2022 年 62 巻 10 号 p. 763-772
パーキンソン病(Parkinson’s disease,以下PDと略記)患者の痛みは代表的な非運動症状である.痛みは病期を問わずPD患者を悩ます症状の上位に位置付けられており,他の症状や生活の質に影響を及ぼす一方で,適切に評価,治療されていないことも多い.PD患者が訴える痛みは,PDの疾患と関連する痛みと関連しない痛みがあり,また,原因となる障害部位に応じて中枢性と末梢性に分けられるなど非常に多彩である.痛みの診療の際にはKing’s PD pain scaleなどのPD特異的な評価尺度を用いて痛みの種類や程度を評価し,病態に応じてエビデンスに基づいた治療方法を検討することが重要である.
Pain is a representative non-motor symptom in patients with Parkinson’s disease (PD). Pain is one of the most common symptoms that plague patients with PD regardless of the stage of the disease, also it can exacerbate other symptoms, such as depression, anxiety or sleep disturbance, and lead to impaired quality of life. However, pain is often not adequately evaluated and treated. PD patients complain of a wide variety of pain, including both PD-related pain which caused by PD-specific symptoms, for example, rigidity, bradykinesia or motor fluctuation, and PD-unrelated pain, and it can be divided into central and peripheral depending on the site of the disorder. In the medical care of the pain, it is important to evaluate the type and severity of the pain using PD-specific assessment scales such as King’s PD pain scale and to consider the evidence-based treatment methods according to the pathophysiology of the pain.
パーキンソン病(Parkinson’s disease,以下PDと略記)患者の痛みは1817年のJames Parkinsonによる最初の症例報告ですでに記載されていた症状である1).それから約200年が経過し,現在では3~8割の患者に発現する頻度の高いPDの非運動症状であることが知られている2)~4).PDの進行に伴い痛みを有する患者の割合は高くなるが,PD患者の5.5%で痛みが初発症状であったことや5),早期PD患者の約半数で痛みを伴うことが報告され6),痛みはしばしばPD発症早期に出現する症状と認識されている.PD患者における痛みの治療法は確立しておらず,痛みはうつ7)や睡眠障害8),生活の質(quality of life,以下QOLと略記)の低下9)と関連する.一方で医療従事者の認識不足10),患者が主治医に未申告のことが多い11)などの理由で,患者の約半数が適切な治療を受けていないとの報告もある12).PD患者に伴う痛みの適切な認知,評価がなされ,治療に適切につながればPD患者のQOLの向上に寄与できる可能性がある.本総説では,PDの痛みについての生理学,臨床的特徴,対処法について考察を行う.
痛みの情報伝達に関わる神経回路には,上行性の伝導路と下行性の抑制系がある.上行性伝導路では,侵害刺激が末梢の侵害受容器により神経活動に変換され,痛みを伝達する末梢神経(Aδ線維,C線維),脊髄後角,視床などを経て大脳皮質へと上行性に伝達される.Aδ線維,C線維,脊髄後角には電位依存性ナトリウムチャネルが発現している13)14).一方,脊髄後角への侵害刺激の入力は上位中枢から投射する下行性疼痛抑制系により調整されている.下行性疼痛抑制系には,ドパミン,セロトニン,ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が関わる15).動物実験では下行性疼痛抑制系においてドパミン受容体D1受容体ファミリーは痛みの発現や維持に,D2受容体ファミリーは抗侵害受容作用に関与することが報告されているが16),側坐核では逆の作用が報告されるなど17),ドパミン受容体の種別における痛みに対する臨床的影響を考察することは難しい.
侵害受容性疼痛は,皮膚や骨,関節,筋肉,結合組織といった体性組織への機械的刺激により侵害受容器が活性化され,これらの伝達経路を介して生じる痛みである.一方,神経障害性疼痛とは末梢神経,末梢の侵害受容器,中枢神経系自体の損傷の結果,これらの疼痛の伝達・抑制機構の異常により生じる痛みである18).2017年に第3の痛みとして,痛覚変調性疼痛が定義された.痛覚変調性疼痛は,侵害受容の変化によって生じる痛みであり,末梢の侵害受容器の活性化をひきおこす組織損傷またはそのおそれがある明白な証拠,あるいは,痛みをひきおこす体性感覚系の疾患や傷害の証拠がないにもかかわらず生じる痛みと定義されている19).
