主催: 日本理学療法士協会
脳性麻痺児に対するリハビリテーションでは,理学療法士によるハンドリングなどの徒手的矯正を中心に行われているが,これには二つの問題がある。一つは,担当する理学療法士の経験やスキルによって効果が変化してしまう点が挙げられる。このように理学療法士間の技術格差が生じると,エビデンスの構築も困難になってしまう。また,もう一つの問題は,病院内などの理学療法士が在籍している環境でしか練習を実施できないという点である。学齢期ではリハビリテーションサービスを受ける機会が減少してしまう。十分な練習量を確保するためには学校や家庭内などの病院以外の環境で運動機能の維持あるいは改善を目指すことが必要である。事実,GMFCS I-IIの脳性麻痺児に対して家庭内でtreadmill trainingを実施した場合,歩行速度が改善したと報告している研究(Mattern-Baxter K, 2013)がある。一方で,保護者による家庭内訓練(parent-delivered home-based training)を12週間実施した研究において,予定していたサンプルサイズの約1/6の人数しか募集することができず,その理由として保護者に対する負担の増大が大きな障害因子になったと述べている(Beckers L, 2019)。つまり,現実的な問題として家庭内訓練を長期間継続して実施することは非常に困難であると考えられる。さらに,練習を実施したとしても,その効果は専門職が実施した場合と比較して不十分となる可能性も懸念される。これらの問題に対する解決策が今後の課題となるだろう。
これらの問題に対して,将来的にリハビリテーションロボットが解決策になり得るかもしれない。脳性麻痺児に対するリハビリテーションロボットの有効性をまとめたレビューでは,歩行速度,歩行耐久性や運動機能の改善に有効であったと報告している(Carvalho I, 2017)。演者らの研究においても,GMFCS I-IIIの脳性麻痺児に対して両側の股関節運動をリハビリテーションロボットによって補助したところ,従来のトレッドミルトレーニングでは生じなかった歩行時の股関節運動の対称性の改善が得られた(Kawasaki S, 2020)。脳性麻痺児の膝関節の過剰な屈曲を伴う歩行は,膝関節に強い負担をかけるため,歩行を繰り返すだけではかえって痛みなどの二次障害を引き起こしてしまいやすい。しかし,このようにリハビリテーションロボットを使用することで適切な歩容で練習を実施することができれば,非常に有用であると考えられる。
さらに,リハビリテーションロボットは使用者が誰であっても同様の効果が得られる可能性が高い。したがって,もし保護者がリハビリテーションロボットを使用した場合を想定すると,操作や装着方法の習熟などの手間は生じるものの,練習中の運動の補助等は必要なく,理学療法士が不在の状況においても適切な歩容を学習できると考えられる。リハビリテーションロボットもトレッドミルトレーニングと同様に,家庭内で使用することで歩行機能の改善をもたらす可能性があるだろう。現状,脳性麻痺児に対して家庭内使用を目的としたリハビリテーションロボットは開発されていないが,もしそのようなロボットが社会に普及すれば,家庭内に限らず,特別支援学校や放課後デイなど様々な環境でも使用が可能になると考えられる。つまり,我々理学療法士が毎日子供たちの横に付き添えなかったとしても,リハビリテーションロボットがその代わりとして日常生活の中で子供たちを助けられるかもしれない。本シンポジウムでは,脳性麻痺児に対するリハビリテーションロボットの可能性について考えたい。