理学療法学Supplement
Vol.47 Suppl. No.1 (第54回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: F-53
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特別講演
重複障害時代のリハビリテーションの現状と将来展望
─神経障害と内部障害を中心に─
上月 正博
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抄録

 わが国は世界一の超高齢社会となり,多疾患による重複障害の人が増加している。それを反映して,重複障害に対するリハビリテーション医学・医療のニーズは飛躍的に高まっている。リハビリテーション医学・医療は「広く,早く,密に」,すなわち,対象疾患が広がり,開始時期が早まり,介入密度が高まり,格段の進歩を遂げた。しかし,これまでの多くのガイドラインは,原則的に単一疾患・障害を対象としているため,臨床現場では,重複障害に対するリハビリテーション医療の実施に関して戸惑いがみられる。例えば,心不全,呼吸不全を合併した脳卒中症例や神経筋疾患症例,末梢神経障害を伴う維持透析症例,などである。

 一般的に,低体力者ほどリハビリテーション医療効果が大きく出やすい。すなわち,重複障害者にもリハビリテーション医療は積極的に行われるべきものである。注意すべきことは,臓器連関や障害連関の組み合わせ次第では,ある障害には有効なリハビリテーション医療がほかの障害にも有効であったり,逆に有害であったりすることである。

 例えば,脳卒中を合併した大腿骨頸部骨折患者は激しい転倒恐怖感からの活動制限をきたしやすく,また,深部感覚鈍麻などのため視覚でのフィードバックなど根気強く行う必要がある。脳卒中を合併した透析患者では体重変動や糖尿病などによる自律神経障害により血圧の変動が大きくなる。また,脳卒中片麻痺患者の歩行は,健常者と比べエネルギーの消費は激増するため,同じ運動でも脳卒中発症前より心臓にも高負荷となる。脳卒中に慢性心不全を合併している場合には,歩行時のエネルギー消費は装具や杖の使用で少なくなるとはいえ,運動療法の中止基準は慢性心不全のものに従い幾分マイルドな運動にとどめるなど全身状態やリスクの十分な把握を行い,重複障害など状況に応じた個別プログラムを作成することが重要である。

 一方,ラスクの師であるモリス・ピアソルで代表されるように,“Adding Life to Years(生活機能予後やQOLの改善)”を主目的に発展してきたリハビリテーション医学・医療には,歓迎すべきパラダイムシフトがおきている。内部障害のリハビリテーション医学・医療では,心血管疾患の再発防止や生命予後の延長効果をもたらすこと,すなわち,“Adding Years to Life”も達成できることが明らかになった。すなわち,今後のリハビリテーション医学・医療のゴールは“Adding Life to Years”にとどまらず,“Adding Life to Years and Years to Life”というまさに「医療の王道」になったわけである。

 今後,リハビリテーション医学・医療の目標を“Adding Life to Years”と“Adding Life to Years and Years to Life”のどちらにするのかを意識してプログラムを作成・実行するとともに,患者が継続可能なように「つなげる」工夫をすることが肝要である。

 このように,重複障害時代では,「広く,早く,密に,そしてつなげるリハビリテーション医療」が重要であり,循環・腎・呼吸・代謝疾患の病態生理と障害,心電図,呼吸機能検査,血液ガスデータなどの基本的理解や心・腎・肺・脳・骨関節などの臓器連関の理解などますますの研鑽が期待される。

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