臨床神経学
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総説
認知症の危険因子としての水痘・帯状疱疹感染―スコーピングレビュー―
森 泰子大野 陽哉下畑 享良
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2025 年 65 巻 3 号 p. 191-196

詳細
要旨

水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus,以下VZVと略記)の罹患が認知症発症の危険因子であるかを検証する目的で,選択基準を満たした21文献によるスコーピングレビューを行った.VZVの罹患は認知症発症率を増加するというメタ解析を1編認めたものの,否定するメタ解析も1編認めた.眼部や中枢神経への感染に伴う認知症発症率の増加を示した報告が複数存在した.またVZVワクチン接種による認知症発症率の低下を示したメタ解析を1編認めた.以上よりVZVの罹患が認知症の危険因子となる可能性が示唆されるが,後方視的コホート研究が主体であったことから,今後,前方視的コホート研究やワクチン接種や抗ウイルス薬の効果を検証する臨床試験が必要である.

Abstract

A scoping review analyzing 21 selected publications was conducted to determine “whether the varicella zoster virus (VZV) is a risk factor for dementia”. One meta-analysis concluded that VZV infection increases dementia risk, while another meta-analysis contradicts this finding. Several reports have shown an increased risk of dementia associated with VZV infections of the eyes and central nervous system. Additionally, a third meta-analysis reported that VZV vaccination reduces dementia. Therefore, VZV infection may be a risk factor for dementia. However, most of the reviewed articles were retrospective cohort studies, which limits the strength of conclusions that can be drawn. To provide more robust evidence, prospective cohort studies and clinical trials are needed to evaluate the impact of VZV itself, as well as the effectiveness of vaccines and antiviral therapies.

前文

高齢化社会において認知症患者は増加しており,原因解明と予防法の確立に注目が集まっている.Lancet委員会の最新の報告によると,14の危険因子について対策を講じることで世界の認知症発症の約45%を遅延,ないし予防できると推定されている1.このような修正可能な危険因子は他にも存在すると考えられ,その発見は重要な課題である.

このような認知症の危険因子としてのウイルス感染に注目が集まっている.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に認知症や神経変性疾患の発症頻度が上昇することが報告され2,COVID-19の罹患は認知症の新たな危険因子と認識されつつある.その病態機序としてSARS-CoV-2の持続感染が注目され,スパイク蛋白による神経毒性,サイトカインによる神経炎症の惹起,細胞融合などを介して認知機能障害を引き起こす可能性がある3.また認知症の危険因子としてのウイルス感染は,COVID-19以外にも単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)やジカウイルスなどで議論がなされている4

さらに,認知症との関連が注目されていながら結論が出ていないウイルスとして,水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus,以下VZVと略記)がある.VZVは,一度感染した後神経節に潜伏感染し,免疫力の低下などを背景に再活性化する.この再活性化後に生じる一連の病態をVZVの罹患と定義すると,‍加齢はVZVの罹患の危険因子であり5,高齢化が進む日‍本‍では重要な感染症と言える.事実,宮崎県における疫学調査(宮崎スタディ)によれば罹患総数の増加,さらに60歳以上を中心に,各年代の人口当たりのVZV罹患率の増加も報告されている6

以上を踏まえ,私達は「VZVの罹患は認知症の危険因子か?」という臨床疑問を検討するためスコーピングレビューを行った.またVZVに対するワクチン接種や抗ウイルス薬の効果についても検討したので併せて報告する.

対象・方法

スコーピングレビューはpreferred reporting items for systematic reviews and meta-analyses extension for scoping reviews(PRISMA-ScR)に則って行った7.データベースはPubMedを選択した.2024年6月に(“Varicella Zoster Virus Infection”[Mesh]) AND “Dementia”[Mesh]を検索式として文献を渉猟した.得られた文献を2名の独立した評価者(YM, TS)がスクリーニングを行った.選択基準はVZVと認知症の関連を検討した内容で,5症例以上の患者を含み,観察研究以上のエビデンスを有する研究とした.病態機序に関わる基礎研究も採用した.文献タイトルと抄録をもとに1次スクリーニングを行い,数例の症例報告,明らかに両者の関係に言及がないものを除外した上で採用した論文については全文を確認し,2次スクリーニングを行った.2次スクリーニングにおいて,2名の評価者の採否が一致しなかった文献についてはもう1名の評価者(YO)が判断を行った.この後,採用論文の内容の精査を行った.まずシステマティックレビュー/メタ解析(SR/MA: systematic review and meta-analysis)について検討を行い,その後,その他の文献の検討を行った.VZVの罹患と認知症発症率以外にも,ワクチン接種歴や抗ウイルス薬の使用と認知症発症率についても検討を行った.スコーピングレビューの手順に沿ったため,バイアスリスクの評価は行っていない.