PD患者で認められる痛みは,PDと関連する痛み(PD関連痛)と関連しない痛み(PD非関連痛)がある.ここではPD患者が経験する痛み全般を “PDの痛み” と定義し,そのうちPDに起因する痛み,またはPDによって悪化する痛みを “PD関連痛” と表現する.
PDの痛みの原因は,障害部位に応じて中枢性と末梢性に分けて考えることができる(Fig. 1).中枢の障害による痛みは,侵害刺激に対する疼痛閾値の低下20),上行性疼痛伝達路の活性化20),下行性疼痛抑制系の減弱21),心理的要因により神経障害性疼痛を引き起こしたり,筋強剛による持続的な機械刺激により侵害受容性疼痛を引き起こすことがある22).

Possible mechanisms underlying pathological pain processing in PD patients. In PD patients, pathological nociceptive processing arises from neurodegenerative changes and dysfunction at multiple levels of the nociceptive pathways- central (both dopaminergic and nondopaminergic neurotransmitter systems) and peripheral. PD: Parkinson’s disease.
PD患者ではoff時に痛みの閾値が低下し23)~25),痛みが増悪することが知られており26),臨床においては早朝のoff時のジストニアに伴う痛みや,夕方および深夜帯のドパミンが減少した時間帯に発現する痛みがある27).また,PD患者では,機械的刺激による侵害受容性疼痛を誘発した際に,痛みの上行性経路の一つであるmedial pain pathwayに含まれる島や帯状皮質の神経活動が増加し,L-dopa投与により同部位の神経活動が抑制されることが報告されている20).PDの痛みの一部は抗PD薬により改善することがあることも,ドパミンの欠乏がPDにおける痛みの原因の一つであることを示唆している20)23)26)28).下行性疼痛抑制系においては,前述の通り,ドパミンだけでなく,セロトニン,ノルアドレナリンも関与し15),情動やストレスなどによる心理的要因も痛覚の調整に影響する.PD患者では,縫線核や青斑核でも神経変性が認められることから,下行性疼痛抑制系の減弱が21),疼痛閾値の低下に寄与する可能性がある.
末梢の障害による痛みについては,皮膚生検を行ったPD患者の56.9%でsmall fiber neuropathyを認めたと報告されている29).また,Dopplerらは皮膚生検におけるリン酸化αシヌクレインの形態や神経線維の減少パターンから,PDにおいては末梢神経と中枢神経の変性に共通のメカニズムがあると推定しており30),Reichlingらは一次求心性侵害受容器における神経変性メカニズムが神経障害性疼痛の原因になると考察している31).これらは神経障害性疼痛や侵害受容性疼痛の増強に関与すると思われる.一方,PD患者においては表皮神経線維やマイスナー小体の減少32)により感覚刺激に対して感受性が低下しているとの報告もある(Fig. 1).
その他のPDの痛みの病態生理としては内因性オピオイドの減少33),遺伝子変異の関与が挙げられる.中枢性,末梢性といった障害部位によらず,PDの痛みに関与する遺伝的素因が知られており,catechol-O-methyltransferase(COMT),sodium voltage-gated channel alpha subunit 9(SCN9A),fatty acid amide hydrolase(FAAH)遺伝子内の一塩基多型,PINK1の病的多型,あるいはtransient receptor potential cation channel, subfamily M, member 8(TRPM8)とPDの痛みとの関連が報告されている34)~37).最後に,近年,腸内細菌叢と内臓痛の関係が動物実験や過敏性腸症候群の患者で示唆されている38)39).PDに伴う腸内細菌叢の異常(dysbiosis)とその代謝物が迷走神経や腸管神経系ニューロンを直接的またはサイトカインを介して間接的に活性化し,内臓痛に関与するのではないかとの推察もあるが40),結論は出ておらず今後の更なる検討が待たれる.
痛みは早期,進行期を問わずPD患者を悩ますことの多い症状である41).PD患者の48.4%で痛みにより日常生活が中等度から重度に支障を来し,10.2%の患者では痛みが最も苦痛を伴う症状であったと報告されており5),PDの痛みのケアは重要な課題である.また,痛みを有するPD患者は痛みそのものだけでなく,うつや不安,睡眠の質の悪化に伴いQOLが低下することが報告されている42).
PD患者で認める慢性疼痛のうちPD関連痛は60%であり,残りの40%は変形性関節症などによるPD非関連痛であったとの報告もあり43),治療反応性の観点からも様々な痛みが存在する.痛みのメカニズムに基づいてPD関連痛を分類した報告では,PD関連痛を77%で認め,その内訳は侵害受容性疼痛55%,神経障害性疼痛16%,痛覚変調性疼痛22%であった44).
