日本口蓋裂学会雑誌
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41 巻, 3 号
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原著
  • ―第2報:言語成績―
    大湊 麗, 小林 孝憲, 児玉 泰光, 小山 貴寛, 五十嵐 友樹, 飯田 明彦, 小野 和宏, 永田 昌毅, 髙木 律男
    2016 年 41 巻 3 号 p. 173-180
    発行日: 2016/10/25
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル 認証あり
    新潟大学医歯学総合病院顎顔面口腔外科において1982年から2012年の31年間に粘膜下口蓋裂と診断し,治療開始から2年継続して経過観察を行えた80例を対象に,言語成績について検討した。全80例中,Furlow法を中心とした口蓋形成手術および言語治療を行った症例(以下,手術群)は60例であり,手術を施行せず,言語治療のみを行った症例(以下,非手術群)は20例であった。
    その結果,以下の知見を得た。
    1) 手術群の鼻咽腔閉鎖機能は,60例中38例(63.4%)が良好もしくはごく軽度不全に改善していた。手術時年齢との関連をみると,1歳台で手術を行った症例では良好な経過が得られたが,5歳台以上で手術を行った症例では約半数に不全もしくは軽度不全が残存していた。また,精神発達遅滞との関連をみると,精神発達遅滞がない群ではある群より良好な経過が得られていた。
    2) 非手術群の鼻咽腔閉鎖機能は,大きな変化はなく,良好のまま経過していた。
  • 松中 枝理子, 藤原 千惠子, 池 美保, 高野 幸子, 西尾 善子, 古郷 幹彦
    2016 年 41 巻 3 号 p. 181-191
    発行日: 2016/10/25
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル 認証あり
    【緒言】近年,子どもの視点から疾患や治療を受けながら日常生活を営むことを理解する必要性が重視されるようになってきた。これらの理解は,子どもの疾患の中でも発生頻度が高く,可視的変形を伴い,長期的な治療を要する口唇裂・口蓋裂(以下,CLPとする)を持つ子どもに関しても重要であると考えられる。特に思春期では口唇または外鼻修正術が行われ,患者の自己概念が脅かされる可能性がある。
    【目的】本研究ではCLP患者への支援の示唆を得るために,思春期のCLP患者の疾患や治療への認知の特徴を明らかにすることを目的とした。
    【方法】14~18歳のCLP患者9名を対象に行った半構造化面接に対し,疾患と治療への認知に焦点を当てて質的帰納的分析を行った。
    【結果】思春期の患者は【CLPや治療は自分の事だと思えない】,【治療を受けることは避けられない】,【治療に伴う制限や変化への適応に迫られる】という否定的認知と【CLPを持つ自分が自分だと思う】,【自分のために治療を受けようと思う】,【CLPをきちんと理解したい】,【治療を言い訳に使う】という肯定的認知を持ち合わせていた。
    【考察】思春期の患者は他者からの自分自身への評価に影響されながら疾患や治療への認知を形成しており,CLPを持って生まれてきたことへの意義を見出す過程にあることが考えられた。また,思春期の患者の中には,術前の自分の顔貌に自分らしさを感じているが,親や医師に勧められるために手術を受ける患者が存在した。さらに,生活や医療への意思決定の主体が患者に移行されにくい原因として,否定的認知の存在が示唆された。医療従事者は,本研究で示唆された否定的認知の内容を考慮しながら,患者が生活や医療への意思決定を行えるよう支援することが必要だと考えられる。
統計
  • ―九州大学病院矯正歯科における43年間の臨床統計―
    祐田 京子, 丸山 和宏, 鈴木 陽, 安永 敦, 下村 卓弘, 吉崎 恵悟, 春山 直人, 高橋 一郎
    2016 年 41 巻 3 号 p. 192-200
    発行日: 2016/10/25
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル 認証あり
