日本口蓋裂学会雑誌
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3.痩孔閉鎖と顎発育
三村 保
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1993 年 18 巻 1 号 p. 18-27

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抄録

口蓋形成一次手術は,口蓋粘膜骨膜に広範な侵襲を加えるため,顎発育を多かれ少なかれ障害する.その上に,痩孔閉鎖術が加わると,障害は一層顕著になる可能性が高い.
痩孔閉鎖による顎発育障害を少なくする最善の方法は,痩孔を残さないことであり,そのためには,口唇形成術・口蓋形成術時の配慮が大切である.
1歳ないし1歳6ケ月頃に口蓋形成術を行ない,25-30mm2をこえる大きさの鼻口腔痩が残った場合,正常言語獲得のためには早急に閉鎖する必要がある.
この時期には閉鎖床が適応となる.痩孔の大きさや部位を問わず確実な閉鎖が得られ,顎発育に対する障害も軽微である.
手術による閉鎖は,できることなら顎発育のスパートがおさまるのを待って行うのが望ましい.閉鎖を確実に得るためには,痩孔は二層に縫合しなければならない.鼻腔側は痩孔周囲の粘膜骨膜弁を翻転して閉鎖するが,口腔側を覆う主な方法として,口蓋粘骨膜のrotation flap,前庭弁,舌弁がある.Rotation flapによる方法は簡便ではあるが,小さな痩孔に対しても広範に口蓋弁を剥離挙上し,口蓋骨表面にraw surfaceを残すため,癩痕形成が強く顎発育障害は最も強いと思われる.前庭弁は前方部痩孔に便利な方法で,若年者にも用いやすく,侵襲も少ない.
舌弁は口蓋粘膜に対する侵襲が少なく,大きい痩孔も確実に閉鎖でき,術後の療痕拘縮がないため顎発育に対する障害は最も少ない.手順が煩雑で低年齢児に行い難いのが欠点である.

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© 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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