抄録
顎裂部への新鮮自家腸骨海綿骨細片移植(以下骨移植)の主な目的は,形成された骨架橋に歯を排列することにある。側切歯の先天欠損がある場合には顎裂隣在の未萌出犬歯を萌出誘導,あるいはすでに萌出している犬歯を歯科矯正治療により移動して排列し,いずれも欠損補綴によらない咬合形成を目標とする。しかし,長期的に経過観察することにより,咬合形態に変化がみられる場合がある。
本症例は,左側唇顎口蓋裂36歳の女性で,7歳4ヶ月時に顎裂部への骨移植を行い,上顎左側側切歯先天欠損のため顎裂骨移植部へ左側犬歯を排列し,歯科矯正による咬合形成治療を行った。21歳時に歯科矯正治療を終了したが,その後約10年間の経過観察中,徐々に前歯部反対咬合傾向を呈したため,32歳で歯科矯正による再治療を行い,顎裂骨移植部に空隙を確保し,同部に歯科インプラントを応用,35歳で良好な最終咬合形態を獲得した。
歯科矯正により開放された骨架橋の大きさはX線CT画像により歯槽頂~鼻腔側で頬舌的幅径は約5~7mm,垂直的幅径は約11mmであった。
本症例より,目標とした最終咬合形態は長期経過でまれに変化する可能性があること,長期に歯を排列していた骨架橋は歯の移動により開放されても充分な骨量が存在することが確認された。また,口唇裂口蓋裂患者の口腔内は可能な限り,長期的管理が必要であることが示唆された。