日本口蓋裂学会雑誌
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内視鏡による鼻咽腔閉鎖運動と構音の適時性に関する研究
菅井 敏郎
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1985 年 10 巻 2 号 p. 101-129

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抄録
構音に際しての鼻咽腔閉鎖運動の適時性について解明する目的で,NPF-Video装置を考案し,正常人(20名)ならびに鼻咽腔閉鎖不全患者(20名)の鼻咽腔閉鎖運動の時間的制御の分析を行った.さらに,鼻咽膣閉鎖不全患者に咽頭弁移植術を施行し,その予後と閉鎖運動の時間的制御との関係を検討した.
1.音声波形開始時点を基準とした鼻咽腔閉鎖時点(TC),最大運動時点(TM)を分析した結果,正常人の鼻咽腔は,各語音の構音に際して,語音に応じた適切な時間的制御(適時性)のもとに閉鎖や最大運動という機能を営んでいることが明らかとなった.
2.鼻咽腔閉鎖不全患者では,単に空間的な閉鎖不全を認めるのみでなく,閉鎖運動の時間的制御の面においても正常人群と異なる傾向を示し,その程度も多様であった.各症例毎にTMの測定値を正常人群の値と比較することにより,20名の患者を3群(A群6名,B群4名,C群10名)に分類することが可能であった.
3.鼻咽腔閉鎖不全患者に咽頭弁移植術を施した結果,術前に母音のTMが正常人群のTMと近似していたA,B群の全10名は,術後,鼻咽腔閉鎖の獲得とともに閉鎖運動の時間的制御が正常人群に近似するようになり,聴覚上,語音の明瞭性の十分な改善を認めた.これに対しC群では,0部の症例を除いて鼻咽腔閉鎖を獲得したが,10名とも閉鎖運動の時間的制御が正常人群と異なる傾向を示し,語音の明瞭性の十分な改善を認めなかった.このことから,鼻咽腔閉鎖不全症の診断に際して,母音の最大運動時点(TM)を知ることが,予後を推測する上で重要な因子になるものと考えられた.
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© 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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