臨床神経学
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症例報告
抗IL-12/23抗体製剤使用中に顕在化した神経・筋サルコイドーシスの72歳女性
佐野 宏徳前田 敏彦佐藤 亮太清水 文崇古賀 道明神田 隆
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2022 年 62 巻 6 号 p. 475-480

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要旨

69歳時に乾癬を発症,3年後に眼・肺サルコイドーシスの診断を受けていた72歳女性.乾癬の悪化に対し抗IL-12/23抗体製剤ustekinumabを使用後,呼吸苦と体幹・四肢近位筋の筋力低下が悪化し入院した.筋病理で非乾酪性類上皮肉芽腫と多くの筋線維にmajor histocompatibility complex class Iの高発現がみられ,軸索障害所見,針筋電図で近位筋の安静時自発放電を伴う筋原性変化があることから,神経・筋サルコイドーシスと診断した.抗体製剤中止とステロイド治療で症状は軽快した.IL-12/23の生物学的活性阻害によりTh1/Th17細胞の分化に不均衡を生じTh1細胞の分化が活性化することが病態形成に関与したと考えた.

Abstract

A 72-year old woman, who had a history of psoriasis and psoriatic arthritis from age of 69, was admitted because of acute progression of dyspnea and generalized muscle weakness after initiation of ustekinumab. She had been diagnosed as having lung and eye sarcoidosis ten months before admission. Nerve conduction studies revealed multiple mononeuropathy and needle electromyography showed myogenic changes with spontaneous activities. Muscle pathology showed non-caseating epithelioid granuloma and high expression of HLA-class I in myofibers. Diagnosis of sarcoid myopathy and neuropathy aggravated by ustekinumab was made, and ustekinumab administration was discontinued, resulting in slight improvement of her respiratory and neuro-muscular symptoms, but her symptoms remained severely disabled. Treatment with oral steroids further improved her clinical symptoms and she became able to walk independently. We considered that ustekinumab inhibited IL-12 and IL-23 signaling, which caused an imbalance in Th1/Th17 differentiation and activation of Th1 cell differentiation, thereby promoting the development of sarcoid myopathy and neuropathy.

はじめに

サルコイドーシスは免疫学的機序により全身の臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が形成される原因不明の疾患である.近年,汎用されるようになった様々な生物学的製剤によりサルコイドーシスの発症が報告されているが‍1,これまでに神経・筋病変の報告はない.乾癬および乾癬性関節炎に有効性が示されているustekinumabは,IL-12とIL-23に共通して存在するp40サブユニットを認識するヒトIgG型モノクローナル抗体であり,T細胞や抗原提示細胞上の受容体への結合を阻害し,IL-12とIL-23の生物学的活性を阻害する.IL-12とIL-23は,それぞれTh1細胞とTh17細胞の分化に関与し,サルコイドーシスの病態形成に重要な役割を担うと考えられている‍2.今回,眼・肺サルコイドーシスの診断を受けていた乾癬患者に対しustekinumabによる治療開始後,新たに神経・筋サルコイドーシスが顕在化し,悪化した症例を報告する.

症例

症例:72歳,女性

主訴:体動時の息苦しさ,四肢筋力低下

既往歴:高血圧症,68歳 緑内障,69歳 尋常性乾癬,乾癬性関節炎.

生活歴:喫煙10本/日(40歳まで),飲酒・アレルギーなし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴: 2017年(69歳時)四肢・体幹の広範囲に鱗屑を伴う浸潤性の紅斑を生じ,2018年に前医皮膚科を受診,角質内に核が残存する不全角化をみとめ尋常性乾癬と診断された.また,両手指DIP関節の屈曲変形,疼痛をみとめ,抗CCP抗体が陰性であり乾癬性関節炎の合併が想定された.シクロスポリンで皮疹,関節炎は軽快した.2019年夏頃から腕で重い荷物を提げられず,長距離の歩行が困難になった.11月近医を受診し,体幹筋と四肢近位筋の軽度筋力低下,creatine kinase(CK)軽度上昇があったため薬剤性筋障害を疑われ,シクロスポリンは中止されたが症状は改善しなかった.2020年5月飛蚊症に対し施行された眼底検査で雪玉状混濁,光凝固様の網脈絡膜萎縮を指摘され,血液検査でangiotensin-converting enzyme(ACE)高値,胸部CTで縦隔・肺門リンパ節腫脹がみられた.リンパ節生検で非乾酪性類上皮肉芽腫をみとめ,眼・肺サルコイドーシスと診断した.8月に乾癬の皮膚症状が再び悪化したため,ustekinumab 45 mg/回が全3回投与(初回は9月,2回目は10月,3回目は翌年1月)され,皮膚症状は改善した.しかし,10月頃からベッドから起き上がれなくなり,両上肢の挙上が難しく洗濯物を干せなくなった.2021年に入り息切れが悪化し,3月上旬に呼吸苦と歩行困難で前医へ救急搬送された.両側胸水貯留,低酸素血症,CK高値,BNP上昇(299 pg/ml)をみとめ,心不全に対する治療が行われ,胸水はほぼ消失したものの,低酸素血症が持続したため,炎症性筋疾患が疑われ,当科に入院した(Fig. 1).