PDの痛みの多様性から様々な分類が提案されており,定まった分類法は確立していないが,病因に基づくFordの分類(筋骨格系疼痛,根性・末梢神経性疼痛,ジストニア関連痛,中枢性疼痛,アカシジアに関連した痛み)や痛みの出現するタイミングによるQuinnらの分類がよく知られている45)46).PD患者の24%はFordの分類を用いた評価で2種類の痛みを,5%は3種類の痛みを訴えたとの研究報告があり,複数の機序による痛みが混在することも痛みの把握を難しくしている47).近年,PD関連痛をメカニズムに基づいて侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,痛覚変調性疼痛のいずれかに分類するフローチャート式の分類システムが提唱された44).この論文の中では痛覚変調性疼痛としてはdopamine agonist withdrawal syndrome(DAWS),dopamine dysregulation syndrome(DDS),下肢静止不能症候群などに伴う痛みが挙げられている.
〈評価〉King’s PD pain scale(KPPS)は,Movement Disorder Society(MDS)が推奨するPDの痛みの評価尺度で,原因45)や日内変動との関連46)に基づいて痛みを七つのドメイン(筋骨格の痛み,慢性の痛み,症状の変動に関連した痛み,夜間の痛み,口腔顔面の痛み,変色:浮腫/腫脹,神経根の痛み)に分類し,14個の質問に対して医療従事者が定量的に痛みの重症度と頻度を評価できる48)(Table 1).一方,King’s PD pain questionnaire(KPPQ)は自己記入式で症状の有無を回答するスクリーニングツールである49)(Table 2).KPPS,KPPQは日本語版の開発がなされており,日本においてその活用が期待される50).痛みが項目として含まれるPD特異的な評価尺度としてMDS-Non-Motor Symptoms Scale(MDS-NMS)51)等が存在する(Table 3).MDS-NMSは13のドメインからなるPD患者の非運動症状の評価尺度であり,痛みについては筋骨格系の痛み,鈍痛,ジストニアに伴う痛みなどの評価が可能である51).
| 領域 | 質問 | PD患者の 有病率 (control)* |
|---|---|---|
| 筋骨格の痛み | 患者さんは関節周囲に痛みがありますか?(関節炎の痛みや腰痛を含みます) | 78.67% (77.33%) |
| 慢性の痛み | 患者さんは体の深部に痛みがありますか?(全体的に持続的で,鈍く,うずくような痛み-中枢性疼痛) | 40.00% (30.00%) |
| 患者さんは内臓に関係した痛みがありますか?(例えば,肝臓,胃もしくは腸の痛み-内臓痛) | ||
| 症状の変動に 関連した痛み |
患者さんはジスキネジアに関連した痛みがありますか?(異常な不随意運動に関連した痛み) | 56.33% (12.00%) |
| 患者さんは特定の部位にオフ時のジストニアに伴う痛みがありますか? | ||
| 患者さんはオフ時に全身の痛みがありますか?(ジストニアとは離れた部位の痛み) | ||
| 夜間の痛み | 患者さんは夜間に生じる下肢のけいれん様運動による痛み(周期性四肢運動)もしくは動作によって改善する下肢の不快な灼熱感(レストレスレッグズ症候群)による痛みがありますか? | 57.33% (28.67%) |
| 患者さんは夜間にベッドで寝がえりをうつのが難しいことによる痛みがありますか? | ||
| 口腔顔面の痛み | 患者さんは噛む時の痛みがありますか? | 13.00% (14.00%) |
| 患者さんは夜間の歯ぎしりによる痛みがありますか? | ||
| 患者さんは口腔灼熱症候群がありますか? | ||
| 変色;浮腫/腫脹 | 患者さんは手足に灼けるような痛みがありますか?(しばしば腫脹やドパミン系治療に関連する) | 31.67% (23.33%) |
| 患者さんは下腹部全体的に痛みがありますか? | ||
| 神経根の痛み | 患者さんは手足に放散する痛み/ピリピリした痛みがありますか? | 42.33% (22.00%) |
KPPS: King’s Parkinson’s disease pain scale, PD: Parkinson’s disease. *: Martinez-Martin et al., European Journal of Neurology 2018;25:1255-1261.
