抄録
本研究では,運動中に維持される物体形状を反映する表象的慣性 (representational momentum: RM) を指標とし,仮現運動物体表象が保持する奥行情報について検討した.陰影を奥行手がかりとして用いた実験1では,凸の運動物体が平らな図形へと変化する条件で,凹図形へと変化する条件よりもRM量が有意に多くなった(実験1A).一方,運動物体が凹図形の場合,RM量に差は見られなかった(実験1B).これらの結果は,2値化図形を用いて陰影の明るさ手がかりの効果を検証した実験2では再現されなかった.実験3では,凸の運動物体が低空間周波数フィルタによって不鮮明化された凸図形へと変化する条件で,凹図形へと変化する条件よりもRM量が有意に多くなった.本研究は,仮現運動物体表象は特に凸に関して不完全あるいは2次元と3次元との間の奥行情報を保持する,低空間周波数情報優位の物体表現であることを示唆する.