日本口蓋裂学会雑誌
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原著
Speech Results of the Mucosal Grafts and Flaps Method
鈴木 恵子岡部 早苗弓削 明子池本 繁弘山崎 安晴鳥飼 勝行瀬崎 晃一郎
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2012 年 37 巻 3 号 p. 197-202

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抄録

北里大学病院口唇口蓋裂診療班では1975年発足当初から,上顎発育抑制の軽減を目指して口蓋粘膜弁法による口蓋形成術を行い,1982年頃からはさらに工夫を加え粘膜移植粘膜弁法を導入した。粘膜移植粘膜弁法では,4~5歳の片側完全唇顎口蓋裂児の歯槽弓幅径,長径ともに対照群と有意差なく,良好な上顎発育が認められた。本稿では,粘膜移植粘膜弁法の術後成績を言語の観点から評価する目的で,鼻咽腔閉鎖機能,瘻孔,言語症状について検討した。対象は1983年から1991年に粘膜移植粘膜弁法を施行した48例(男26例,女22例),両側口唇口蓋裂13例,片側口唇口蓋裂23例,硬軟口蓋裂5例,軟口蓋裂7例である。明らかな発達遅滞や難聴を伴う例,粘膜下口蓋裂例は除外した。平均手術年齢は1歳4ヶ月(SD 2.2ヶ月),術者は1名であった。日本音声言語医学会口蓋裂小委員会の検査法を用い,言語聴覚士3名と耳鼻咽喉科医1名が評価した。鼻咽腔閉鎖機能は「良好」,「軽度不全」,「不全」の3種に,言語症状は「構音障害」(誤った構音位置や構音方法を示す症状)と「開鼻声」(鼻咽腔閉鎖不全を直接反映して顕れた症状)の2種に分類して集計した。最終評価時期は,構音訓練を必要としなかった例では会話レベルで成人構音が安定した時期(平均5歳2ヶ月;SD 9.5ヶ月),訓練を行った例では訓練開始時(平均5歳4ヶ月;SD 14.4ヶ月)とした。結果は,1)鼻咽腔閉鎖良好が48例中46例(95.8%),軽度不全2例(4.2%),瘻孔が2例(4.2%)に認められた。ともに二次手術は不要であった。2)構音障害が48例中15例(31.3%)に認められ訓練を要した。内訳は口蓋化構音11例,声門破裂音1例,側音化構音1例,置換3例,歪み(軟口蓋音の前方化)3例であった。3)口蓋粘膜弁法と比べ,鼻咽腔閉鎖機能,瘻孔,言語症状ともに良好で,開鼻声,声門破裂音,側音化構音の発現が低率であった。4)側音化構音の発現抑制に,鼻咽腔閉鎖機能,瘻孔とは異なる粘膜移植粘膜弁法の特性が関与した可能性が示唆された。

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© 2012 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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