| パーキンソン病の痛み パーキンソン病の運動症状は良く知られています.しかし,痛みのような運動症状以外の問題は病状もしくは治療の一環として起こることがあります.医師があなたの痛みの特有のタイプを知ることは,特にそれがあなたにとって不快な場合に重要です. いくつかのタイプの痛みが以下に記載されています. ● もしあなたがこの1ヶ月間に特有のタイプの痛みを経験した場合は「はい」にチェックして下さい. ● もしあなたがこの1ヶ月間に痛みを経験していない場合は「いいえ」にチェックして下さい. ● 医師や看護師があなたの判断を助けるために追加の質問をするかもしれません. この質問票はあなたが最近30日間に経験した痛みだけに関係していることに注意してください. |
||
| この1ヶ月間に以下のいずれかを経験したことはありますか? | ||
| 1 | 関節周囲の痛み(関節炎に関連した痛みや腰痛を含む) | はい □ いいえ □ |
| 2 | 特定の内臓に関係した痛み(例えば,胃もしくは腸の痛み) | はい □ いいえ □ |
| 3 | 部位が特定できない腹部の痛み | はい □ いいえ □ |
| 4 | 部位が特定できない体の奥の痛み:全体的に持続的で,鈍く,うずくような痛み | はい □ いいえ □ |
| 5 | 異常な不随意運動に伴う痛み(※ジスキネジアに関連した痛み) | はい □ いいえ □ |
| 6 | オフ時(薬が効いていない時間)の痛みを伴った筋肉のけいれん | はい □ いいえ □ |
| 7 | オフ時の全身の痛み(筋肉のけいれんではないもの) | はい □ いいえ □ |
| 8 | 夜間に生じる下肢のけいれん様運動による痛み,もしくは動作によって改善する下肢の不快な灼熱感(むずむず脚症候群)による痛み | はい □ いいえ □ |
| 9 | 夜間にベッドで寝がえりをうつのが難しいことによる痛み | はい □ いいえ □ |
| 10 | 噛む時の痛み | はい □ いいえ □ |
| 11 | 夜間の歯ぎしりに関連した痛み | はい □ いいえ □ |
| 12 | 口の中の灼けるような感覚 | はい □ いいえ □ |
| 13 | 手足の灼けるような痛み(しばしば腫れや薬物治療によるむくみに関連する) | はい □ いいえ □ |
| 14 | 手足に走るような痛み/ピリピリした痛み | はい □ いいえ □ |
※ジスキネジア:薬の副作用で,体や手足が勝手に不規則に動くこと.KPPQ: King’s Parkinson’s disease pain questionnaire.
| Name | Assessment Type | Severity | Frequency | Types of pain | Location of pain | Summary | References |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Disease-specific pain rating scale for PD | |||||||
| KPPS | ClinRO | ◎ | 〇 | 〇 | It is a scale specifically designed for the assessment of pain in PD. The KPPQ can assess the presence of various types of pain, and the KPPS can assess the frequency and severity of various types of pain in PD. | (48, 49) | |
| KPPQ | PRO | 〇 | |||||
| PD-PCS | ClinRO | 〇 | 〇 | 〇 | It was developed to differentiate PD-related pain from non-PD-related pain and classify PD-related pain into 3 groups. Severity of PD-related pain syndromes was scored by ratings of intensity, frequency, and interference with ADL. | (44) | |
| Symptom rating scale for PD (pain-related items) | |||||||
| UPDRS (Part II item 17) |
ClinRO | 〇 | It is used to determine if symptoms indicate a sensory disorder associated with Parkinson’s syndrome. | Martinez-Martin et al. (1994), Tsuboi et al. (2021) | |||
| MDS-UPDRS (Part I item 1.9) |
ClinRO·PRO | 〇 | Evaluate pain and other sensory abnormalities. | Goetz et al. (2008) | |||
| PDQ-39 (Bodily Discomfort, item 37–39) | PRO | 〇 | 〇 | The PDQ-8 assesses painful muscle cramps and spasms, while the PDQ-39 can assess joint and body aches and pains, as well as unpleasantly hot and cold sensations. | Peto et al. (1998), Hagell et al.(2009), Chen et al. (2017) | ||
| PDQ-8 (item 37 in PDQ-39) | PRO | 〇 | 〇 | ||||
| NMSS (item 27) | ClinRO | 〇 | 〇 | One of the 30 items is a question about pain. | Chaudhuri et al. (2007), Chaudhuri et al. (2006) | ||
| NMSQ (item 10) | PRO | ||||||
| MDS-NMS (domain L) |
PRO | 〇 | 〇 | 〇 | One of the 13 domains is a question about pain, and the severity and frequency can be assessed for four types of pain. | (51) | |
| NoMoFA (item 20) |
PRO | 〇 | You can evaluate if the pain is related to the wearing-off phenomenon. | Kleiner et al. (2021) | |||
ADL: Activities of daily living, ClinRO: Clinician-reported outcome, KPPQ: King’s Parkinson’s disease Pain Questionnaire, KPPS: King’s Parkinson’s disease Pain Scale, MDS-NMS: International Parkinson and Movement Disorder Society-Nonmotor Rating Scale, MDS-UPDRS: Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale, NMSS: new 30-item scale for the assessment of Non-motor symptoms in PD, NMSQ: Non-Motor Symptoms Questionnaire, NoMoFA: Non-Motor Fluctuation Assessment, PD: Parkinson’s disease, PD-PCS: PD-Pain Classification System, PDQ: Parkinson’s Disease Questionnaire, PRO: Patient-reported outcome, UPDRS: Unified Parkinson’s Disease Rating Scale, ◎: Recommended by Movement Disorder Society.