    1970年8月に九州大学歯学部附属病院矯正歯科が開設されて以来,九州大学病院では口唇裂口蓋裂患者のチームアプローチを行ってきた。今回,2012年末までに当科を受診した同患者の患者数,性別,初診時年齢,裂型分類,来院患者の地域分布を調査し,片側性唇顎口蓋裂患者を対象に交叉咬合状態と咬合状態の評価を行い,以下の結果を得た。
    1.当科の全初診患者18,408名のうち口唇裂口蓋裂患者は1,844名(10.02%)で,男子973名,女子871名であった。
    2.初診時年齢は0歳~45歳に分布。最頻値は3歳であった。
    3.裂型別度数分布は,口唇裂6.7%,口唇顎裂19.3%,唇顎口蓋裂53.9%,口蓋裂20.1%であった。
    4.口唇裂口蓋裂患者の居住地の分布は,福岡県内者が1,388名と最多で,そのうち福岡市ならびにその近郊が1,226名と多かった。
    5.片側性唇顎口蓋裂患者の上顎歯列弓形態をPruzansky and Adussの判断規準に基づき,large segmentとsmall segmentの裂側の接触状態により分類した重複型21.2%,接触型70.6%,遊離型8.2%であった。
    6.片側性唇顎口蓋裂患者のセグメント交叉咬合状態を,北林らの方法を参照した河野らの方法に基づき交叉咬合の発生部位により分類した。タイプ1:26.7%,タイプ2:43.1%,タイプ3:4.2%,タイプ4:9.5%,タイプ5:10.9%,タイプ6:5.6%であった。
    7.Five-Year-Olds’ indexによる乳歯列の咬合評価の平均値は3.09であり,Goslon Yardstickによる評価は2.90であった。
    チームアプローチを行うことで,患者の出生からの情報を把握でき,一貫性のある治療の流れを得られるため,資料の評価ができ,より良い治療成果へと繋がると考えられる。
症例
  • 松井 桂子, 野上 晋之介, 高橋 哲
    2016 年 41 巻 3 号 p. 201-211
    発行日: 2016/10/25
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル 認証あり
    顎裂部への新鮮自家腸骨海綿骨細片移植(以下骨移植)の主な目的は,形成された骨架橋に歯を排列することにある。側切歯の先天欠損がある場合には顎裂隣在の未萌出犬歯を萌出誘導,あるいはすでに萌出している犬歯を歯科矯正治療により移動して排列し,いずれも欠損補綴によらない咬合形成を目標とする。しかし,長期的に経過観察することにより,咬合形態に変化がみられる場合がある。
    本症例は,左側唇顎口蓋裂36歳の女性で,7歳4ヶ月時に顎裂部への骨移植を行い,上顎左側側切歯先天欠損のため顎裂骨移植部へ左側犬歯を排列し,歯科矯正による咬合形成治療を行った。21歳時に歯科矯正治療を終了したが,その後約10年間の経過観察中,徐々に前歯部反対咬合傾向を呈したため,32歳で歯科矯正による再治療を行い,顎裂骨移植部に空隙を確保し,同部に歯科インプラントを応用,35歳で良好な最終咬合形態を獲得した。
    歯科矯正により開放された骨架橋の大きさはX線CT画像により歯槽頂~鼻腔側で頬舌的幅径は約5~7mm,垂直的幅径は約11mmであった。
    本症例より,目標とした最終咬合形態は長期経過でまれに変化する可能性があること,長期に歯を排列していた骨架橋は歯の移動により開放されても充分な骨量が存在することが確認された。また,口唇裂口蓋裂患者の口腔内は可能な限り,長期的管理が必要であることが示唆された。
  • 松村 香織, 笹栗 正明, 光安 岳志, 新井 伸作, 前野 亜実, 中村 誠司
    2016 年 41 巻 3 号 p. 212-216
    発行日: 2016/10/25
    公開日: 2016/11/16
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    断端神経腫は,末梢神経切断後に神経の中枢側断端に生ずる腫瘤である。口腔領域における報告はオトガイ孔部や下唇が主で,上唇の報告例は1例のみであった。今回,われわれは口唇形成術後に上唇に発生した断端神経腫の1例を経験したのでその概要を報告する。
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