臨床神経学
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症例報告
イストラデフィリンの過量服薬が誘因と考えられたdyskinesia-hyperpyrexia syndromeの1例
小森 祥太坪井 崇鈴木 将史中村 友彦勝野 雅央
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電子付録

2022 年 62 巻 8 号 p. 627-631

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要旨

症例は71歳女性.63歳でパーキンソン病を発症し,66歳からウェアリングオフ,その後ジスキネジアも出現した.3日前からジスキネジアの増悪,前日から発熱あり,高クレアチンキナーゼ血症を認め入院.筋強剛を伴わず覚醒中に持続する重度ジスキネジアを認め,dyskinesia-hyperpyrexia syndrome(DHS)と診断した.全身管理と抗パーキンソン病薬の大幅な減量を行い,2週間で改善した.イストラデフィリンの過量服薬がDHSの誘因と考えられた.DHSは稀ではあるが致死的となり得る合併症であり,早期の診断が求められる.治療として,全身管理とともに抗パーキンソン病薬の減量が重要である.

Abstract

We present a 71-year-old woman with an eight-year history of Parkinson’s disease (PD). She began to experience wearing-off at the age of 66 and subsequently developed dyskinesia. She had worsened dyskinesias for three days, followed by a high fever, and she was subsequently hospitalized. On admission, severe dyskinesia, hyperpyrexia, and elevation of serum creatine kinase were observed. Severe dyskinesia without rigidity continued throughout the day and she was diagnosed with dyskinesia-hyperpyrexia syndrome (DHS). She was treated with standard medical care and anti-parkinsonian medications were reduced drastically. Dyskinesia started to wane three days after admission and almost disappeared on day twelve. Prior to admission, the patient reported she had been taking two to three times the dose prescribed of istradefylline, which was the suspected to be a trigger of DHS. Because DHS is a rare but potentially life-threatening complication, early recognition and diagnosis is vital. A proper treatment strategy for DHS may include standard medical care together with reduced anti-parkinsonian medications.

はじめに

Dyskinesia-hyperpyrexia syndrome(DHS)は,進行期パーキンソン病患者において急性に発症し,重度の全身性ジスキネジア,高体温,高クレアチンキナーゼ(CK)血症を呈する稀な合併症である.適切な治療が行われない場合は致死的となりうるため,悪性症候群やparkinsonism-hyperpyrexia syndrome,セロトニン症候群などの臨床症候が類似する病態との鑑別が肝要である‍1.われわれは,服薬アドヒアランス不良によりイストラデフィリンを過量に服薬し,DHSを発症した症例を経験したため報告する.

症例

症例:71歳,女性

主訴:発熱,ジスキネジア

既往歴:69歳 右大腿骨頸部骨折.71歳 左大腿骨頸部骨折.

薬剤歴:レボドパ450 mg/カルビドパ45 mg,エンタカポン500 mg,ロピニロール徐放錠8 mg,ラサギリン0.5 mg,イストラデフィリン20 mg,アンブロキソール塩酸塩45 mg,アルファカルシドール0.25 μg.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2013年(63歳時)に歩行障害でパーキンソン病を発症し,2014年7月から当科外来にてロピニロールで治療を開始した.同年のMIBG心筋シンチグラフィーでは心縦隔比が早期像1.63,後期相1.35と集積の低下を認めた.2016年からレボドパ/カルビドパを追加した.同年からウェアリングオフが出現したため,ロピニロールとレボドパ/カルビドパを漸増し,次いで2018年からイストラデフィリン,エンタカポンを追加した.2019年からジスキネジアが出現した.2020年からラサギリンの投与を追加し,2021年5月時点でHoehn-Yahr重症度分類3度であった.2021年6月中旬の某日(第1病日)からジスキネジアの増悪があり,第2病日から38.4°Cの発熱が出現したため,第3病日に他院を受診した.血液検査で血清CK高値を認め,当院に救急搬送された.

入院時現症:身長145.5 cm,体重33 kg,体温36.4°C,血圧134/89 mmHg,脈拍数76回/分・整,呼吸数16回/分,SpO2 98%(室内気).一般身体所見に特記すべき異常所見を認めなかった.意識は清明で全身性ジスキネジアを持続的に認めた.

入院時検査所見:血液検査では,白血球数15.9 × 10‍3l(好中球67.4%),Hb 12.4 g/dl,血小板数244 × 10‍4lと白血球数の上昇を認めた.CRP 0.19 mg/dl,CK 3,595 U/l(正常値41~153 U/l)と高CK血症を認めた.血液培養は陰性であった.胸腹部単純CTでは発熱の原因となる異常所見を認めなかった.