PDの痛みに対する効果が検討された代表的な臨床研究を表に示した(Table 4).Qureshiらの25個のランダム化比較試験のメタアナリシスの報告によるとドパミンアゴニスト,モノアミン酸化酵素B阻害薬,鎮痛薬,外科的治療等のうち,safinamide,cannabinoids,opioids等の有効性が高いことが示唆されている52).また,MDSのエビデンスレビューでは,rotigotineとoxycodone-naloxone prolonged release(本邦未承認)が痛みに対する薬物治療として記載されているが,いずれもinsufficient evidenceとされており53),今後更なる検討が必要である.
| Class of interventions | Intervention | Type of study | Patients | Assessment | Number of patients (intervention group vs control group) | Duration of study | Summary of pain-related outcomes | Author (Year) | Study name |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| anti-Parkinson’s disease drugs | rotigotine | RCT Pilot Study | PD with pain | KPPS, NRS (Likert pain scale) | 30 vs 30 (Placebo) | 12 weeks | Numerical improvement in pain (Likert pain scale score and KPPS domain “fluctuation-related pain”) was monitored. | Rascol et al. (2016) | DOLORES |
| RCT, post-hoc analysis | PD with pain/without pain | Likert pain scale | 178 vs 89 (Placebo) | 4 weeks | Improved “any” pain in patients with pain. | Kassubek et al. (2014) | RECOVER | ||
| apomorphine | RCCT | PD with/without pain | Pain thresholds | 25 cross over | 2 days | Did not raise the pain threshold. | (64) | — | |
| safinamide | Open label, single arm | PD with pain | KPPS, BPI, NRS | 13 | 12 weeks | Improved KPPS, BPI intensity and interference and NRS. | (62) | — | |
| Open label, single arm | PD with NMS | KPPS, VAS, PDQ-39 pain, discomfort | 50 | 24 weeks | Improved KPPS (musculoskeletal pain, fluctuation-related pain, and nocturnal pain, but not other types of pain). | (63) | SAFINONMOTOR | ||
| analgesics | duloxetine | RCT | PD with pain | VAS, McGill | 23 vs 23 (Placebo) | 10 weeks | Did not improve VAS and McGill scores. | (70) | — |
| oxycodone-naloxone | RCT | PD with pain | NRS, KPPS | 93 vs 109 (Placebo) | 16 weeks | Did not improve NRS score significantly, but improved musculoskeletal pain and nocturnal pain. | Trenkwalder et al. (2015) | PANDA | |
| Others | STN-DBS | Open label, single arm | PD with sensory symptom | QST, Pain DETECT, NRS | 17 | 24 weeks | Did not raise pain threshold. | Gierthmuhlen et al.(2010) | — |
| RCCT | PD with/without pain | Pain threshold | 19 cross over | 3 days | Raised pain threshold for mechanical stimulation. | Marques et al. (2013) | — | ||
| Open label, single arm | PD with/without pain | NRS, UPDRS item 17 | 21 | 2 years | Reduced pain in the off state | Kim et al. (2012) | — | ||
| Open label, single arm | PD with pain | VAS | 69 | 1 year | Reduced musculoskeletal and dystonic pain. Somatic or radicular/peripheral neuropathic pain also reduced, but included patients who had undergone spinal surgery. | (68) | — | ||
| botulinum toxin | RCCT | PD with pain | NRS | 12 cross over | 2 days | Did not improve NRS, but greater reduction in NRS in patients with dystonic pain. | Bruno et al. (2017) | — | |