結果・成績

文献の選択および概要

検索式による検索で57論文が該当し,1次スクリーニングでは31論文が残った.2次スクリーニングでは10論文が除外され21論文となった(Fig. 1).医中誌Webを含めハンドサーチも行ったが,論文の追加はなかった.21論文の研究デザインの内訳は,SR/MAが3編,前方視的コホート研究が1編,後方視的コホート研究が12編,症例対象研究が1編,横断研究が1編,基礎研究が3編であった.無作為化比較試験は存在しなかった.また日本人を対象とした観察研究は存在しなかった.

Fig. 1  Overview of the literature selection process.

SR/MAの検討

Gaoら8が2024年に報告したSR/MAでは,九つの研究をもとにVZVの罹患は認知症発症率を増加させることを示している(hazard ratio (HR) 1.11; 95% confidence interval (CI) 1.02~1.21).またこの論文は五つの研究をもとに,VZV罹患後の抗ウイルス薬の使用は認知症発症率を低下させることも示している(HR 0.84; 95%CI 0.71~0.99).

Shahら9が2024年に報告したSR/MAでは,六つの研究をもとにVZVワクチン接種は認知症発症率を低下させること(HR 0.76; 95%CI 0.60~0.96)を示していることから,間接的にVZVの罹患が認知症に関わる可能性が示唆された.

一方,Elhalagら10が2023年に報告したSR/MAでは,VZVの罹患は認知症発症率を増加させず(HR 0.99; 95%CI 0.92~1.08),認知症発症者におけるVZVの罹患の既往の頻度も高くなかった(HR 1.04; 95%CI 0.86~1.25).しかし眼部VZV感染については認知症発症率を顕著に増加することが示された(HR 6.26; 95%CI 1.30~30.19).

SR/MA以外の検討

VZVの罹患と認知症発症率について検討した研究は11編,12研究存在した(Table 111)~21.このうちVZVの罹患が認知症発症率を増加させるとしたものは6研究で11)~16,増加させないとしたものは3研究存在した17)~19.またVZVの罹患は認知症発症率を低下させるとしたものも3研究存在した182021.VZVの罹患が認知症の危険因子とはならなかった研究の実施国は英国,デンマーク,米国が多く,もしくは対象者の抗ウイルス薬の処方率が高い傾向にあった.

Table 1 The correlation between shingles and dementia.

Author Method Subjects Age Country Antiviral
therapy
Result (Risk of dementia
in shingles patients)
Tsai MC, et al. 2017 RCS 846 HZO and 2,538 not-HZO ≧40 Taiwan NA HR 2.97
(95%CI 1.90–4.67)
Chen VC, et al. 2018 RCS 39,205 shingles and 39,205 not-shingles. ≧50 Taiwan 5.44% HR 1.11
(95%CI 1.04–1.17)
Choi HG, et al. 2021 RCS 11,445 dementia and 45,780 non-dementia ≧65 S. Korea All HR 0.90
(95%CI 0.84–0.97)
Bae S, et al. 2021 RCS 34,505 shingles and 195,089 not-shingles ≧50 S. Korea 83.7% HR 1.12
(95%CI 1.05–1.19)
Shim Y, et al. 2022 RCS 97,323 shingles and 183,779 not-shingles ≧50 S. Korea NA HR 1.09
(95%CI 1.07–1.11)
Shin E, et al. 2024 RCS 52,379 dementia and 699,826 non-dementia ≧45 S. Korea All HR 1.41
(95%CI 1.37–1.46)
Lophatananon A, et al. 2021 CCS 2,378 dementia and 225,845 non-dementia ≧70 UK All OR 1.088
(95%CI 0.978–1.211)
Warren-Gash C, et al. 2022 RCS 177,144 shingles and 706,901 not-shingles ≧40 UK 62.7% HR 0.92
(95%CI 0.89–0.95)
Schmidt SAJ, et al. 2022 PCS 247,305 shingles and 1,235,890 not-shingles ≧40 Denmark Almost all HR 0.98
(95%CI 0.92–1.04)
(within 1 year)
HR 0.93
(95%CI 0.90–0.95)
(After 1 year)
Weinmann S, et al. 2024 RCS 75,996 shingles and 25,332 not-shingles ≧50 US 82.3% HR 0.99
(95%CI 0.93–1.05)
Ukraintseva S, et al. 2024 RCS 11,549 dementia and 6,171 deaths ≧75 US NA HR 1.23
(95%CI 1.06–1.41)

