抄録
口唇裂患者の顎顔面部における形態と機能の成長発育変化には未解明な部分が多いのが現状である。成長期患者における顎顔面部での形態と機能との関連性を包括的に明らかにすることで,より効果的な治療方法,治療タイミング等を決定する一助となると考えられる。本研究では,乳児期に口唇形成手術を受けた5~9歳の片側性口唇裂と片側性唇顎裂の患者を対象に,形態評価として三次元顎顔面形態計測および咬合関係評価(5-Year-Olds’ Index),機能評価として口唇圧,舌圧,咀嚼能率の測定を行い,それらの関連性を評価した。結果として,三次元顎顔面形態計測では年齢間での有意差は認められなかった。咬合評価では,5-Year-Olds’ Indexの値が平均で1.73であった。機能評価では,平均値がそれぞれ口唇圧2.21kPa,舌圧20.09kPa,咀嚼能率16.02mg/sであった。片側性の口唇裂と唇顎裂患者において,三次元顎顔面形態,咬合関係および口腔機能の相互関連については,①口角角度と5-Year-Olds’ Index,②キューピッド弓頂点の比と口唇圧,③赤唇表面積と咀嚼能率において,それぞれ有意な関連もしくは相関が認められた。すなわち,口角の傾きが大きくなるほど咬合関係が不良になり,キューピッド弓頂点の偏位が大きいほど口唇圧が高くなり,赤唇表面積が大きいほど咀嚼能率が良好であることが示唆された。以上の結果から,成長期の片側性口唇裂患者において,顎顔面部での形態と機能との間には一定の関連性があることが明らかとなった。