2025 年 65 巻 5 号 p. 359-365
症例は45歳男性.併存疾患に尋常性乾癬と閉塞性血栓血管炎(thromboangiitis obliterans,以下TAOと略記)がある.突然の呂律の回りにくさ,右上肢の痺れを主訴に救急搬送された.左中大脳動脈閉塞,同血管支配領域の散在性脳梗塞を認めた.機械的血栓回収術を行い,有効再開通を得たが責任血管に狭窄が残存した.原因検索を行い,乾癬とTAOを背景としたアテローム血栓性脳梗塞と診断した.乾癬は肥満症や脂質異常症の増悪因子かつ独立した心血管リスクであるが,本邦では有病率が低く,脳血管障害の報告例は少ない.またTAOも稀ではあるが脳梗塞との関連が指摘されている.これらは治療可能な介入因子として考えられたため報告する.
The patient is a 45-year-old male. He has psoriasis vulgaris and thromboangiitis obliterans (TAO) as a comorbidity and was transferred to our hospital with dysarthria and right hemiparesis. On arrival, he presented with right hemispatial neglect, hemiparesis, and sensory disturbance. Head MRI showed scattered infarctions at the left middle cerebral artery territory, and 3D TOF MRA showed left middle cerebral artery occlusion. We performed mechanical thrombectomy with effective recanalization despite remained residual stenosis. Dual antiplatelet therapy was initiated, and neurological findings gradually improved. No apparent embolic source was identified including antibodies for vasculitis. He was diagnosed with large artery atherosclerosis with psoriasis and TAO as a vascular risk factor. Psoriasis is known to cause atherosclerosis and inflammatory disease by increasing cardiovascular risk. Contrast-enhanced MRI after three months of treatment for psoriasis showed decreased contrast signal at the stenotic lesion.
乾癬は,紅斑性局面を主徴とする慢性炎症性角化症で,日本での有病率は0.4~0.5%,欧米では2~3%である1)2).乾癬の患者では皮膚疾患のみならず,肥満症,高血圧症,糖尿病,脂質異常症,メタボリックシンドロームといった心血管危険因子を有する頻度が高い3).また,乾癬による慢性炎症は皮膚のみならず全身でのサイトカイン産生亢進を引き起こし,乾癬そのものが心血管イベントの独立した危険因子であると報告されている4)5).特に重症乾癬患者では心血管リスクが高いことが知られている6).本邦では乾癬患者は欧米と比較して少ないが,肥満症の増加とともに7)近年増加傾向にある8)~12).
また閉塞性血栓血管炎(thromboangiitis obliterans,以下TAOと略記)は,主に50歳未満の若年男性に認め,喫煙との関連が深い疾患である.主に四肢の中小動静脈が侵されるが,稀に冠動脈・腎動脈・腸管動脈などの内臓動脈の病変も報告されており,脳動脈が罹患する割合は約2%である13)~15).
乾癬とTAOを背景とした若年性アテローム血栓性脳梗塞に対して機械的血栓回収療法(mechanical thrombectomy,以下MTと略記)を施行した1例を経験したので,報告する.
症例:45歳,男性
主訴:構音障害,右上肢のしびれ
既往歴:38歳で尋常性乾癬を発症し,カルシポトリオール水和物,ベタメタゾンジプロピオン酸エステル配合軟膏を塗布していた.
42歳時に右脛骨周辺に疼痛や掻痒感を伴う潰瘍を認め,当院精査入院歴がある.下肢造影検査(Fig. 1)では両下肢の前脛骨動脈と後脛骨動脈に閉塞や狭窄病変を認めたが,側副血行路が発達しており腓骨動脈は十分に灌流されていた.TAOと診断され,ankle brachial pressure indexは正常範囲であること,禁煙に伴い症状が改善したため,観血的な処置は行わず経過観察となっていたが,43歳頃に通院自己中断していた.
Digital subtraction angiography showed right posterior tibial artery occlusion (white arrow), left anterior tibial artery occlusion (black arrow), left posterior tibial artery sever stenosis (white arrowhead), and corkscrew collaterals around the area of right posterior tibial artery occlusion (black arrowhead).
生活歴:42歳まで10本/日の喫煙歴あり.飲酒歴 機会飲酒.右利き.日常生活動作は自立.
家族歴:特記事項なし.
