理学療法学Supplement
Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-8
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教育講演
歩行障害に関連する脳画像形態
阿部 浩明
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抄録

 歩行に関わる中枢神経系のプロセスとして,巧緻な随意運動に関わる「随意的プロセス」,“闘争か・逃走か”で表現される情動行動に関わる「情動的プロセス」,そして,脊髄等において無意識かつ自動的に遂行する「自動的プロセス」が知られ,画像評価においてこれらに着目することは,歩行に関わる残存機能や回復可能性を把握し,具体的な介入方法を模索する上で重要であろう。なお,本講演のテーマは脳画像に関するものであるため,ここでは脊髄などを扱わず,主に脳卒中に起因する画像所見と歩行障害の関係に特化して言及する。

 歩行障害に関わる脳領域の特定を試みた研究がいくつかある。単にある領域に病巣が存在した・しないで2群に分類するような古典的な画像研究ではなく,全脳の標準化を経てvoxel(脳画像を構成する立方体状の最小単位)単位で病巣の特定を試み,かつ,歩行障害との関係を調査した初の報告では,歩行の非対称性(時間的対称性)と関連する領域が被殻後部に存在したことが報告された。次に,亜急性のFunctional ambulation category(FAC)と関わる損傷領域が調査され,関連領域が存在しなかったことが報告された。その後,発症から6ヶ月後のFACの回復不良と放線冠,内包,淡蒼球,被殻,運動野,尾状核の損傷が関連していることが報告された。また,歩行速度の改善(改善の乏しさ)と関連する領域を調査した研究では被殻,島葉,外包およびその隣接領域の白質の損傷が関連したと報告された。さらに,中前頭回・下前頭回の皮質および皮質下白質,島葉と内包,放線冠の損傷は,歩行速度の改善度(改善の乏しさ)と関連すると報告された。これらの報告を概観すると,放線冠や内包など皮質脊髄路の走行領域や島葉,被殻などでは結果が共通しているものの,多様性に富む結果となっている。よって,明確に“この領域である”とする結論はまだ出ていない。また,脊髄における自動的プロセスと密接に関連すると考えられている6野から脳幹網様体までの経路を皮質網様体路(cortico-reticular tract:CRT)と呼ぶが,このCRT損傷と歩行能力との関係についても調査がなされている。CRTは体幹・四肢近位筋の協調的な運動や姿勢を制御するとされ,CRT損傷例は近位筋優位の筋力低下やバランス障害,歩行能力の低下を来すとされる。被殻出血例を対象とした調査において,皮質脊髄路の単独損傷群と比較し,皮質脊髄路およびCRTの双方が損傷した群は歩行能力が低下していたことが報告された。また,慢性期脳卒中例の非損傷側CRTボリュームには歩行可能・不可能群間に差異があるとの報告もある。ただし,CRTの損傷は歩行能力に寄与する可能性があるものの,その関与がどの程度のものか未だ不明である。

 ところで,歩行障害を考えるとき,“歩行障害がどのような因子と関連するのか”について思考を巡らせ,その上で臨床に望むことは極めて重要である。歩行障害と関連する因子については実に多くの報告がある。例えば,歩行自立度を決定する因子として,下肢運動機能(筋力)や感覚障害,さらには半側空間無視等の有無,認知機能やバランス機能の低下といった複数の因子が関与することは既知の事実であろう。そうならば,歩行の3つのプロセスに関わる領域の損傷の有無などを注意深くみるだけに留まらず,当該症例の歩行障害と関連している因子を理学療法評価によって把握し,“その因子と密接に関わる脳領域”にも眼を向けて行くことが大切であろう。すなわち,画像から情報を得ようとする視点だけではなく,臨床的評価から歩行障害に関わる因子を特定することを試み,その上で,それらの因子が脳内のどのような損傷を機序として発生しているのか,そのメカニズムを推察していくことが歩行障害の本質を捉えるための画像評価として重要なプロセスになると思われる。このような過程を経ることによって,より具体的で症状に合致した理学療法プログラムが提供できることになるだろう。

 本教育講演では,現時点で把握し得る多くの有益な情報を紹介し,神経理学療法を実践する上で着目すべき「歩行障害に関連する脳画像形態」について解説する。

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