Fig. 1 Clinical course.

She was started on ustekinumab for exacerbation of psoriasis in September 2020, and her erythema has gradually faded. One month after final ustekinumab, she developed dyspnea and weakness in trunk and proximal limb muscles and was admitted to our hospital. Her respiratory and neuro-muscular symptoms gradually improved three months after the last dose of ustekinumab. Treatment with oral steroids further improved her clinical symptoms. CK level became within normal range and ESR decreased. CyA: cyclosporin, TBNA: transbronchial needle aspiration, PSL: prednisolone, CK: creatine kinase, ACE: angiotensin-converting enzyme, ESR: erythrocyte sedimentation rate.

入院時現症:身長142 cm,体重41 kg,血圧130/66 mmHg,脈拍64/分,SpO2 98%(O2l/分),SpO2 90%(酸素投与前),呼吸数20回/分で,胸郭の持ち上がりが悪かった.左手指の角化性紅斑は消退しており,両手指DIP関節の屈曲時に疼痛,手指伸側の皮膚硬化をみとめた.表在リンパ節,肝脾,筋腫瘤は触知しなかった.神経学的には意識清明,脳神経に異常はなかった.筋力低下は頸部屈筋で最も高度で(徒手筋力試験[MMT]2),その他に大胸筋(MMT 3)や四肢近位筋(MMT 4)は左右対称性に,短母指外転筋や小指外転筋には左側優位の筋力低下がみられ,握力は右6 kg/左4 kgであった.感覚系は両正中・左深腓骨神経領域での痛覚低下がみられ,両下肢で振動覚が低下していた.腱反射は四肢で低下し,病的反射は陰性で,小脳系・自律神経系に異常はなかった.

Table 1  Nerve conduction studies on before treatment (Day 2) and about 3 weeks after treatment (Day 46)
Latency Conduction velocity Amplitude F-wave
Before treatment
Motor nerve Distal latency
(msec)
MCV
(m/sec)
CMAP (mV)
(proximal/distal)
(normal range: >5.0/>5.0)
F-wave
persistence
(%)
 Lt. median 3.6 49.5 4.5/5.1 6
 Lt. ulnar 3.4 63.8 3.2/3.9 25
 Lt. tibial 4.9 36.6 3.8/4.9 0
Sensory nerve Onset latency
(msec)
SCV
(m/sec)
SNAP (μV)
(normal range: >10)
 Lt. median 4.2 44.3 17
 Lt. ulnar 3.3 66.7 23
 Lt. sural 3.1 62.5 7
After treatment
Motor nerve Distal latency MCV CMAP
(proximal/distal)
F-wave
persistence
 Lt. median 3.9 52.8 7.4/8.7 94
 Lt. ulnar 3.2 65.3 4.0/5.1 81
 Lt. tibial 3.8 44.2 5.2/7.1 100

Lt.: left, MCV: motor conduction velocity, SCV: sensory conduction velocity, CMAP: compound muscle action potential, SNAP: sensory nerve action potential.

Fig. 2 Pathological findings of the biopsy specimen from the right supraclavicular fossa lymph node (A) and the right biceps brachii muscle (B, C and D).

(A, B) Hematoxylin and eosin stainings show a non-caseating epithelioid cell granuloma surrounded by inflammatory cell infiltration. (C) Immunohistochemical analysis of CD68 showed nodular infiltration of CD68 positive cells (macrophages) in the specimen from the right biceps brachii muscle. (D) Many muscle fibers showed increased sarcolemmal reactivity for major histocompatibility complex (MHC) class I. [Bars = 200 μm (A) and 100 μm (B, C and D)].