RCS, retrospective-cohort study; CCS, case-control study; PCS, prospective-cohort study; VZV, varicella zoster virus; HZO, herpes zoster ophthalmicus; NA, not applicable; S. Korea, South Korea; UK, United Kingdom; US, United States; Antiviral therapy; The rate of patients with shingles who received antiviral therapy, HR, hazard ratio; CI, confidence interval; OR, odds ratio.

ワクチン接種歴と認知症発症率について検討した研究は6編存在した(Table 2161722)~25.接種したワクチンの種類によらず,いずれの報告もVZVワクチン接種は認知症発症率を低下することを示している.

Table 2 The correlation between VZV vaccination career and dementia.

Author Research
method
Age Number of participants
(Vaccinated/Not-vaccinated)
Type of vaccine Results
Scherrer JF, et al. 2021 RCS (VHA,
Market Scan)
≧65 VHA: 27,419/108,597
Market Scan: 24,612/148,178
Proquad®, Varivax®, Zostavax®, Shingrix® Vaccination reduced dementia incidence
VHA: HR 0.69 (95%CI 0.67–0.72)
Market Scan: HR 0.65 (95%CI 0.57–0.74)
Lophatananon A, et al. 2021 CCS ≧70 228,223 (overall) Zostavax® Vaccine recipients were more common among non-dementia patients
OR: 0.808 (95%CI 0.657–0.993)
Lehrer S, et al. 2021 CSS NA 99/176 Zostavax (main)®, Shingrix® Dementia is less prevalent in vaccinated patients (P ‍= ‍0.03)
Harris K, et al. 2023 RCS ≧65 212,417/1,439,574 Zostavax®, Shingrix® Vaccination reduced dementia incidence
HR 0.7520 (95%CI 0.7378–0.7666)
Lophatananon A, et al. 2023 RCS ≧70 854,745/8.8 million Varicella®, Varilrix®, Varivax®, Singles®, Zostavax® Vaccination reduced dementia incidence
HR 0.78 (95%CI 0.77–0.79)
Ukraintseva S, et al. 2024 RCS ≧75 17,720 (dementia or died) Zostavax® Vaccination reduced dementia incidence
HR 0.79 (95%CI 0.68–0.93)

RCS, Retrospective-cohort study; CCS, Case-control study; CSS, Cross-sectional study; VZV, varicella zoster virus; VHA, Veterans Health Administration: administrative: medical record data for fiscal years; Market Scan: Commercial Claims and Medicare Supplemental databases; NA, not applicable; HR, hazard ratio; CI, confidence interval; OR, odds ratio.

抗ウイルス薬の使用と認知症発症率について検討した研究は4編存在した(Table 312131921.うち3編121319は抗ウイルス薬の使用は認知症発症率を低下させると報告している.一方,Warren-GashらがVZV罹患者の認知症発症率を調べた研究データの2次解析では,抗ウイルス薬の使用は,認知症発症率に影響しなかった(P ‍= ‍0.774)21

Table 3 The correlation between antiviral therapy and dementia.

