論文ID: cn-001336
症例は73歳の右利き男性.ヘルペス脳炎を発症し,重度のウェルニッケ失語を含む認知機能低下が残存した.病前に描画の習慣はなく,妻の勧めで始めた塗り絵をきっかけに,発症数年後より風景写真の模写を始めた.その作品は写実的傾向が強く,病巣は左半球であり,獲得性サヴァン症候群の特徴を有していた.描画能力の向上に伴い,買い物や公共交通機関の利用などの手段的日常生活動作(instrumental activities of daily living; IADL)も向上したが,標準失語症検査などの神経心理学的検査では著変を認めなかった.本症例では,描画活動で得られた達成感や支援者とのコミュニケーションがきっかけとなり,IADLの向上につながった可能性が考えられた.