抄録
唇顎口蓋裂の治療に際しては,治療の心理状態を十分配慮した治療環境を早期から整備していくことが障害改善のための一貫した治療を確立し効果を高める上で必要である.このことから,われわれは治療の初段階において母親教室を開き,本疾患の原因や治療計画,予後の展望について説明している.
この母親教室を受講した母親が,どのような心理的変遷をたどったか,当初の母親教室は母親の心理的安定にどのように関ったかを調査する目的でアンケート調査を実施した.
対象は,現在も治療を継続している患児のなかから2~4歳児の母親100人とした.調査項目は,(A) 出産前のこど,(B) 出産後のこと,(C) 今後の問題に関する17問から構成した.回答は自由記述法と選択法を併用した.調査結果から次のことが明らかになった.
a)本疾患児を出産する前の母親は,本疾患を何らかの形で知っていた.しかし疾患の理解の程度にはかなりの差異があった.
b)子供と初めて出会った時,多くの母親は強い心理的衝撃を受け,“死”を考えるものがきわめて多かった.
c)初診時に行なっている母親教室は,母親に本疾患に関する情報を与え,その情報は母親が疾患を理解する一際に役立った.
d)本疾患に対する系統的治療の過程で,多くの母親は疾患を理解したがぐ今後遭遇する問題については情報を与えられていない.したがって,今後の治療プログラムはそれらの情報をきめ細まかに組込んで整備していく必要が示された.