抄録
口蓋裂単独例に対するHotz型人工口蓋床の顎発育への効果を明らかにするために,床を長期間使用した症例(床使用群)とほとんど使用しなかった症例(床非使用群)の上顎歯槽部の成長変化を,初診時と口蓋裂手術時の上顎顔面一体模型を用いて三次元的に比較検討したところ以下の結果を得た.
1.側方への発育に関しては初診時,口蓋裂手術時とも床使用群と床非使用群の間に差は無かった.
2.前方への発育では初診時は両群間に差は無かったが,口蓋裂手術時には床使用群の方に非使用群より上顎歯槽部全体の良好な発育傾向が有りy左右犬歯点と左側上顎結節点に有意差が認められた.
3.下方への発育では初診時は両群間に差は無かったが,口蓋裂手術時には床使用群の方に非使用群より上顎後方部の発育が良い傾向が有り,左右上顎結節点で有意差が認められた.
以上の床装着群における口蓋裂手術時までの良好な顎発育の傾向が今後持続するのか引き続き検討を要するが,口蓋裂単独例では手術前の乳幼児期あるいは未手術成人例でも上顎の後退や上顎後方部の劣成長が報告されており,Hotz型人工口蓋床の装着をより積極的に適用する価値があると思われた.