現病歴:来院前日の就寝時22時30分が最終健常時刻で,翌朝5時15分起床時に呂律の回りにくさと右上肢のしびれを自覚し,救急要請された.最終健常時刻から445分で当院へ搬送された.
一般身体所見:身長175 cm,体重87.9 kg,血圧129/61 mmHg,脈拍80回/分(整),体温36.5°C,SpO2 99%(室内気).両側前腕,背部,両側下肢には著しい銀白色鱗屑を伴う紅斑を認めた.
神経学的所見:意識は清明で,明らかな失語はなく,顔面を含む右上下肢不全麻痺,温痛覚鈍麻を認め,National Institute of Health (NIH) Stroke Scaleスコアは6であった.
検査所見:血液検査では血算・凝固能は全て正常範囲内で,D-dimer 0.7 μg/ml,AT活性90%,プロテインC活性104%,プロテインS活性102%,BNP 8.6 pg/mlであった.生化学検査ではLDLコレステロール106 mg/dl,HbA1c 5.8%であった.抗ds-DNA抗体・抗カルジオピリン抗体・抗SS-A抗体・抗SS-B抗体・抗好中球細胞質抗体は全て陰性であった.心電図・胸部レントゲンは異常所見を呈さなかった.入院時頭部MRIでは,左中大脳動脈領域に散在性の脳梗塞を認め,3D TOF MRAでは左中大脳動脈M1 segmentの途絶を認めた.灌流画像評価を行うと,relative cerebral blood flow <30%で定義されるischemic core体積は16 mlであり,Tmax延長域とのミスマッチを認めた(Fig. 2).
A, B) Diffusion-weighted imaging showed a high-intensity lesion in the left middle cerebral artery territory. C, D) Fluid attenuated inversion recovery imaging showed subtle high signal lesions in the same areas as seen on diffusion-weighted imaging. E) MRA showed occlusion of the left middle cerebral artery. F) Perfusion imaging analyzed by automated software (RAPID, iSchemaView, Menlo Park, CA) showed that the ischemic core volume (relative reduction in cerebral blood flow < 30%) was 16 ml, while the penumbral tissue volume (time-to-peak concentration greater than 6 seconds) was 83 ml with a mismatch ratio of 11.3.
治療経過:発症前の日常生活動作,来院時の神経学的所見,画像所見から再灌流療法の適応と考えたが,MRI拡散強調画像の虚血性変化は一部FLAIR 画像でも信号変化があり,静注血栓溶解療法は適応外と判断し16)17),MTを行う方針とした.
Solitaire 4 × 40 mm(Medtronic, Minneapolis, MN, USA)を用いたStent retriever単独療法で再開通を得たが,中大脳動脈水平部の遠位部に狭窄を認め,徐々に血栓形成に伴い狭窄進行を認めた(Fig. 3C)ため,閉塞機序はin situ thrombosisと考え,抗血小板薬2剤併用療法(アスピリン200 mg,クロピドグレル300 mgの経口投与),および,オザグレルナトリウム80 mgの経静脈投与を行った.薬剤追加後は血栓消退を確認した.最終造影(Fig. 4D)で狭窄残存していたが再閉塞ないため手技終了とした.
Left internal carotid angiogram showed occlusion of the left horizontal middle cerebral artery prior to mechanical thrombectomy (A: magnified image of anteroposterior view). The immediate flow restoration upon deployment of the stent retriever demonstrated a stenotic lesion in the distal middle cerebral artery (B). The follow-up angiogram at 30 minutes after the first pass showed re-stenosis of the middle cerebral artery (C). Recanalization of the left middle cerebral artery was maintained After antiplatelet therapy, (D: magnified image of anteroposterior view).
Diffusion-weighted imaging (A, B) and fluid attenuated inversion recovery imaging (C, D) showed the high intensity lesion in the left middle cerebral territory. E) MR angiography showed a stenosis of the distal portion of the left middle cerebral artery.
入院後経過:術後頭部CTでは明らかな出血所見なく,狭窄残存していたことからアルガトロバンを開始した.術翌日の頭部MRIでは術前と比較してわずかに左前頭葉・頭頂葉の梗塞巣増加,および,左中大脳動脈の狭窄残存を認めた(Fig. 4).クロピドグレルの代謝に関わるCYP2C19多型を評価すると,intermediate responder(CYP2C19 *1/*2)であり,第2病日からプラスグレル3.75 mg/dayへの管理に変更した.また,ロスバスタチン5 mg/dayを開始した.神経学的所見は右上下肢麻痺・感覚障害改善を認め,NIH Stroke Scaleスコアは0で経過した.
