抄録
本研究の目的は,人の手による身振りの生成過程の解明にある。人は,発話中に話題の対象となる物の特徴を手で表して説明を加える際に,例えばボールを投げる身振りや,ボールが転がる身振りを用いる。前者は,人が物をとり「扱う」過程で生じる操作者自身の身体動作を示す身振り(action gesture: AG)であり,後者は扱われる対象物自体の「動き」を表す身振り(motion gesture: MG)である。本研究では,両タイプの身振りの生成過程に差異を仮定し,その生成過程に随伴する心的負荷を評定尺度法によって計測した。被験者は2群に分けられ,ジェスチャー・発話群の課題は,絵で呈示された対象物に対して言語的説明を加えることなく,AG,あるいはMGを単に生成することであり,発話群の課題は,同一の対象物に対してAGとMGを生成せずに,言語のみによって説明することであった。実験の結果,ジェスチャー・発話群は発話群よりも, AG条件よりもMG条件で高い困難性を示した。