抄録
Pushback法においては,口蓋前方部に残孔を生じることが少なくない.著者は,切歯弁(切歯動脈を茎とする島状弁)を用いることにより,十分なpush backを行いつつ,前方部を確実に閉鎖する方法を行っているので,その術式を報告した.
切歯骨部に,上顎前歯口蓋側歯肉縁を底辺とし切歯孔の後方に頂点を持つ長い三角形の粘膜骨膜弁を形成する.切歯動脈周囲に付着する結合織を十分に剥離し,血管束を延長することにより,弁はこれを茎として移動・回転可能となる.鼻腔側の縫合線を覆うように弁をずらせた後,鼻腔側粘膜とmattress sutureする.弁の前方2ケ所を前歯口蓋側歯肉と,弁の後端を口蓋弁先端と夫々anchor sutureする.
本法は,4-flap法等に比し次の利点を有する.(1) 弁の可動性が大きい.(2) 前後的に十分な長さを持った弁を作成できる.(3) 鼻腔側縫合線上を1枚の弁で覆うので創のし開がない.