臨床神経学
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総説
アレキサンダー病の臨床的特徴と診断基準
吉田 誠克
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2020 年 60 巻 9 号 p. 581-588

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Abstract

アレキサンダー病(Alexander disease; ALXDRD)はglial fibrillary acidic proteinGFAP)遺伝子変異を認める一次性アストロサイト疾患である.最初の報告から長期にわたり小児期発症の大脳白質疾患とされ,成人期発症の延髄・脊髄に病変の主座をもつ型が認知されたのは21世紀以降である.近年,変異GFAPの発現抑制を標的とした治療に関する基礎研究が報告されている.将来的に期待される臨床治験の実現のためには症例の蓄積と自然史の理解が重要である.本稿ではALXDRDの疫学,臨床症状,画像所見,遺伝学的特徴,および実臨床で参考になる診断基準を概説する.

Translated Abstract

Alexander disease (ALXDRD) is a primary astrocyte disease caused by glial fibrillary acidic protein (GFAP) gene mutation. ALXDRD had been clinically regarded as a cerebral white matter disease that affects only children for about 50 years since the initial report in 1949; however, in the early part of the 21st century, case reports of adult-onset ALXDRD with medulla and spinal cord lesions increased. Basic research on therapies to reduce abnormal GFAP accumulation, such as drug-repositioning and antisense oligonucleotide suppression, has recently been published. The accumulation of clinical data to advance understanding of natural history is essential for clinical trials expected in the future. In this review, I classified ALXDRD into two subtypes: early-onset and late-onset, and detail the clinical symptoms, imaging findings, and genetic characteristics as well as the epidemiology and historical changes in the clinical classification described in the literature. The diagnostic criteria based on Japanese ALXDRD patients that are useful in daily clinical practice are also mentioned.

はじめに

アレキサンダー病(Alexander disease; ALXDRD)の最初の報告は1949年にAlexanderが記載した頭囲拡大,精神遅滞,および難治性けいれんを認めた生後15か月の乳児剖検例である1.この症例の特徴的な病理学的所見は大脳白質,上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内の多数のフィブリノイド変性で,これらはのちにローゼンタル線維2と同一であることが判明した.以後約50年間にわたりALXDRDは「病理学的にアストロサイト細胞質にローゼンタル線維を認める乳幼児期発症の予後不良の進行性大脳白質疾患」と認識されてきた.しかし,2001年にBrennerらによりローゼンタル線維の構成成分の一つで,アストロサイト特異的な中間径フィラメントであるグリア線維性酸性タンパク(glial fibrillary acidic protein; GFAP)をコードする遺伝子GFAPが疾患遺伝子として報告されて以降3,乳幼児期発症例とは臨床像が大きく異なる成人期発症で緩徐進行性の経過を示す症例が相次いで報告された4)~9.現在ではALXDRDは「乳児期から成人期まで幅広い年齢層で発症するGFAP遺伝子変異による一次性アストロサイト疾患で,病理学的にはアストロサイト細胞質のローゼンタル線維を特徴的所見とする」と定義できる.

病態は細胞および動物モデルを用いた基礎研究から変異GFAPの発現量増加によりもたらされるアストロサイトの機能障害とする説が有力で10)~14,この知見に基づき,GFAPの発現抑制を治療標的としたドラッグリポジショニング15)~18や核酸医薬に関する基礎研究19が報告されている.さらにALXDRD患者の皮膚あるいは血液から確立したiPS細胞から分化誘導したアストロサイトのモデルが報告され20)~22,今後のさらなる病態および治療研究の重要なツールとなることが期待される.

このようにALXDRDは将来的に臨床治験が期待できる疾患であるが,その実現に向けて症例の蓄積と自然史の解明が重要となる.しかし,臨床的には幅広い発症年齢と多彩な神経症状を呈する超希少疾患であることから,経験豊富な脳神経内科医でも初めて本病に遭遇した際の診断は困難と思われる.また,ALXDRDの確定診断は遺伝子検査と病理学的検査によるが,実臨床では両検査とも実施できないこともありうる.

本総説では,実臨床におけるALXDRDの診断に有意義な情報となることを目的に,疫学および病型の歴史的変遷を概説した上で,臨床学的特徴と遺伝学的特徴を詳述し,さらに厚生労働省研究班において作成した本邦の実態に沿った診断基準について概説する.

