日本口蓋裂学会雑誌
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上顎骨骨延長法を用いて治療した片側性唇顎口蓋裂患者の1例
田中 憲男中村 篤笠原 茂樹平川 崇大塚 純正柴崎 好伸工藤 昌人大野 康亮道 健一
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2001 年 26 巻 1 号 p. 142-152

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抄録

口唇裂口蓋裂を伴う患者には著しい上顎骨の劣成長による重篤な反対咬合を呈する症例がある.今回われわれは,このような上下顎骨の不調和に起因した成人反対咬合の症例に対して,上顎骨の骨延長法を用いた歯科矯正治療を行い,良好な結果を得たので報告する.
治療は従来の骨切り術による外科矯正治療と同様に,骨延長前矯正治療,骨延長後矯正治療を行い,加えて二段階的に下顎の後方移動術を行った.下顎後方移動術は,上顎骨骨延長停止後6ヵ月の保定期間を設け,下顎矢状分割術(以下SSROと略す)にて施術した.
今回用いた骨延長器は,独自に作成した延長期を使用し,特徴として,1.Le Fort I型骨切り術に創内型骨延長器として使用できる,2.骨延長器のシャフトが皮膚から出る,3.皮膚の癩痕を最小限にとどめることができる,4.骨延長後,そのまま固定装置として使えるなどがある.
実際の骨延長は延長器を頬骨に設置し,1週間の治癒期間経過後,0.5mm/dayの延長スピードで20日間行った.
治療による変化を検討するために,骨延長前,骨延長後,保定時に以下の検査を行った.すなわち,1.顔貌,咬合の評価,2.顎骨および歯の移動量,方向の評価,3.咬合接触面積および単位面積当たりの咬合力評価,4.下顎運動の評価である.
治療後,顔貌は上下ともにバランスのとれた良好な状態に改善された.上顎骨の延長量は11.4mmであった.また下顎骨の後方移動量は10mmだった.一方,保定時には良好な咬合状態を獲得できたが,咬合接触面積は骨延長前と保定時に差はなく,単位面積当たりの咬合力は骨延長前に比較して保定時の増加が認められた.また顎運動では,開口量が骨延長前に比べ骨延長後に増加し,咀噛パターンも正常に近く改善された.
これらのことより唇顎口蓋裂者の著しい上顎骨の後退と下顎骨過成長を伴う症例に対し,上顎骨骨延長術ならびに下顎後方移動術を併用した外科矯正治療が有用であることが示唆された.

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