乾癬については,両側前腕,背部,両側下肢には著しい銀白色鱗屑を伴う紅斑を認め,一部の鱗屑は剝がれ点状出血(Auspitz現象)を伴っており,Psoriasis Area and Severity Index score(PASI)27.2の重症であった(Fig. 5).外用療法として,マキサカルシトール軟膏,ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏塗布を開始した.
A) Back and buttocks. B) Left upper arm. C) Right upper arm. D) Lower limbs. Plaques are irregular, round to oval, have silvery surface scales, and pinpoint bleeding on removal of scales.
若年性脳梗塞であり,中枢神経血管炎,遺伝性疾患,悪性腫瘍,奇異性脳塞栓症などを鑑別に精査を行った.心房細動は認めず,経胸壁心エコーでは明らかな塞栓源は認めずマイクロバブルテスト陰性,各種自己抗体・腫瘍マーカーはいずれも陰性で,頭蓋内血管狭窄に影響する遺伝子バリアントであるRNF213 p.R4810K18)は陰性であった.また頸動脈エコー,血管造影では頸動脈や大動脈に有意な狭窄・病変は認めなかった.
第13病日に脳血管造影検査を再検したところ,左中大脳動脈水平部には,最狭窄血管径1.58 mmの狭窄(WASID法22%19))が残存していたが治療直後(1.20 mm)に比して改善がみられた.
第15病日のGd造影MRIでは左中大脳動脈狭窄部に偏心性の造影効果を認めた(Fig. 6A~C).MT後に血管内皮損傷に伴う同心円状の造影効果を認めることが報告されており,その場合は原発性中枢神経血管炎などの炎症性疾患との鑑別を要する20).本症例は偏心性の造影効果であり,不安定性の高いプラーク,もしくは壁在血種と考えられた.
A–C) Brain MRI after the procedure. A) T1-weighted imaging showed slightly high signal in the left middle cerebral artery wall (white arrow). Gd enhanced MRI (B: axial, C: sagittal) showed eccentric enhancement at the stenotic lesion (white arrowheads). D–F) Brain MRI three months later. D) T1-weighted imaging showed no apparent abnormal signal (black arrow). Gd enhanced MRI (E: axial, F: sagittal) showed decreased contrast enhancement (black arrowheads).
脳梗塞の病型分類としては,左中大脳動脈狭窄によるアテローム血栓性脳梗塞と診断した.Mini-Mental State Examination 28/30点(減点項目 遅延再生 −2点),MOCA-J 20/30点(教育歴補正あり,減点項目 図形描画 −1点,数唱課題 −1点,復唱課題 −1点,語想起 −1点,類似課題 −2点,遅延再生 −5点)であり,言語性の短期記憶低下,注意障害,語想起障害,抽象的思考力低下が残存し,第16病日にリハビリテーション目的に転院した.抗血小板薬は,退院時からプラスグレル3.75 mg単剤を継続とした.
発症から3ヶ月後には,日常生活動作は病前程度に回復し,既に復職され,再発もなく経過した.尋常性乾癬の治療を継続し,鱗屑および肥厚していた病変はPASI 12.6と改善を認めた.Gd造影MRIでは,前回認めた左中大脳動脈病変の造影効果の消失を確認し(Fig. 6D~F),プラーク性状の安定化,もしくは血腫消退の経過と考えられた.
本症例は,併存疾患に乾癬,肥満症,TAOを有し,左中大脳動脈閉塞に対してMTを施行した報告である.
脳梗塞の病型診断は,左中大脳動脈狭窄のin situ thrombosisに伴うアテローム血栓性脳梗塞と考えられた.血管リスクは,42歳時に禁煙され,その他動脈硬化リスク管理も比較的良好であった.その他の脳梗塞の明らかな要因は認めなかった.乾癬そのものが心血管イベントの独立した危険因子であり,TAOを併存したことから,脳梗塞を発症したと考えられた.