検査所見:血算は基準値内であった.一般生化学検査ではAST 43 U/l,ALT 28 U/l,血沈81 mm(1時間値),CRP 1.47 mg/dl,可溶性IL-2R 848 U/ml(基準値122~496),抗核抗体320倍(核小体型),BNP 18.8 pg/mlと上昇し,CK 395 U/‍l(基準値41~153),アルドラーゼ13.4 U/l(基準値2.1~6.1)と筋逸脱酵素が上昇した.ACEは9.6 U/l(基準値8.3~21.4),膠原病関連マーカー(抗ds-DNA IgG抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体,抗Sm抗体,抗Scl-70抗体,抗ミトコンドリア抗体,抗RNP抗体,抗カルジオリピン抗体,抗CCP抗体),筋炎関連自己抗体(抗ARS抗体,抗MDA-5抗体,抗Mi-2抗体,抗TIF1-γ抗体,抗SRP抗体,抗HMGCR抗体)は陰性,脳脊髄液検査では細胞数2/μl(単核球100%)で蛋白値は基準値内,オリゴクローナルバンドとミエリン塩基性蛋白は陰性であった.動脈血液ガス分析(O2l/分)ではpH 7.40,pO2 91 mmHg,pCO2 65 mmHg,HCO3 39 mmol/lで慢性的な2型呼吸不全が考えられ,肺活量は1.0 l(%VC 42%)と低下し,1秒率が92%と保たれており,拘束性換気障害と考えられた.末梢神経伝導検査では左正中・両尺骨・両脛骨神経で複合筋活動電位振幅とF波出現率が低下し,両腓腹神経の感覚神経活動電位振幅が低下していた(Table 1).針筋電図検査では左上腕二頭筋で安静時自発放電を伴う筋原性変化がみられた.経胸壁心エコーではEFは60%で,心サルコイドーシスを示す所見はなく,眼科診察でぶどう膜炎を示す活動性の炎症所見はなかった.胸部X線写真で両側の横隔膜の挙上はなく,胸部CTでは少量の胸水,わずかな粒状影をみとめ,両側肺門リンパ節が腫大していた.‍18F-FDG PET CTでは右鎖骨上窩リンパ節(SUVmax 4.60),縦隔リンパ節,両側肺門リンパ節にFDG集積亢進をみとめたが,四肢筋・心筋にFDG集積亢進はなく,造影MRI(頭部・脊椎・上腕・大腿)で異常造影効果はなかった.右鎖骨上窩リンパ節生検ではリンパ節全体に小型の非乾酪性類上皮肉芽腫がみられ,肉芽腫内に多核巨細胞が観察された(Fig. 2A).右上腕二頭筋生検では筋組織内に非乾酪性類上皮肉芽腫をみとめた(Fig. 2B, C).類上皮肉芽腫部にはLanghans巨細胞はみられなかったが,同部位にはTリンパ球の浸潤がめだち,浸潤しているTリンパ球はCD8陽性Tリンパ球よりもCD4陽性リンパ球が多かった.多くの筋線維がmajor histocompatibility complex(MHC)class Iを高発現しており,肉芽腫周囲の筋線維には大小不同がみられた(Fig. 2D).

入院後経過(Fig. 1):進行性の体動時呼吸困難,体幹筋と四肢近位筋の筋力低下を主徴とし,多発性単神経障害を伴い,生検筋標本で筋組織内に非乾酪性類上皮肉芽腫と多くの筋線維にMHC class Iの高発現がみられたことから,神経・筋サルコイドーシスと診断した‍34.Ustekinumabの中止後,約3ヶ月間で頸部屈筋,大胸筋と四肢近位筋の筋力低下はごく軽度改善したが体動時の呼吸苦は残存し,CK上昇と赤沈亢進は持続した.プレドニゾロン25 mg/日の内服を開始し,2週間後には罹患筋の筋力はMMT 4~5−レベルに,握力は10 kg/8 kgと改善し,感覚障害は軽快し,独歩ができた.CK値と赤沈,動脈血液ガス分析は正常化し,肺活量は1.6 l(%VC 67%)に改善した.3週間後,両正中・左尺骨・両脛骨神経での複合筋活動電位振幅,F波出現率は正常化した(Table 1).4週間後に退院した.2021年9月現在,プレドニゾロン12.5 mg/日で再増悪はない.今後,乾癬増悪時にはプレドニゾロンの増量及びメトトレキサートを併用する方針とした.

考察

本例は,乾癬の悪化に対し,抗IL-12/23抗体製剤のustekinumabを投与後,体幹筋・四肢近位筋の筋力低下と呼吸不全が悪化し,多発性単神経障害が顕在化した神経・筋サルコイドーシスの72歳女性例である.ステロイド治療開始後3週間という比較的短期間で複合筋活動電位振幅やF波出現率の改善がみられたことから(Table 1),治療により肉芽腫による神経線維への圧迫が解除されることで,末梢神経の伝導障害が改善した可能性を考えた‍3.呼吸不全については,横隔神経の末梢神経伝導検査,横隔膜の筋電図検査は施行できていないが,両側の横隔膜挙上はみられなかったことから,横隔神経麻痺の可能性は低く,胸郭の持ち上がりが悪いことからも,筋サルコイドーシスによる呼吸筋障害により拘束性障害を生じたものと考えた.