臨床経過(Fig. 1):来院前に発熱があり,高CK血症を認めたため同日救急外来より緊急入院となり,補液および全身管理が開始された.抗パーキンソン病薬は入院前の処方量を継続とされた.熱源が明らかでない発熱があり,COVID-19流行期であったため隔離対応されたが,入院2日目にSARS-CoV-2 PCR陰性を確認し隔離は解除された.入院3日目のバイタルサインは体温36.4°C,血圧157/80 mmHg,脈拍数61回/分・整,呼吸数16回/分であった.著明な血圧変動や下痢などの消化器症状は伴わなかった.神経学的所見は,意識は清明で脳神経,深部腱反射,感覚系に異常を認めなかった.頸部・四肢に筋強剛,振戦,クローヌスを認めなかった.体幹・四肢に近位部~遠位部まで重度な舞踏運動様の全身性ジスキネジアが持続し,随意的な抑制は困難であった(Supplementary Video 1).入院後も筋強剛を伴わずに重度ジスキネジアが覚醒中に持続していたことから,DHSと診断した.入院後の聴取で,残薬として余分に保有していた抗パーキンソン病薬を5ヶ月前から自己判断で不定期に過量服薬していたことが判明した.1ヶ月前に家人が服薬管理の方法を変更したが,イストラデフィリンのみは患者自身が残薬を保有しており不定期に過量服薬を継続していた.発症数日前からは過量服薬の頻度が増し,処方量の2~3倍に当たるイストラデフィリン40~60 mgを連日過量に服薬しており,DHSの誘因と考えられた.なお,発症時は適温の屋内で過ごしており,高温環境への曝露歴はなかった.入院3日目から抗パーキンソン病薬をレボドパ300 mg/カルビドパ30 mgと大幅に減量した.ジスキネジアは非常に緩徐に改善していき,入院5日目にはジスキネジアの程度に変動がみられるようになり,血清CK 162 U/lと改善した.高CK血症が改善したため入院8日目に補液を終了した.入院12日目には1日3回の内服間で明らかなオフ時間がみられるようになり,ジスキネジアがない時間帯が出現した.オフ時間にnon-motor fluctuationがめだつようになり下肢痛の訴えが強く,オフ症状のコントロール目的でレボドパ400 mg/カルビドパ40 mg,エンタカポン400 mgに増量した.ジスキネジアの増悪はなく,内服後3時間ほどでオフ状態となるため,入院15日目からロチゴチン貼付剤4.5 mgを追加した.入院18日目からレボドパ450 mg/カルビドパ45 mg,エンタカポン500 mg,ロチゴチン貼付剤4.5 mgとし,ジスキネジアの増悪がないことを確認してから入院20日目に退院とした.退院後8日目の初回外来では,オフ時間はなく,ジスキネジアも軽度であった.退院後,4ヶ月経過観察を行ったが,DHSの再燃は認めていない.

Fig. 1 Clinical course.

After admission, the patient was treated with standard medical care and anti-parkinsonian medications were reduced. Severe dyskinesias gradually improved and serum creatine kinase levels normalized. As OFF-time appeared on day 12, we carefully increased anti-parkinsonian medications to ameliorate non-motor fluctuations. She was discharged on day 20. Four months after discharge, the patient still experienced some dyskinesia and OFF-time but remained relatively stable.

考察

本例は進行期パーキンソン病患者で,イストラデフィリンの過量服薬を誘因として発熱,重度の全身性ジスキネジア,高CK血症を呈した症例である.パーキンソン病患者において発熱,高CK血症を呈する病態として,DHS以外に悪性症候群,parkinsonism-hyperpyrexia syndrome,セロトニン症候群が挙げられる.いずれの病態も発熱や高CK血症に加えて,自律神経機能障害,意識障害なども呈し得る点が共通点である.鑑別点として悪性症候群,parkinsonism-hyperpyrexia syndrome,セロトニン症候群は著明な筋強剛,無動を呈するが,DHSは筋強剛を伴わず重度な全身性ジスキネジアを呈することから,本例はDHSと診断した‍2.抗パーキンソン病薬の減量と全身管理を行い,改善が得られた.

PubMedを用いてDHSの既報告例を検索し,11例を同定しえた‍3)~11(Table 1).本例を含め,全例で重度ジスキネジアに加え発熱,高CK血症を認めた.年齢は62~80歳(平均72歳)であり,本例はほぼ平均値であった.本例を含めた12例中9例(75%)が女性であり,本例も女性であった.罹病期間は8~30年(平均17.9年)であり,本例を含めいずれも進行期パーキンソン病患者に発症していた.Levodopa equivalent daily dose(LEDD)は670~3,400 mgと高用量であり,本例もLEDD 808.5 mgと高用量であった.本例を含めDHSを発症する前からジスキネジアを有していた例が多かったが,一部の報告ではDHS発症前のジスキネジアの有無は記載がなかった.12例中7例(58%)が夏に発症しており,6例(50%)において高温環境が誘因となっていた.5例(42%)が抗パーキンソン病薬の薬剤増量・変更が誘因となっていた.1例(8%)は外傷と感染が誘因であった.治療は全例で全身管理,抗パーキンソン病薬減量が行われ,2例(17%)が感染症の合併で死亡したが,他の症例は2日~12日で改善した.本例は12日と改善まで日数を要したが,良好な転帰であった.