| CES | RCT | PD with pain | NRS | 6 vs 7 (sham) | 6 weeks | Reduced chronic musculoskeletal pain. | (75) | — | |
| TMS | RCT | PD with musculoskeletal pain | NRS | 24 vs 24 (sham) | 4 weeks | Improved NRS in patients with musculoskeletal pain. | (74) | TMSPDP | |
| SCS | Open label, single arm | PD with refractory pain | VAS | 15 | 4 weeks | Improved VAS in patients with pain refractory to medical therapy and other conservative treatments. | (72) |
BPI: brief pain inventory, CES: cranial electrotherapy stimulation, DBS: deep brain stimulation, KPPS: King’s Parkinson’s disease pain scale, McGill: McGill pain questionnaire, NMS: non-motor symptoms, NRS: numeric rating scale, PD: Parkinson’s disease, PDQ: Parkinson’s disease questionnaire, QST: quantitative sensory testing, RCT: randomized controlled trial, RCCT: randomized controlled crossover trial, SCS: spinal cord stimulation, STN: subthalamic nucleus, TMS: transcranial magnetic stimulation, UPDRS: unified Parkinson’s disease rating scale, VAS: visual analog scale. We searched for the words “RCT x pain x Parkinson’s disease” and “KPPS x pain x Parkinson’s disease” in December 2021, and listed the relevant pharmacotherapy evidence for PD patients with pain. The evidences for others (STN-DBS, botulinum toxin, CES, TMS, SCS) were described as representative evidences regardless of the search results.
PD診療ガイドライン54)を参考に,最近の臨床的エビデンスも踏まえて,PDの痛みに対する治療アプローチの案を提示する44)55)~57)(Fig. 2).

1)Chaudhuri KR, et al. Lancet Neurol. 2009. 改変
2)Cury RG, et al. Eur J Pain. 2016. 改変
3)Karnik V, et al. Can J Neurol Sci. 2020. 改変
4)Mylius V, et al. Drugs Aging. 2021. 改変
5)パーキンソン病診療ガイドライン2018. 改変
PD: Parkinson’s disease, DBS: deep brain stimulation, LCIG: levodopa-carbidopa intestinal gel.
最初のステップは丁寧な問診でPD関連痛かPD非関連痛かを評価することである.①PDの発症,進行と痛みの発症,悪化に関連があるか,②PDの症状が認められる側で痛むか,③筋強剛,運動緩慢,振戦が悪化すると痛みも悪化するか,④痛みがジスキネジアと関連しているか,⑤抗PD薬で痛みが改善するかなどについて聴取し,当てはまればPD関連痛と判断し,PDの運動症状,非運動症状,運動合併症に対する治療の最適化が次のステップになる44)55)56).これらの質問でPD非関連痛と判断された場合,痛みのメカニズムに基づき治療戦略を立てていく.
痛みの解消は治療目標の一つであるが,薬物治療の副作用を考慮し,患者のQOLや日常生活動作の向上につながる治療を行うことが重要である.海外の報告では,PD患者の痛みの治療は62%が整形外科医によって,50%がかかりつけ医によって行われており5),多様な痛みに対処するために診療科や職種を超えた連携が必要である58).特に,抗PD薬の調整で効果不十分なPD関連痛やPD非関連痛の場合は,痛みのメカニズムに応じて適宜,麻酔科医,ペインクリニック外来などとの連携が重要になってくると筆者らは考える.
〈PD関連痛の治療〉 ① PDに対する薬物療法PD関連痛に対する薬物療法としては,まずは運動症状,非運動症状,運動合併症に対する抗PD薬の最適化を行うことが重要である.L-dopaはVisual analogue scaleで評価した痛みをオフ時に比べてオン時に51%改善し59),Wearing-Off Questionnaire-9(WOQ-9)を用いた評価ではmuscle crampの57%,痛みの46%がL-dopa反応性を示したことが報告されている60).また,抗PD薬の中ではrotigotine(主に侵害受容性疼痛)61),safinamide(侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛)62)63),apomorphine(神経障害性疼痛)64)の有効性が報告されている.オフ時の痛みやジスキネジアに関連した痛みなど運動合併症との関係が認められる場合は,持続性ドパミン刺激を目指した治療戦略が基本となり54),レボドパカルビドパ経腸療法の有効性の報告もある65).ジストニア関連痛に対しては,ボツリヌス毒素による治療も考慮してよい66).DAWS,DDS,下肢静止不能症候群に伴う痛み(痛覚変調性疼痛)に対しても抗PD薬の調整が有効である67).