生物学的製剤の使用に伴いサルコイドーシスが発症した症例は,使用頻度の高い抗TNF阻害剤での報告が多いが,91例の検討では皮膚・眼・肺病変がほとんどであり‍1,中枢神経病変を生じたのは3例のみで‍5)~7,神経・筋病変の報告はなかった.抗IL-12/23抗体製剤の使用に伴いサルコイドーシスが発症した報告は現在までに4例ある(Table 2)‍8)~11.発症年齢は42~61歳,抗体製剤はustekinumabが3例‍8)~10,guselkumabが1例‍11で,全例,乾癬に対し使用され,抗体製剤投与から発症までの期間は4ヶ月~1年であった.臨床症状は呼吸症状以外に,皮下結節,ぶどう膜炎,体重減少などがみられた.いずれも肺門リンパ節腫脹をみとめ,肺サルコイドーシスと病理診断がされた.肺病変に加え,皮膚‍8,眼‍11病変を合併した例があるが,中枢・末梢神経・筋病変を生じた例はない.全例で抗体製剤が中止された上で副腎皮質ステロイド(1例でメトトレキサートを併用‍10)が投与され,軽快した.本例は抗IL-12/23抗体製剤使用の約1年前から筋力低下やCKの軽度上昇をみとめており,抗体製剤の使用に伴い,神経・筋サルコイドーシスが顕在化し,悪化した初の症例である.これまで同様の症例がなかったことは,神経・筋病変の頻度が他臓器の病変に比べて低いうえ‍1213,症状が多彩であり‍3414,サルコイドーシスによる症状と気付かれにくいことが背景にあると思われる‍15

Table 2  Reported cases of anti-IL12/23 monoclonal antibody-induced sarcoidosis.
Cases Dosing period
until onset
Affected organs
of sarcoidosis
Treatment Clinical course Authors
42 F ustekinumab
1 year
skin
lung
steroid Improved Powell JB‍8)
50 M ustekinumab
Unknown
lung steroid Improved Gad MM‍9)
52 F ustekinumab
6 months
lung steroid
methotrexate
Improved Kobak S‍10)
61 M guselkumab
4 months
eye
lung
steroid Improved Thomas AS‍11)
72 F ustekinumab
1 month
muscle
peripheral nerve
lung
steroid Improved present case

本例は抗体製剤の使用前にすでに眼・肺サルコイドーシスを発症していたが,同様に乾癬とサルコイドーシスを併発した7例の報告がある.1例で双方の皮膚病理をみとめ,全例でメトトレキサートにより2疾患とも改善したことから双方がTh1とTh17に関与する共通の免疫病態を持つ可能性が指摘された‍16.しかし,本例ではustekinumabの投与により乾癬の皮膚症状は改善したが,逆に神経・筋サルコイドーシスは悪化した.ustekinumabの乾癬に対する高い有効性がランダム化比較試験で証明されているが‍1718,肺・皮膚サルコイドーシスには本剤の有効性は示されなかった‍19.これらの所見は,双方の免疫病態の違いを反映したものと想定される.乾癬の病態の主座はTh17系にあり,ustekinumabが樹状細胞から放出されるIL-23を阻害することでその下流に位置するIL-17が抑制され,ケラチノサイトの活性化を抑制し,乾癬の過剰な角化病変の形成を抑える‍20.一方,サルコイドーシスではTh1細胞から放出されるIFNγが肉芽腫形成に関わり,Th17細胞はIL-17を介して肉芽腫の慢性化,線維化に関与するとされ,Th1とTh17の両者が免疫病態に関わると考えられる‍21.ustekinumabの作用機序として,前述の作用‍20の他,IL-12阻害を介したTh1細胞への分化抑制作用が考えられている‍222.本例ではTh1細胞に対しては,想定される作用機序とは逆に,分化を促進し肉芽腫形成を促進したと考えた.この病態を説明する仮説として,ustekinumabによってIL-12の生物学的活性が阻害され,Th1細胞からのTNF-αの分泌が低下することで樹状細胞からのIFN-α産生が亢進し,T細胞の炎症組織への浸潤とTh1細胞への分化を促進する機序‍23が提案されているが,報告症例が少なく,どのような免疫学的背景を持つ症例で生じやすいかは解明されていない.

サイトカインを標的とする生物学的製剤は,その特異性から投与後の反応を検討することで,個々の症例の免疫病態を推定できる.生物学的製剤の使用に伴い生じるサルコイドーシス症例を集積し,各症例の病態を把握することは,その発症や悪化に関与する免疫病態を解明する手がかりとなることが期待される.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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