ALXDRDの疫学

本邦の有病者数は約50名,有病率は1/270万人と推定されている23.海外からの有病率の報告はない.ALXDRDは長らく発症年齢により乳児型(2歳未満の発症),若年型(2歳以上14歳未満の発症)および成人型(14歳以上の発症)に分類されてきた24.病型別頻度はGeneRevies®による既報告をもとに算出したデータによると2010年は乳児型が約51%,若年型が約23%,成人型が約24%であったが,2015年には乳児型が約42%,若年型が約22%,成人型が約33%と成人型の割合が増加している25.筆者らが実施した本邦の全国調査(2009年)では成人型が48.5%と最も多く,乳児型が27.2%,若年型が24.2%であった23.成人型の経時的な比率の増加は,それまで原因不明あるいは他の神経変性疾患とされていた成人症例がGFAP遺伝子検査にて相次いで診断されたことによることは想像に難くない.

発症年齢は新生児から70歳代まで幅広い.ALXDRDは歴史的に小児期発症の印象が強いが,最近の筆者らのデータでは60歳前後の高齢者にも発症のピークを認めた26

ALXDRD患者のほぼ全例がGFAP遺伝子の変異アレルと正常アレルのヘテロ接合体で常染色体優性遺伝形式を示す.乳児型はほぼ全例がde novo変異である.一方,成人型は本邦の全国調査にて約65%で家族内発症が報告されたが23,発端者以外で遺伝子検査が行われた症例は少ない.浸透率についても明らかではない.

ALXDRDの病型

GFAP遺伝子変異陽性の成人期症例が蓄積されてきた2011年にPrustら27と筆者ら23は独立して新しい病型分類を提唱した.Prustらは既報告185症例と新規の30症例に対して統計学的手法を用いて以下の2病型に分類した27

・I型:早期発症でけいれん,大頭症,運動発達遅延,脳症,栄養不良,発作性の症状悪化を認め,典型的な頭部MRI所見28を呈する.

・II型:晩期発症で自律神経障害,眼球運動障害,球症状を認め,非典型的な頭部MRI所見9を呈する.

筆者らは本邦の全国調査にて集積した35症例の臨床症状およびMRI画像所見に基づいて以下の3病型に分類した23

・大脳優位型(1型):けいれん,大頭症,精神運動発達遅滞を認め,頭部MRIにて前頭部優位の大脳白質病変を認めることが特徴である.主に乳幼児期発症で,機能予後不良の重症例が多い.新生児期発症例では水頭症や頭蓋内圧亢進症状をきたし,生命予後不良である.

・延髄・脊髄優位型(2型):筋力低下,痙性麻痺,球麻痺/仮性球麻痺,運動失調,自律神経障害などを種々の組み合わせで認め,MRIにて延髄・上位頸髄の信号異常あるいは萎縮を認めることが特徴である.学童期から成人期以降の発症で,他の病型と比較して緩徐な経過をとることが多い.

・中間型(3型):1型および2型の両者の特徴を有する.発症時期は幼児期から成人期まで幅広い.

また,最近の症例報告では早期発症(early-onset)ALXDRDおよび晩期発症(late-onset)ALXDRDの表記も散見される29)~32.文献検索の際には混乱しかねないが,概ね筆者らの大脳優位型(1型)はPrustらのI型,古典的な乳児型,early-onset ALXDRDに,筆者らの延髄・脊髄優位型(2型)はPrustらのII型に,古典的な若年型・成人型,late-onset ALXDRDに相当すると考えてよい.筆者らの中間型(3型)は二つの病型では明確に分類できない両者の特徴を種々の程度に混在して認める病型と理解するとよい.

本総説では,以下の臨床症状,画像所見,遺伝学的特徴はearly-onset ALXDRDとlate-onset ALXDRDに分類して詳述する.

ALXDRDの臨床症状

1. Early-onset ALXDRD

けいれん,大頭症,精神運動発達遅滞が3大症状である.生命予後は約14年で,予後不良例は難治性けいれんや栄養障害,感染症などのため学童期までに死亡することが多い27.新生児期発症例は水頭症や頭蓋内圧亢進症状のために生後数週から数か月で死亡することが多い.一方で学童期までにけいれんが軽減・消失する症例も少なからず存在し,このような症例は精神遅滞と進行性の歩行障害や嚥下障害などの延髄・脊髄症状を呈するものの生命予後は比較的良好である.大頭症は乳児期から学童期にめだつが,成人になるにつれてめだたなくなる33

