理学療法学Supplement
Vol.47 Suppl. No.1 (第54回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-64
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基調講演
頚部動脈機能不全の可能性のある頚部の検査のための国際的なフレームワークの紹介
山内 正雄
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抄録

 世界理学療法士連盟(以下WCPT:World Confederation for Physical Therapy)は12の下部団体を持っている。その下部団体の一つであり,徒手理学療法士で構成されている団体が,世界徒手理学療法士連盟(以下IFOMPT:International Federation of Orthopaedic Manipulative Physical Therapists)である。このフレームワーク文書は,そのIFOMPTの教育基準委員会と国際的な頚椎の専門家が協力して2012年に作成されたもので,その時点での最善の臨床に対するクリニカルリーズニングのフレームワークである。現在,2020年の改訂に向けて,新しいフレームワークの試案が作成されている。

 徒手理学療法士(OMPT)は,神経筋肉骨格系に機能不全のある患者の治療のために,クリニカルリーズニングに基づき,徒手による技術と運動療法を含む高度な治療を使用する。そして,その評価や治療手技は,科学的・臨床的なエビデンスに基づき,生物・心理・社会的フレームワークを含んでいる。そのため,このフレームワークは,OMPTの治療に先立って,頚椎の動脈機能不全(CAD)を合併している可能性のある患者に対して,エビデンスに基づいた頚椎領域の評価を行うためのガイダンスを提供するために作成されたものである。

 我々OMPTの臨床場面において,頸椎領域にCADの症状がみられる患者はあまり多くはいない。しかしCADの症状を持つ患者がゼロではないため,OMPTは評価の一部としてCADを考慮しておくことが必要であると考える。例えば,患者の病歴取りにおいてCADに関する適切な質問をいくつか加えるだけでもよい。そして,その結果に基づきCADの適切な評価を行うことで,CADの患者を鑑別することが可能になるか,医師と相談してさらに詳細な評価を行うことも可能である。IFOMPTのこのフレームワークは,患者に出現しているCADの症状を,OMPTが治療を行う前に同定するため,エビデンスに基づいて患者の病歴からそのリスクを見つけ出し,最善の評価を行うためのものである。

 このフレームワークは,患者の評価と治療のプロセスの一部として理学療法士のクリニカルリーズニングを支援することが目的である。そのため,フレームワークは,単純でしかも柔軟であるように作成されている。OMPTは,このフレームワークを個々の患者にうまく適応することで,患者中心の診療がより容易にすることができる。

 このフレームワークの重要な基本原則として,OMPTが結論を出すために1つのテストだけの結果に頼ってはいけないということがある。数多くの情報に基づき,整然と計画された個別的評価を行うことで,患者の症状の理解を深めていくことが必須である。患者評価のプロセスから,CADの確率を推定するための信頼性を改善するために入手可能な多くの情報源があるが,クリニカルリーズニングの情報源として利用可能なデータは,現在進行形で改善され,変化している。このためエビデンスベースが利用できない場合は,このフレームワークでは理学療法士が臨床的判断のサポートを可能にするために,最近の文献を批判的に読むことを奨励している。

 今回の講演をきっかけにして,多くの人がこのフレームワークに興味を持ち,使用していただき,さらにIFOMPTについて興味を持っていただけるようになれば幸いです。

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© 2020 日本理学療法士協会
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