理学療法学Supplement
Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-44
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第9回日本理学療法教育学会学術大会 教育講演
対話する医療
─人々のケアにおけるダイアローグ─
孫 大輔
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抄録

 超高齢社会を迎えたわが国の医療介護福祉分野において,ますます「対話」が必要とされている。異なる価値観や文化をもつ者同士がお互いの「声」を聴き,理解しあうための相互行為が「対話(dialogue)」である。

 「対話」にはさまざまな形がある。患者のナラティブを傾聴し,それに丁寧に応答する医療者のやりとりは「対話」の基本形である。あるいは,スチュワートによる「患者中心の医療の方法」において,医療者が患者のコンテクストを踏まえながら全人的に患者理解を深め,協働的に意思決定をするプロセスも「対話」である。また,フィンランド発のオープンダイアローグ(Open Dialogue)は,対話によって統合失調症など精神疾患の回復を試みる実践であり,日本でも取り組みが始まったところである。

 オープンダイアローグでは7つの原則が提唱されている。すなわち,即時援助,社交ネットワークの視点,柔軟性と機動性,責任,心理的継続性,不確実性への耐性,対話主義である。「不確実性への耐性」とは,早急に結論を求めない姿勢,患者がどのような体験しているのか,その視点を共に探求していくような姿勢のことを指す。「対話主義」とは,ロシアの哲学者バフチンの思想を背景にしており,相手の言葉に常に「応答」することによって対話的な空間を作り出していくことを指す。バフチンは対話が目指すべき状態を「ポリフォニー(多声性)」と呼び,対話の空間にいる全ての人の「声」が拾いあげられ,重視される状態を理想とした。さまざまな対話活動に共通することは,唯一の正解を求めるのではなく,参加する全ての人々が対等に協働するというプロセス重視の姿勢と言えよう。

 今後,こうした「対話」によるアプローチは,医療における治療的アプローチのみならず,福祉・教育領域における困りごとを抱えた当事者に対するケアや,多様な価値観を持った人々の間での問題解決などにおいても効果的な方法となる可能性がある。

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