2. Late-onset ALXDRD

四肢筋力低下,痙性麻痺,筋強剛,四肢・体幹失調,構音障害,発声障害,嚥下障害,自律神経障害(起立性低血圧,膀胱直腸障害,睡眠時無呼吸)などの延髄・脊髄症状および小脳症状を種々の組み合わせと程度で認める.運動症状はしばしば左右差を認める.口蓋振戦は高頻度ではないが,口蓋振戦が家族性に認められる場合はALXDRDを強く疑う所見となる.認知機能障害の報告は少ないが2934)~36,行動異常を伴う症例29や生前に前頭側頭型認知症を伴う進行性核上性麻痺と診断されていた剖検例がある36.イタリア人患者8名の検討において論理的思考および注意・実行機能の低下が報告されている37.また,精神運動発達遅滞の患者において成人期以降に運動症状をきっかけにALXDRDと診断される症例もある.このような症例では熱性けいれんや原因不明の脳症の既往をもつことがある.側彎などの脊柱異常や複視を特に若年発症例において認めることがある27.一過性の反復性嘔吐が唯一の症状で,MRIにて延髄背側の結節状病変を認めたことをきっかけにALXDRDと診断された小児の症例報告があるが3839,このような症例は成人期以降に延髄・脊髄および小脳症状が顕在化する可能性がある.

生命予後は約25年27でearly-onset ALXDRDと比較して良好であるが,運動症状・球症状・呼吸症状などが急激に増悪する症例40)~42から非常に軽微な症状で高齢になって偶発的に見つかる症例43まで症例間の差が大きい.

ALXDRDの画像所見

1. Early-onset ALXDRD

van der Knaapらは病理学的に確定診断したALXDRD患者の頭部MRI所見をもとに,①前頭部優位の広範な大脳白質異常(Fig. 1A),②T2強調画像で低信号,T1強調画像で高信号を示す脳室周囲の縁取り(Fig. 1B, C),③基底核と視床の異常,④脳幹の異常(特に中脳と延髄),⑤造影効果(脳室周囲,前頭葉白質,視交叉,脳弓,基底核,視床,小脳歯状核,脳幹の1か所以上)の5項目からなるMRI診断基準を定義した.さらにこの基準を原因不明の白質脳症患児217名に適用したところ,そのうち4項目以上を満たした症例の剖検例においてALXDRDの病理学的所見と一致することを確認した28.この基準は二つの新しい病型にも取り入れられており,特にPrustらのI型では“典型的な”MRI所見としている27

Fig. 1 Typical brain MRI findings of early-onset Alexander disease (ALXDRD).

MRI characteristics of early-onset ALXDRD include predominant cerebral white matter abnormalities in the frontal lobe (A), periventricular rim, indicating high intensity on T1-weighted imaging (B) and low intensity on T2-weighted imaging (C), signal abnormalities with swelling or atrophy of the basal ganglia and thalami, brainstem lesions, and contrast enhancement28). A: a 9-year-old early-onset ALXDRD patient. B, C: a 3-month-old early-onset ALXDRD patient.

2. Late-onset ALXDRD

頭部MRIにて延髄・頸髄の萎縮・異常信号は必発である23.典型的には延髄・上位頸髄の著明な萎縮を呈する一方で橋が保たれたオタマジャクシ様(tadpole appearance)の脳幹形態を示す44(Fig. 2A).高齢者や軽症例で延髄・頸髄の萎縮が軽度の場合は,頭部MRI水平断にてメダマチョウの眼状紋様の延髄錐体の異常信号(eye spot sign)を両側性に認める45(Fig. 2B).筆者らは,脳幹正中矢状断像にて,延髄径を延髄頸髄移行部のkinkから腹側面への垂直距離,橋径を腹側部中央から第四脳室床への垂直距離とした場合(Fig. 2A’)に,延髄径(<9.0 mm)および延髄径・橋径比(<0.46)は高い感度と特異度をもって他の脳幹萎縮を伴う症例との鑑別に有用であるとする脳幹の定量的形態評価を報告した46.大脳,中脳,橋の錘体路には通常異常信号を認めない.また,10歳代前半から20歳代の若年例では延髄の結節状・腫瘤状異常信号を認めることが多い47(Fig. 2C).小脳歯状核門の信号異常(Fig. 2D)やFLAIR像にて中脳の縁取り(midbrain periventricularrim)48(Fig. 2E)も高率にみられる所見である.

Fig. 2 Variations in brain MRI findings of late-onset Alexander disease (ALXDRD).

