抄録
従来,顔の記憶研究においては,示差性など顔の形態的特性が重要視されてきた.しかし,顔は単に物体としてではなく,社会的な関係性においても重要な刺激であり,知覚者の心理特性や置かれた状況によって記憶する対象は変化すると考えられる.本研究では,暗闇と参加者の不安特性が顔の記憶に影響するかを検討した.実験では,実験室の照明の有無を操作し,参加者に怒り顔,笑顔,真顔の顔写真を呈示し,再認成績を測定した.実験の結果,暗闇条件においては不安が高いほど怒り表情の再認成績が低下した.一方,他の表情では不安の効果は見られなかった.また照明条件ではいずれの表情においても不安の効果は見られなかった.このことから,高不安者は脅威的な状況におかれた場合,脅威的な他者の記憶が阻害されることが示唆される.