2017 年 57 巻 12 号 p. 785-787
症例は67歳男性.全身麻酔下での開心術後1日目の抜管直後より,嗄声,構音障害,舌の左側偏倚を認めた.頭部MRIでは原因病変を認めず,軟口蓋麻痺はなく,耳鼻科診察で左声帯不全麻痺を認めたため,Tapia症候群(反回神経麻痺と舌下神経麻痺の合併)と診断した.神経症状は緩徐に改善し,発症4ヶ月後にはほぼ完全に回復した.Tapia症候群は稀ではあるが,全身麻酔時の気管内挿管の合併症等として報告されている.本例では左口角から挿入していた経食道超音波のプローブが左咽頭後壁を圧迫したことが原因と考えられた.本例は術中の経食道心臓超音波検査によって生じたTapia症候群の初めての報告である.