The most frequent and specific MRI finding of late-onset ALXDRD is atrophy and/or abnormal signals of the medulla oblongata (MO) and cervical spinal cord. Typical findings are marked atrophy of the MO and an upper cervical spinal cord with preservation of the pons, described as a “tadpole appearance” (A)44). The sagittal diameter of the MO and the ratio of the sagittal diameter of MO to that of the pons (Po) can provide useful information to differentially diagnose ALXDRD from other disorders associated with brain stem atrophy in adult patients; Po is defined as the vertical distance from the midpoint of the superior and inferior borders of the anterior surface of the pons to the floor of the fourth ventricle; MO is defined as the vertical distance from just above the posterior kink at the cervicomedullary junction to the anterior surface of the MO (A’)46). In elderly patients or mild cases, abnormal signals of the pyramid of the MO, which are like “eye spots” of butterflies, can be shown (B)45). In adolescent patients, nodular or mass abnormal signals of the MO may appear (C)47). Involvement of the hilum of the dentate nucleus (D) and midbrain periventricular rim (E) in FLAIR is also frequent 48). In terms of cerebral lesions, garland-like high-intensity signal along the lateral ventricular wall is present on T2-weighted imaging, described as “ventricular garland” (white arrows). This lesion frequently exhibits a contrast effect, in which Rosenthal fibers accumulate (F)9). Cyst formation can also be shown in white matter lesions (G)49).

テント上病変はT2強調画像にてventricular garlandと表現される側脳室壁に沿った花弁状の高信号が特徴的で,ローゼンタル線維が多数出現する部分とされる9.Ventricular garlandはlate-onset ALXDRDの約半数に認めるのみであるが49,本病を疑う有益な所見である9(Fig. 2F).大脳白質病変は約80%の症例で認めるが,early-onset ALXDRDとは異なり軽度~中等度にとどまる.病変は側脳室前角周囲白質優位に認め,その広がりは発症年齢と逆相関し,認知機能低下の有無と関連を認める.その約25%に側脳室前角周囲白質病変内の囊胞化を伴う49(Fig. 2G).

ALXDRDの遺伝学的特徴

98%の症例においてGFAP遺伝子変異を認める25.これまで100種類以上のGFAP遺伝子変異が報告されている.大多数がミスセンス変異であるが,インフレーム挿入/欠失変異,終止コドン近傍のフレームシフト変異およびスプライス変異の報告もある5051.ミスセンス変異はGFAPドメインの全域に分布するが,rod domainの1A,2A,2B領域とtail domainに多く,特にCpGが関与するR79,R88,R239,R416が置換される変異は特にearly-onset ALXDRDのhot spotとされる3.筆者らはlate-onset ALXDRDで同定されたGFAP遺伝子変異に対し,配列保存性に基づいた病原性予測ツール(PROVEAN)を用いて変異の病原性予測と発症年齢の関連を検討し,“neutral” effect群は“deleterious” effect群よりも有意に高齢発症(58歳 vs 39歳)であることを示した26.特に高齢発症のALXDRDではGFAP遺伝子以外に疾患修飾因子の存在が示唆される.

ALXDRDの診断基準

Alexanderの最初の報告から約50年間,ALXDRDは「小児の大脳白質疾患」として主に成人以降を対象とする脳神経内科医には無縁の疾患と考えられていた.

しかし,GFAP遺伝子変異が疾患原因遺伝子として報告されて以降の20年で「脳幹に病変の主座をもつ成人疾患」としても認識されるようになり,症例の蓄積とともに様々な臨床病型が記載されてきた.1度でもALXDRDを経験した脳神経内科医にとってはその特徴的な画像所見から再び遭遇した際の診断は容易かもしれないが,世界的にコンセンサスが得られている診断基準がなく,さらに引用する文献の年代により病型の表記が異なることは初めてALXDRDの患者に遭遇した場合に理解を難しくすると思われる.筆者らは厚生労働省科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)「遺伝性白質疾患の診断・治療・研究システムの構築」班(2015年度)にて診断基準を作成した52(Table 1).この診断基準に挙げた神経症状の1.~3.およびMRI所見の1.~5.はearly-onset ALXDRDに,神経症状の4.~10.およびMRI所見の5.と6.はlate-onset ALXDRDに頻度の高い所見である.“definite” ALXDRDはGFAP遺伝子検査あるいは病理学的検査にて確定した場合に適用される.遺伝子検査によるバリアントの病的意義の判定は,American College of Medical Genetics and GenomicsとAssociation for Molecular Pathologyの合同ガイドライン53を参考に行われる.一方,本邦ではGFAP遺伝子検査に保険適用はなく実施施設も限られていることと病理学的検査は生前診断としては現実的でないことから,厳密に規定した神経症状とMRI所見の評価基準を満たし,明記された鑑別診断を除外できた場合は,遺伝子検査および病理学的検査を実施できなくても“probable” ALXDRDとした.Probable ALXDRDは筆者らの施設でGFAP遺伝子検査を実施した78例(GFAP変異陽性28例,GFAP変異陰性50例)を用いた検証にて感度57.1%,特異度94.0%であった54

