抄録
大阪大学歯学部附属病院矯正科にて混合歯列前期より歯科矯正治療を開始した片側性完全唇・顎・口蓋裂患者男子24名, 女子23名について8, 11, 14および16歳時に得られた経年的側方頭部X線規格写真を用いて頭蓋・顔面の成長を検討した.対照は2群あり, 歯科矯正未治療の片側性完全唇・顎・口蓋裂患者群男子96名, 女子93名, および非破裂者群より任意に抽出した男子47名, 女子36名である.これらについて上記の被験者群の4年齢時に対応する時期に得られた横断的, および半経年的側方頭部X線規格写真を用いた.
以上の資料のうち, 唇・顎・口蓋裂患者の上唇および口蓋の形成手術は大部分が大阪大学歯学部附属病院口腔外科で行われており, 自家骨移植術あるいは咽頭弁形成手術を受けたものは含まれていない.また, 被験者に行なった歯科矯正治療は混合歯列期における上歯列弓の拡大と側方歯交換後のedgewise法による咬合の回復であり, 下顎には全治療期間を通じてチンキャップを使用した.これらの資料より以下の研究成績が得られた.
1)被験者群の上顎部は治療開始時で劣成長を呈していたが増齢的に前後径, 前方部高径についてはcatch-upgrowthが認められた.しかし, 非破裂者と比べるとなお有意に小さな値を示していた.また下顎骨は治療開始時で前頭蓋底に対して後方に位置していたが, 増齢的にこの傾向はさらに顕著となった.2)被験者群の前頭蓋底, 上顎部および下顎骨の前後径は11歳以降, 協調しな変動を示した.3)被験者群の頭蓋・顔面形態は前頭蓋底に対する顔面の回転, および上顎部の深さを表わす2つの判別関数により特徴づけられ, 平均値の検討で示された3群間の差の増齢的な変化がより簡潔な2つの判別関数で表現され, 確認された.4)歯科矯正治療開始時で上顎部前後径が大きく, 下顎角部が後方にあったものほど治療終了時により良好な上下顎の前後的関係が得られた.