理学療法学Supplement
Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-9
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教育講演
歩行・移動に関する評価の種類と特徴
松田 雅弘
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抄録

 中枢神経障害の患者にとって歩行獲得の可否は主訴から考えても切実な願いであり,歩行能力を高めて移動範囲を広げることはQOLの視点からも重要となる。歩行能力を適切に評価することは,歩行能力向上に向けた理学療法アプローチ,転倒などのリスクマネージメントをするうえで必要不可欠となる。そのために,歩行能力といっても,安定性,効率性,耐久性,汎用性などさまざまな視点からの評価が重要である。さらに,歩行評価には定性的または定量的な評価が混在しており,歩行評価に対して明確な指針は出ていない。定性的な評価の観察評価は安定性,自立度,実用性の臨床的評価となり,10 m歩行テスト,6分間歩行などの定量的な評価は総合的な能力の歩行評価につながり,両者を合わせた総合的な評価は必ず行うべきである。さらに,E-FAP(Emory functional ambulation profile),WIQ(walking impairment questionnaire)などの歩行評価,バランス能力の評価を含むTUG(timed “up & go” test)も挙げられる。ほかに,Gait judgeなどの機器の普及により,臨床でも筋活動(EMG)による歩行評価も行われてきている。生活期の在宅者にとっての歩行は重要な移動手段であり,生活範囲をどの程度移動可能かどうかが重要であり,Life-Space Assessmentなどの評価も重要となる。

 10 m歩行テストは最も臨床で使用され,歩行速度・歩幅・ケイデンスといった歩行の遂行能力を簡便に評価できる。健常者の快適歩行速度は1.0 ~ 1.5 m/秒であり,一般的に0.8 m/秒であれば屋外歩行が自立可能,0.4 m/秒以下であれば歩行の実用性は屋内とされている。屋内か地域移動かを予測するカットオフ値は6分間歩行距離が205 m,快適歩行速度が0.49 m/s,地域移動のなかで制限の有無を予測するカットオフ値は,6分間歩行距離が288 m,快適歩行速度が0.93 m/sとされる。このように定量的な歩行評価ではCut off値が定まっている評価が多く,治療の目標値として立案しやすい。しかし,定量的な評価だけでは歩容に及ぼす運動機能を的確に表現しておらず,定性的な評価によって治療のアルゴリズムを考える必要がある。定性的な評価である動作観察は観察者間でのバラつきが大きく,再現性に乏しいとされる。その問題を解決する手段として,機能的片麻痺歩行評価表(Functional Assessment for Hemiplegic Gait;FAHG)などの簡易的にチェックできる評価方法もある。定量的な評価で総合的な能力を評価しつつ,理学療法の展開を具体化するために定性的な評価で具体的な機能へのアプローチも重要となる。

 歩行に関する評価項目以外にNIHSS,FMA,SIASなど入院時や理学療法経過の点数変化と歩行の自立度を検討している帰結に関する報告も多い。その他にも下肢筋力,TCT,麻痺側下肢荷重量,バランステストのBBS,Mini-BESTestなどの評価と歩行の関連性についての報告も多く,歩行評価と他の評価を組み合わせて行うことが歩行能力向上に必要不可欠となる。

 客観的で特別な機器を必要としない汎用性の高い評価を利用し,対象者への時間的,身体的負担をかけない評価の運用を十分に考慮する必要がある。そして評価結果を予後予測や状況把握にとどめてしまうのでなく,理学療法アプローチへの応用を考えることが望ましい。歩行は平地歩行だけでなく,持久力,方向転換,障害物またぎなどの応用的な歩行の評価も重要となる。さらには,その患者の居住地域における環境や,生活スタイルに合わせた移動範囲内での歩行評価は,最終的に地域で安心して生活するための主訴の1つを叶え,目的を達成するために重要である。

 本教育講演では,神経理学療法を実践する上で標準となる「歩行・移動の評価」を紹介し,どのように活用すべきかを基礎から活用方法にわたって解説する。

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