Author Research method Age Antiviral therapy/
infected patients
Country Result
Chen VC, et al. 2018 RCS ≧50 2,131/39,205 Taiwan Antiviral therapy was associated with a lower incidence of dementia. HR 0.55 (95%CI 0.40–0.77)
Bae S, et al. 2021 RCS ≧50 28,873/34,505 South Korea Antiviral therapy was associated with a lower incidence of dementia. HR 0.79 (95%CI 0.69–0.90)
Warren-Gash C, et al. 2022 RCS (Secondary analysis) ≧40 110,997/177,144 United Kingdom Dementia risk did not change with or without Antiviral therapy P ‍= ‍0.774
Weinmann S, et al. 2024 RCS ≧50 21,493/25,332 United States Antiviral therapy was associated with a lower incidence of dementia. HR 0.79 (95%CI 0.70–0.90)

RCS, Retrospective-cohort study; HR, hazard ratio; CI, confidence interval.

その他,VZVの感染部位に注目した研究が4編存在した.眼部VZV感染で認知症発症率が増加した報告11に加え,罹患部‍位‍ごとの影響を比較している研究がある151819.一つは,VZV罹患後後1年以内の認知症発症率は全体では増加しなかったが,脳神経,中枢神経への感染はそれぞれHR 1.83(95%CI 1.03‍~3.25),HR 6.83(95%CI 1.23~37.97)と発症率が増加した18.この研究では長期間経過するといずれの感染でも統計学的有意差はなくなった.しかし別の研究では,平均追跡期間10年以上でも眼部,中枢神経,複雑性感染(播種性もしくは臓器障害合併感染)であることが,皮膚に限局した感染と比較して,認知症発症率を有意に増加させることが報告された15.しかし一つの研究では眼部感染でも認知症発症率の増加を認めなかった19

VZVの罹患もしくは初感染既往に伴う認知症についての基礎研究

VZVの罹患に伴う認知症発症の病態について検討した研究は3編存在した26)~28.うち二つの研究は炎症マーカーの変化に注目し,VZVの罹患がアルツハイマー病様の病態を引き起こす可能性を指摘している.一つ目の研究はVZV,HSV-1のいずれかの中枢神経感染者の脳脊髄液を調べた研究で,アミロイドβ(Aβ)40,Aβ42,Aβ42/40比の低下や,総タウ蛋白(t-tau)やリン酸化タウ(p-tau)の増加を示した26.さらにミクログリアの活性化マーカーであるsoluble triggering receptor expressed on myeloid cells 2やアストロサイト障害のマーカーであるglial fibrillary acidic proteinが上昇していることも示している.この研究ではVZV単独でもt-tauとp-tauの有意な上昇が示されている.

二つ目の研究ではVZVの罹患によるHSV-1再活性化が認知症発症の原因である可能性を検討している27.ヒト誘導神経幹細胞にVZV単独で感染させた場合,炎症性サイトカインの上昇が確認された.この場合,異常蛋白の蓄積は確認されていないが,HSV-1感染後にバラシクロビルでウイルスを静止化させた細胞にVZVを感染させると,HSV-1が再活性化し,この際には細胞にAβ,p-tauの蓄積が確認された.

残りの1編はゲノムワイド関連解析のデータを用いてメンデルランダム化分析を行い,水痘感染者に関連すると特定された七つの遺伝子変異が認知症リスクに対して有意な影響を持つことを示したものである28.つまり水痘リスクが遺伝的に増加すると,認知症リスクも増加することを示している.逆に認知症患者に関連するとされた遺伝子変異が水痘に与える影響については因果関係を認めなかった.このため,水痘は認知症の潜在的な危険因子である可能性が示唆された.

考察

まず「VZVの罹患は認知症の危険因子か?」という臨床疑問については,VZVの罹患が認知症発症率を増加させることを肯定するメタ解析を1編8,否定するメタ解析も1編10認め,明確な結論を示すことはできなかった.しかし,眼部や中枢神経における感染に伴う認知症発症率の顕著な増加を示した報告が複数存在する101518.この感染部位の差はウイルス全般に共通して知られる中枢神経炎症の認知症発症への関与に加え33,神経好性,血管炎の合併率などVZV特有の性質も影響として想定されるが,VZVの罹患と認知症の関連を考察する上で重要である.さらにVZVワクチン接種による認知症発症率の低下を示したメタ解析を1編9認めたことから,VZVの罹患が認知症の危険因子である可能性は十分にあると考えられる.