Table 1  Previously-reported and our cases with dyskinesia-hyperpyrexia syndrome.
Case Age/
Sex
PD duration
(Years)
LEDD
(mg)
Dyskinesia
before DHS
BT
(°C)
CK
(IU/l)
Season Suspected trigger Treatment and outcome
Gil-Navarro et al.
(2010)
68/F 12 1,680 + 41.2 1,455 N.D. N.D. Drug reduction, quetiapine, sedation 
Recovered in 6 days
Lyoo et al.
(2011)
74/M 17 3,400 + 38.2 24,651 N.D. Drug dose increase Drug discontinuation 
Recovered in 5 days
Taguchi et al.
(2015)
70/F 13 950 40.3 35,000 Fall Drug form change Drug reduction 
Recovered in 7 days
Herreros-Rodriguez et al.
(2016)
74/F 16 670–1,390 N.D. 40.2 2,509 Summer High ambient temperature LCIG reduction 
Recovered
Acebróm Sánchez-Herrera et al.
(2017)
66/F 16 1,810 40.2 7,177 Summer High ambient temperature,
Drug dose increase
Drug reduction, sedation 
Recovered in 4 days
Baek et al.
(2017)
74/F 23 675-900 N.D. 40.3 10,230 Spring Trauma, Infection Drug reduction, sedation, antibiotics 
Recovered in 4 days
Sarchioto et al.
(2018)
80/M 20 1,550 + 42 16,040 Summer High ambient temperature, Infection Drug reduction, antibiotics 
Died on day 5
76/F 10 1,l060 + 41 2,967 Summer High ambient temperature, Infection Antibiotics 
Died on day 1
79/F 30 1,000 + 39.5 1,967 Summer High ambient temperature, Infection Drug reduction, antibiotics 
Recovered in 10 days
Novelli et al.
(2019)
62/M 34 2,528 N.D. 40.7 4,891 Summer High ambient temperature DBS reprogramming, drug reduction, antibiotics 
Recovered in 2 days
Zu et al.
(2021)
76/F 16 1,150 40.2 2,489 N.D. Drug dose increase Drug reduction 
Recovered in 10 days
Our case 71/F 8 808.5 + 38.4 3,595 Summer Drug overdose Drug reduction 
Recovered in 12 days

BT, body temperature; CK, creatine kinase; DBS, deep brain stimulation; DHS, Dyskinesia-hyperpyrexia syndrome; F, female; LCIG, levodopa-carbidopa continuous infusion gel therapy; LEDD, levodopa equivalent daily dose; M, male; N.D., not described; PD, Parkinson’s disease.

DHSの既報告では進行期パーキンソン病患者における高用量の抗パーキンソン病薬投与を共通の背景とし,高温環境,薬剤,感染,外傷が誘因となり発症しているが,DHSの病態は明らかでない.マウスでの基礎研究では,環境温が30°Cを超えると黒質線条体系や視床下部のドパミン系刺激が体温の上昇に働くこと,温度が上昇すると黒質緻密部のドパミン神経の興奮性が高まること,が報告されている‍1213.さらに,過剰な抗パーキンソン病薬投与が誘因となる症例があるが,重度なジスキネジアは熱産生に働く.以上から,過剰なドパミン刺激やジスキネジアによる熱産生,高温環境が体温上昇に繋がり,また逆に体温上昇によりドパミン活動が亢進しジスキネジアの悪化や体温上昇に繋がるという悪循環がDHSの病態の一端を担っている可能性がある.

本例は低体重の高齢女性患者であり,LEDD 808.5 mgは体重を考慮するとかなり高用量であった.イストラデフィリンは線条体や淡蒼球におけるアデノシンA2A受容体の阻害作用を持ち,非ドパミン系薬剤と位置付けられる.しかしながら,イストラデフィリンは間接路の抑制を介して運動促進性に働くため,ジスキネジア誘発作用があることが大規模臨床研究のメタアナリシスでも証明されている‍14.また,線条体の間接路の中型有棘神経細胞から直接路の中型有棘細胞への投射がマウスの基礎研究で示されており,間接路から直接路への投射を介したジスキネジア誘発作用も示唆される‍15.本例では高用量のドパミン系薬剤が投与下において,過量内服されたイストラデフィリンによる強い間接路抑制がDHSを引き起こしたと考えた.

DHSは稀な合併症であるが適切に診断し,全身管理とともに抗パーキンソン病薬の早急な減量が求められる.DHSは進行期パーキンソン病患者における脳内ネットワークの可塑性の変化を背景とし,過剰なドパミン刺激と体温上昇により誘発されると推測されるが,病態は明らかでなく今後のさらなる検討が望まれる.

Movie legend

Supplementary Video 1. Severe generalized choreic dyskinesia on day 3. The video shows severe generalized choreic dyskinesia affecting the trunk, arms, and legs, which persisted all the day.

Acknowledgments

謝辞:本論文の作成にあたり,英文抄録の校閲を行っていただいたUniversity of Kansas Medical Center, Neurology DepartmentのProf. Kelvin Auに深謝いたします.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
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