TAOにおいて,脳に病変を有する割合は2%と稀である13).炎症細胞はおもに血管内膜および内腔を閉塞している血栓に認められ,内弾性板の構造は保たれ,血管栄養血管の内皮細胞の肥厚が特徴的である.四肢の血管以外に発症するTAOの診断は病理組織学的にTAOの急性期もしくは亜急性期を呈していなければいけない14).本症例はTAO発症から3年間禁煙され,その他動脈硬化リスク管理も比較的良好で,皮膚潰瘍・跛行症状は改善得られていた.その後に脳梗塞を発症し,発症3ヶ月後のGd造影MRIで造影効果の消失を認めた.以上の経過から,乾癬のコントロール不良に伴い脳梗塞を発症した機序,もしくは中大脳動脈にTAOの病理学的背景があり,最終的に乾癬が契機となり,in situ thrombosisに伴うアテローム血栓性脳梗塞を発症した機序が考えられた.
乾癬が動脈硬化,心血管イベントを引き起こすメカニズムとしてBoehnckeらが “乾癬マーチ” の概念を提唱している21).乾癬患者の皮膚あるいは関節の炎症は,末梢血行の液性因子等を介して,全身炎症に寄与しており,この全身炎症はインスリン抵抗性およびメタボリックシンドロームを引き起こす.そして,全身性炎症,インスリン抵抗性,および,抗炎症サイトカインの低下が内皮細胞の機能不全を引き起こし,血管内皮細胞障害を生じ22),心血管イベントへとつながる.
乾癬患者で心血管リスクを検討した14のコホート研究をメタ解析した結果では,重症乾癬患者で心血管リスクが増加し,一般人口と比較したハザード比は心血管死1.37,心筋梗塞3.04,脳血管障害1.59と高かった6).また,31のコホート研究をメタ解析した結果においても同様の傾向であり,Rate Ratioは心筋梗塞1.17(95%CI: confidence interval, 1.11~1.24),脳血管障害1.19(95%CI, 1.11~1.27),心血管死1.46(95%CI, 1.26~1.69),虚血性心疾患1.17(95%CI, 1.02~1.34),血栓塞栓症1.36(95%CI, 1.20~1.55)であった23).重症の乾癬患者は心血管リスクが高く,若年齢でも心血管疾患を発症する24).
冠動脈疾患において,脂質異常症患者や健常人と比較して,乾癬患者では冠動脈における動脈硬化プラークの断面積比率が高く,また乾癬の皮膚症状改善に伴いプラーク断面積比率の改善が指摘されている25).また,生物学的製剤で治療を受けている乾癬患者では,冠動脈プラークの縮小が認められ,将来の心血管イベントのリスクが低下する可能性が示唆されている26).本症例では,乾癬の治療後のGd造影MRIでは造影効果の消失を認め,頭蓋内血管狭窄においても冠動脈疾患と同様に,乾癬の治療がプラークの退縮や狭窄率の改善に寄与する可能性があると考えられた.
脳血管領域における報告では,軽症乾癬であっても相対リスクRR(relative risk)1.12(95%CI, 1.08~1.16),重症であればRR 1.56(95%CI, 1.32~1.84)で乾癬が有意な脳卒中の危険因子であった27).また,乾癬のPASI重症度と頸動脈のintima-media thickness(IMT)には有意な相関があり,軽症・中等度の乾癬患者であっても頸動脈IMTと関連していた28).本例と同様にコントロール不良な乾癬を背景として致死的な経過を辿った若年性脳梗塞の報告において,剖検では頭蓋内血管に重度のアテローム性動脈硬化が認められ,乾癬が主なリスク因子と思われた29).頭蓋内脳動脈狭窄の有病率は欧米人と比較してアジア人で高く,遺伝的な要因が推察される30).そのためアジア人では,乾癬を併発することで更に頭蓋内狭窄悪化によるアテローム血栓性脳梗塞を発症しやすい可能性がある.乾癬は本邦では比較的稀ではあるが,近年増加傾向である.乾癬と脳血管障害の関連についての報告は限定的ではあるものの,潜在的に介入可能な脳卒中リスク因子であると想定される.
冠動脈と脳動脈は解剖学的に違いを認めるが,血管病変としては同様のことが考えられる.今後,脳血管障害の予防の観点から,乾癬に対する治療戦略やその効果を評価するための前向き研究が必要と考えられる.
著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.