Table 1  Diagnostic criteria for Alexander disease52).
A.神経症状
 1.けいれん
 2.大頭症
 3.精神運動発達遅滞
 4.四肢運動障害:筋力低下,痙性麻痺,小脳性運動失調,筋強剛
 5.球麻痺あるいは仮性球麻痺:嚥下障害,構音障害,発声障害
 6.自律神経障害:起立性低血圧,膀胱直腸障害,睡眠時無呼吸
 7.口蓋振戦
 8.反復性嘔吐
B.MRI所見
 1.前頭部優位の大脳白質信号異常
 2.脳室周囲の縁取り;T2強調画像で低信号,T1強調画像で高信号を示す
 3.基底核と視床の異常;T2強調画像で高信号を伴う腫脹または高・低信号を伴う萎縮
 4.造影効果;脳室周囲,前頭葉白質,視交叉,脳弓,基底核,視床,小脳歯状核,脳幹など
 5.脳幹の異常・萎縮
  1)中脳の信号異常
  2)延髄・上位頸髄の異常.
   a)橋底部が保たれ,延髄および上位頸髄が萎縮する像
   b)T2強調画像における延髄錐体や頸髄の信号異常
   c)萎縮を伴わない結節性腫瘤像
 6.小脳歯状核門の信号異常あるいは萎縮
C.遺伝子検査および病理学的検査
 1.遺伝子検査:GFAP遺伝子変異を同定
 2.病理学的検査:大脳白質,上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内に特徴的なローゼンタル線維を認める
D.鑑別診断
 Pelizaeus-Merzbacher病をはじめとする先天性大脳白質形成不全症,megalencephalicleukoencephalopathy with subcortical cysts,副腎白質ジストロフィー,異染性白質ジストロフィー,メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー,Krabbe病,vanishing white matter disease,Canavan病,脳腱黄色腫,多発性硬化症,neuromyelitis optica,急性散在性脳脊髄炎,進行性多巣性白質脳症,脳腫瘍,脳血管障害,CADASIL,CARASIL,ミトコンドリア脳筋症,遺伝性痙性対麻痺,HTLV-I関連脊髄症,ALSなど大脳白質や延髄・脊髄に病変の主座を認める疾患
確定診断:
 Definite: ①A.の1.~3.の1項目以上,およびB.の1.の所見を認める
②A.の4.~8.の1項目以上,およびB.の5.の2)に挙げる項目の1つ以上の所見を認める
  上記の①あるいは②を満たし,C.の1.あるいは2.を認めた場合
 Probable: ①A.の1.~3.の1項目以上,およびB.の1.~5.のうち4つ以上の所見を認める
②A.の4.~8.の1項目以上,およびB.の5.の2)に挙げる項目の1つ以上および6.の所見を認める
  上記の①あるいは②を満たし,D.の鑑別診断を除外できた場合

おわりに

変異GFAPの発現抑制を治療標的とした基礎研究,とりわけGfap遺伝子を標的にしたアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたモデルマウスの実験では長期的なGfapの転写および翻訳抑制効果が得られるとともに,病理学的ホールマークであるローゼンタル線維の消失,活性化アストロサイトのマーカーの正常化,体重の回復が認められた19.核酸医薬品は脊髄性筋萎縮症5556に代表されるようにすでに実用化されており,ALXDRDに対しても近い将来の臨床治験の実現が期待される.

一方,ALXDRDは症例数が非常に少ないこと,自然史が十分明らかになっていないこと,評価に用いるバイオマーカーが存在しないことなど希少疾患共通の克服すべき課題がある.診療経験豊富な脳神経内科専門医でもALXDRD患者に遭遇する機会は非常に少ないと思われるが,late-onset ALXDRDの中に他の変性疾患あるいは原因不明の変性疾患と診断されている症例が少なからず存在することが推測される.本総説がALXDRDの診断の参考となって症例がさらに蓄積されることにより,種々の課題の克服されることを切望する.

Acknowledgments

謝辞:本総説は難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築」班の補助を受けて作成した.

Notes

※著者に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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