日本口蓋裂学会雑誌
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唇・顎・口蓋裂乳幼児(裂型別)の上顎骨歯槽部の成長発育に関する研究
溝川 信子
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1982 年 7 巻 1 号 p. 1-20

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抄録

本研究は乳幼児期における唇・顎・口蓋裂の上顎骨歯槽部の成長発育を, 被検者より採取した乳幼児顎顔面模型を資料とし, これを裂型別に, 三次元的に分析・検討し, その成長発育の違いを明らかにしたものである.研究対象は118例で, これらを片側性および両側性完全唇顎口蓋裂, 口蓋裂単独例の三裂型群に分類した.さらにこれらの症例は唇裂手術前(stage1), 口蓋裂手術前(stage2)の時期, および口蓋裂手術後ほぼ4才時に至った時期(stage3)の三段階に区分し比較検討した.特に最終段階では正常対照群との成長発育の相違を比較検討した.その結果,
stage1における片側性群と両側性群の比較では, その相違は前方歯槽部で著しく, 前者では外側方偏位を, 後者では切歯骨部の前方突出偏位を特徴としていたが, 後方歯槽部では差異を示さなかった.stage2における三裂型群間の比較では前方, 下方, 側方発育に著明な差異は認められなかった.stage3では, 三裂型群はそれぞれ異なった成長発育を示した.すなわち, 片側性群では歯槽部の前方発育に, 両側性群では下方発育に著しい成長発育障害が認められ, 両裂型群では前下方への成長発育に対する深さ, 高さの発育増加に相違を示した.口蓋裂単独群では深さ, 高さの発育増加はほぼ同程度でわずかであるが, 前下方へ均衡した成長発育を示した.stage3における三裂型群と正常対照群との比較では, 各裂型群は前方歯槽部において著明な成長発育障害を示し, 片側性群では前方発育障害を, 両側性群では下方発育障害を, そして口蓋裂単独群では前方および下方発育障害を特徴的に示した.
以上の結果, 乳幼児期における唇・顎・口蓋裂症例の上顎骨歯槽部の成長発育障害を惹起する要因は, 歯槽部自体の偏位・転位によると考えられるが, さらにこれにつながる鼻上顎複合体の構成とその成長発育にも問題があることを示唆したものである.

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