抄録
本研究は,上歯列弓の側方拡大前後における鼻上顎複合体の変化を三次元的に評価することを目的とした.上顎急速拡大装置を用いた口蓋裂単独患者7名のCT画像をもとに三次元像再構築を行い,正中口蓋縫合部の観察,拡大前後における三次元像および割断面の重ね合わせから形態変化の比較をした.さらに,三次元像から高骨密度領域を描出し,拡大様式との関連を検討した.その結果,正中口蓋縫合部の離開様式には,梗状離開,平行型離開の2種が観察されたが,拡大範囲は,必ずしも口蓋骨まで及んでいるわけではなかった,また,全ての症例において,鼻腔幅径・歯槽部幅径の拡大が認められたが,それより上部の変化は症例によって異なっていた,一方,骨密度分布の観察から,頬骨基部の高骨密度領域が均一に分布している症例は上部構造にまで拡大力が及ぶ傾向が見られた.
本研究の結果から,口蓋裂単独患者の上顎側方拡大による様々な反応は,単一ではなく硬軟組織欠損や綾痕の存在を伴う複雑な鼻上顎複合体の構造や骨密度などにも大きく影響されていることが示唆された.