抄録
目撃者が犯人を識別する際、複数の容疑者の中から一人を選択するラインナップ手続きに比べ、単独の容疑者が犯人であるかを判断する単独面通し手続きは誤同定判断が増加すると言われているが、日本では単独面通し手続きを用いた実証研究はほとんどなされていない。本研究では、容疑者は真犯人 である、という思い込みを操作するために、難しい、または簡単な容疑者選定作業を経験した後で、ビデオを見て貰い、それから犯人識別を行って貰った。その結果、単独面通しよりラインナップの方が誤同定判断が多く見られた。またラインナップ群において、簡単な容疑者選定作業を経験した群の方が、難しい作業を経験した群より危険な誤同定判断が多い傾向が見られた。事前の経験が作り出した「写真群の中にきっと犯人はいるだろう」という思い込みが、ラインナップにおける比較判断を増加させ、その結果、誤同定を増加させることが示唆された。