これを支持する基礎研究として,VZVの罹患後に炎症やグリオーシスが生じること2627,Aβとp-tauの相互作用も考慮が必要であるが,脳脊髄液中のt-tauやp-tauが増加すること26,さらにゲノムワイド関連解析のデータを用いて水痘に関連する七つの遺伝子変異が認知症リスクに対して有意な影響を持つこと28が報告されている.

「VZVの罹患は認知症の危険因子か?」という臨床疑問について明確な結論が出なかった理由としては3点考えられる.1点目はSR/MAの対象論文のほとんどが後方視的コホート研究であった点である.このスコーピングレビューで採用したSR/MA以外の15論文においても前方視的研究は1編のみであった.後方視的観察研究は,患者背景,ワクチンや抗ウイルス薬への患者・主治医の認識,罹患後の診療などを介した交絡因子の影響を避けることができない.

2点目はワクチン接種率や抗ウイルス薬の使用歴の影響が‍考‍えられる.VZVワクチン接種や抗ウイルス薬の使用は認‍知‍症‍発症率を下げるとする研究が複数報告されていた89121316171922)~25.そこで,ワクチン接種状況や抗ウイルス薬使用状況に注目してVZVの罹患と認知症発症の疫学研究を分析した.VZV の罹患が認知症の危険因子であることを否定する研究結果の多い英国や米国では早期からワクチンが承認され,公的補助が行われて,英国では接種率が約70%まで普及しているのに対し31,VZVの罹患は認知症発症率を上げるとする研究結果の多い中国や韓国ではワクチンに対する公的補助はなく接種率も低い2930.また,抗ウイルス薬については,VZVの罹患が認知症発症率を上げないとする研究のほとんどは抗ウイルス薬使用率が高い傾向にもある17-21.以上から,VZVの罹患と認知症との関係を論じる上でワクチンと抗ウイルス療法は無視できない影響があると考える.一方で,ワクチン接種は背景の経済状況,予防医療に関する認識,医療機関通院状況が交絡因子になる.特に公的補助のない国ではこの影響が大きく,上記の議論の注意すべき限界点である.

3点目はVZVの罹患に伴う受診機会の増加が認知症発症率を下げる可能性である.VZVの罹患後,帯状疱疹後神経痛に罹患した患者は受診に際し,合併する内科疾患も診療される可能性が高く,認知症の危険因子となる高血圧や糖尿病などが治療される可能性がある.実際に発症後1年以内では認知症発症率を上げたが,長期観察後は有意な差がつかなくなった研究もある18.上記三つの問題点を解決するために,ワクチン接種,抗ウイルス薬使用などの背景要因や交絡因子,罹患後の観察状況を揃えた前方視的研究を行う必要がある.

米国ではVZV組み換えワクチンの承認をきっかけに,2017年10月以降急速にそれまでのVZV生ワクチンが中止され,組み換えワクチンに使用が切り替えられた経緯がある.スコーピングレビュー後に報告された研究だが,この状況を受けて実施された米国の20万人以上の電子健康記録データを対象とした大規模研究で,2017年以降に組換えワクチンを接種した群と,2017年以前に生ワクチンを接種した群を対照とし,年齢や性別などの要因を調整して認知症発症率を評価したところ組換えワクチン接種群で認知症発症率が低いことが報告された34.これは,ワクチン接種に至る選択バイアスとなる健康状態,患者・主治医のワクチンへの認識などの背景とは関係なく,ワクチンの種類のみの影響での認知症の発症率を評価できた研究であり,ワクチン接種と認知症発症率の関係をより強固に証明している.

以上より,VZVの罹患は修正可能な認知症の危険因子であると結論づけることはできなかったものの,眼部や中枢神経への感染後に認知症発症率が顕著に増加するという多数の報告や,VZVワクチン接種が認知症発症率を低下させるというメタ解析が存在することから,有力な危険因子の候補と考えられた.帯状疱疹患者が増える日本において認知症を増加させている一因の可能性がある.今後,前方視的コホート研究やワクチン接種や抗ウイルス薬の効果を検証する無作為化比較試験が期待され‍る.

利益相反

著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
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