理学療法学Supplement
Vol.47 Suppl. No.1 (第54回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-63
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基調講演
運動器理学療法における学術と臨床を繋ぐエビデンスの活用方法
木村 貞治
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抄録

 超高齢社会に突入している我が国では,理学療法の対象として,変形性関節症,脊椎圧迫骨折,サルコペニア,フレイルなど加齢に起因する運動器の構造や機能の変化によって日常生活に支障を来す高齢者の方々の占める割合が高くなってきていると思われます。また,スポーツ外来等を通して,腱板損傷,膝前十字靭帯損傷,シンスプリントなどのスポーツ傷害に対応することも多いものと思われます。このような運動器疾患を有する方々に対する理学療法では,対象者の精神・心理状態に応じたコミュニケーションの取り方,疼痛に対する物理療法や徒手療法の内容,レジスタンストレーニングにおける負荷の方法,起居動作や歩行動作における動作練習の方法,病棟や自宅でのセルフエクササイズの内容など,疾病・障害特性,残存機能,ニーズに即した様々な評価・治療・指導に関する臨床判断(clinical decision making)に基づいて,理学療法士の行動が選択されます。このような医療における臨床判断の妥当性を高めるための行動様式が,1991年にカナダのマクマスター大学のGuyattによって提唱された「根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine, EBM)」です。EBMは,その後,看護や理学療法など多様な領域に導入されてきたため,現在では総称して「根拠に基づく実践(Evidence-based Practice, EBP)」という表現が用いられるようになってきました。

 理学療法におけるEBPの真骨頂は,対象者の臨床的疑問点(clinical question, CQ)に対する理学療法士の知識,技能,中立的な経験則などの臨床能力と,施設の設備・環境に,臨床研究による実証結果であるエビデンスの内容“も”加えて,評価・治療・指導の基本方針を立案し,それを対象者に丁寧に説明することで,対象者の意向や価値観との折り合いをつけ,できるだけ安全・効果的で対象者中心型の理学療法を提供するということにあります。したがって,対象者のCQに関連したエビデンスがヒットしても,他の要素との総合判断によっては,その内容を実践しないという臨床判断が行われることもあります。大切なことは,漫然とした経験則だけで理学療法を進めるのではなく,対象者のCQに関連した質の高い臨床研究の実証結果であるエビデンス“も”参照して判断することで,より安全で効果的な理学療法を提供するというプロフェッションとしての自覚と矜持に基づいた行動を実践することだと思います。そして,そのようなEBPの行動様式を多忙な臨床現場で効率よく実践するためには,具体的な進め方の要点を理解することが重要な鍵を握ることになります。基調講演では,運動器疾患の理学療法における学術と臨床を繋ぐためのエビデンスの活用方法の要点についてお話をさせていただきます。

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© 2020 日本理学療法士協会
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