上述のKPPSやKPPQによる評価を治療に活用することも重要である.例えばKPPSの “fluctuation-related pain” は運動合併症による痛みを示唆しており,“pain while turning in bed” は夜間の無動を反映している可能性があるため48),それに応じた対応を行う.
② PDに対する非薬物療法筋骨格系の痛み,ジストニア関連痛,オフ時の痛みに対しては脳深部刺激療法が有効であるとの報告がある68).運動療法の有効性も報告されている69).
③ その他の治療これらの治療でも改善が不十分なPD関連痛に対しては,神経障害性疼痛や侵害受容性疼痛,痛覚変調性疼痛などの痛みの種類に応じて,追加的な治療アプローチを考慮することが必要となる(Fig. 2).
神経障害性疼痛に対して有効であるとされるSNRI(デュロキセチン)のPDの痛みに対するプラセボ対照試験では,主要評価項目を達成されず有効性は明らかにならなかった70).プレガバリンなどのα2δリガンドもPDの痛みに対する有効性を支持するエビデンスは報告されていない71).一方,治療抵抗性の神経障害性優位の慢性痛に対し,脊髄刺激療法が有効であったとの報告がある72).
侵害受容性疼痛には,筋骨格系の痛みや腹部痛,皮膚の痛みなどが含まれる73).ランダム化比較試験で経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation)74),cranial electrotherapy stimulation75)の筋骨格系の痛みに対する有効性が示唆されている.抗PD薬で改善しない腹部痛には胃腸の運動や便秘が影響している可能性があるため,その治療を検討することが必要である73).
抗PD薬の適正化で改善しない下肢静止不能症候群に伴う痛み(痛覚変調性疼痛)の治療にはオピオイドや抗てんかん薬が有効な場合がある76).今後,KPPSなどを用いた痛みの包括的評価,痛みのメカニズムを意識した臨床研究が進めば,PDの痛みに悩む患者にエビデンスに基づく治療を提供できるようになるであろう.
PDにおいて,痛みは病期を問わず高頻度に発現する非運動症状で,off時にしばしば悪化しQOLに影響を及ぼすため,KPPSやKPPQなどを活用しながらPDの多様な痛みを正確に評価し適切な治療を行うことが重要である.
PD関連痛に対しては,まずは運動症状や運動合併症との関連を調べて抗PD薬の最適化を行うことが重要であり,それでも効果が不十分な時は痛みのメカニズムを意識した治療薬,治療方法の選択が重要になってくる.
PDの痛みをターゲットとして,慢性疼痛に対するsafinamide(NCT03841604),神経障害性疼痛に対するoxycodone(NCT02601586),筋骨格系の痛みに対するTMS(NCT04546529)の有効性を検証する臨床研究が海外で現在進行中であり,結果が待たれる.
謝辞:本総説はKPPS妥当性研究グループである著者が企画し,KPPS妥当性研究の研究費支援を行っているエーザイ株式会社が賛同して企画会議に参加した.エーザイ株式会社の資金と資料の提供のもと,独立性を保つため,株式会社サンフレアがメディカルライティングなどの編集支援を行い,エーザイ株式会社は投稿費用を負担した.全ての著者は,医学雑誌編集者国際委員会の規定する著者資格基準を満たしており,論文の内容について起草と修正,確認を行った.エーザイ株式会社は最終稿を確認したが,内容には関与していない.
※本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業・組織や団体
〇開示すべきCOI状態がある者
藤岡伸助:講演料:エーザイ株式会社,坪井義夫:講演料:エーザイ株式会社,大日本住友製薬株式会社,武田薬品工業株式会社,ノバルティスファーマ株式会社,アッヴィ合同会社,大塚製薬株式会社,小野薬品工業株式会社,協和キリン株式会社,株式会社サンウェルズ,ニプロ株式会社
〇開示すべきCOI状態がない者
関守信,栗原可南子,今野卓哉
本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.