理学療法学Supplement
Vol.47 Suppl. No.1 (第54回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: F-52
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学術大会長講演
神経理学療法領域の垣根を越えて
髙村 浩司
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抄録

 近年,内閣府が発表した障がい者白書によると人口1000人当たりの身体障がい者数は29人,知的障がい者は4人,精神障がい者は25人となりおよそ国民の6%が何らかの障がいを有していると公表している。さらに障がい種類別の年次推移を見ると,視覚障がい,聴覚・言語障がい,肢体不自由はほぼ横ばいであるが,内部障がいの増加率が非常に高いことがうかがえる。ここ10年間の推移を見ても,内部障がいの占める割合は21.2%から30.5%へと増加している。これらの背景には,障がいの発生原因や発生年齢とも関係しており,人口の高齢化の影響が内部障がいの増加に影響を及ぼしているといえる。神経理学療法領域が主に対象としている疾患は,脳卒中や神経筋疾患・脊髄損傷であるが,前記した高齢化の影響などから糖尿病や循環器の問題など様々に合併した問題を抱える症例が多く,対象者の病態や障がい像は多岐にわたっている。

 近年,動物実験の段階ではあるが糖尿病ラットの皮質脊髄路軸索には伝導速度の低下などの機能異常が広く生じることが村松らの研究で明らかになってきている。これらのことから,糖尿病は運動野の対部位支配領域を縮小する可能性があり,糖尿病を合併する脳卒中対象者を理学療法する上で非常に重要な報告であると思われる。また,以前から運動を行うとタンパク尿がでるなど腎臓病患者には安静が推奨されていたが,タンパク尿は一過性で長期的には運動を行った方が腎臓に良い影響があると明らかになっている。近年ではさらに腎機能が著しく低下した透析患者についても,定期的に運動する患者はしない患者に比べ生存期間が長いことや,運動すると透析で血液の老廃物を除去する効率が高まるといった研究報告が散見されるようになっている。さらに心機能障害に関して,上月らは重複障害があるからといって安易に心臓リハビリテーションの対象からはずすのではなくリハビリテーションを十分に行い,それを実現できるように努力を重ねることが必要であると述べている。

 今や神経理学療法に携わる理学療法士は,最新の神経科学のみに興味を向けるだけでは十分ではない。時代とともに変遷される対象者の病態に対し,他領域から発せられる情報にも目を向け知識や技術の研鑽を深める必要があることを痛感する。重複障がいを有する対象者に対し最も効率的な理学療法を提供するには,リスク管理はもちろんのこと質の高い運動療法・薬物療法・食事療法・患者教育・カウンセリングなどの知識や実践が求められる。他職種の協力を得てハイブリッドなリハビリテーションを積極的に取り組むことで,対象者の生命予後の改善,機能予後の改善,QOLの向上を図ることが可能であると考える。

 学術大会長講演では,僭越ながら近年の神経理学療法の動向と合わせて臨床的な見地から他領域とのシームレスな「一歩先」の理学療法について考える機会としたい。

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© 2020 日本理学療法士協会
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