理学療法学Supplement
Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-27
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シンポジウム
発達障害に対する理学療法の可能性
─発達性協調運動障害を通じて─
信迫 悟志
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抄録

 発達障害を有する児に理学療法が貢献する可能性はあるか?近年,発達性協調運動障害(DCD:Developmental Coordination Disorder)についての関心が高まっている。DCDとは,微細運動・粗大運動・バランスといった協調運動技能の獲得や遂行に著しい低下がみられる神経発達障害の一類型である。学齢期の小児の有病率はおよそ5-6%とされ,これは自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)が約1%,注意欠陥多動性障害(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)が約5%であることを鑑みると,決して稀ではないことが分かる。DCDは他の神経発達障害,すなわちASD,ADHD,そしてディスレクシアなどの学習障害とも頻繁に併存することを考慮すると,運動の不器用さで学校生活や日常生活に困難を抱える児は非常に高い割合で存在すると考えられる。また男女比は2対1,4対1,ないし7対1と報告されており,男児に多い。そしてDCDと診断された児の50-70%が青年期・成人期にもその協調運動困難が残存するとされており,DCDの病態理解と有効なハビリテーション技術の開発は,喫緊の課題となっている。DCDの病態としては,教師あり学習を担う内部モデルや模倣学習に寄与するミラーニューロンシステムといった脳機能に問題を抱えていることが分かってきている(Nobusako et al. Front Psychol 2018;Nobusako et al. Front Neurol 2018)。また運動時の特徴として視覚に依存する傾向があることや内部モデルが寄与する運動主体感にも問題があることが明らかにされつつある(Nobusako et al. Brain Sci 2020;Nobusako et al. Cogn Dev 2020)。こうした病態理解を背景に,DCDを有する児に対するハビリテーションとして,Cognitive Orientation to daily Occupational PerformanceやNeuromotor Task Trainingなどの活動・参加指向型アプローチ,アクティブビデオゲームトレーニング,運動イメージトレーニングといった介入の有効性が示され始めている。また閾値下振動触覚ノイズ刺激による確率共鳴現象を利用した介入も,DCDを有する児の不器用さを軽減する新たな物理療法として期待されている(Nobusako et al. PLoS One 2018;Nobusako et al. Front Neurol 2019)。しかしながら,DCDを有する児が抱える困難は,運動の不器用さに留まらない。DCDを有する児では,運動の不器用さから自己肯定感や自尊感情の低下および孤独感の増加といった心理面の悪化が生じやすい。また周囲の大人からの批判,心ない言葉,間違った指導,そして友達関係の悪化(嘲笑やいじめの対象となりやすい)といった環境要因が加わることによって,しばしば内在化問題(抑うつ症状や不安障害)に発展する(Nobusako et al. Front Neurol 2018)。内在化問題は,さらなる運動学習困難を引き起こすだけでなく,重症となれば,引きこもりや自決にもつながり得る。DCDやDCDを併存する発達障害を有する児に関わる理学療法士は,この悪循環について十分に理解し,運動と運動学習の専門家として,保護者や教育と連携して,この悪循環を断つ努力をしていかなければならない。そういう意味で,発達障害を有する児に理学療法が貢献する可能性は十二分にあるし,むしろ貢献していかなければならない。

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