.5か月後には不整地歩行や二重課題下での歩行も含めて独歩は自立し,階段昇降や走行・ジャンプ・ストップ動作も自立した.関節可動域も,股関節外旋(左:40°,右:40°),足関節背屈(左:10°,右:15°).下肢筋力も,MMT5.ADLは,再発に対する不安感が残存したため,独歩かT字杖にて歩行するレベルとなった.
精神機能では,自らの欲求を積極的に表現できるようになり,様々な感情を表出できるようになった。
【考察】
受容経験の乏しさにより身体表現性障害を呈した女児に対して,認知行動療法を実施することによって,歩行を再獲得することができた.身体機能のみでなく精神機能にも目を向けて,どのような支援が必要であるのかを適切に判断し,認知行動療法を軸として患児に合ったプログラムの再立案を繰り返して介入したことが有効であったのではないかと考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
症例及び,家族には本発表の目的と意義について十分に説明し,同意を得た.