日本認知心理学会発表論文集
日本認知心理学会第9回大会
選択された号の論文の140件中1~50を表示しています
口頭発表1(感情・感性)
  • -抑うつや特性不安との関連を中心として-
    中嶋 広美, 近江 政雄
    セッションID: O1-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究の目的は抑うつや特性不安が音楽聴取の影響のされやすさに影響しているかどうかを検討することである。本実験では,音楽聴取の影響を状態不安,気分,生理的反応の点から多面的に捉えた。実験では,無作為に高揚的な音楽,鎮静的な音楽,Altshuler(1954)の同質の原理およびレベルアタック技法に基づく漸進的に高揚的な音楽を呈示する3つの条件に実験参加者を割り当てた。それらの条件間で見られる影響を抑うつや特性不安との関連と同質の原理の観点から検討した。  結果として,レベルアタック条件では,音楽聴取後に状態不安が減少し,また,抑うつが高い人ほど状態不安が減少しやすかった。しかし,特性不安との関連はみられなかった。また,レベルアタック条件では,特性不安が高い人ほど,多面的状態尺度における抑うつ不安が減少している傾向がみられたが,抑うつとの関連は見られなかった。さらに,高揚的音楽条件では抑うつが低い人ほど心拍が増加しやすかった
  • Implicit Association Testを用いて
    安達 悠子, 臼井 伸之介, 山口(中上) 悦子, 山田 章子, 朴 勤植, 仲谷 達也
    セッションID: O1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    違反の生起要因の一つに,違反への潜在的態度があると考えられる。安達・臼井(2010)は,その測定手法として潜在的連合テスト(Implicit Association Test:IAT)に着目し,看護業務における違反への潜在的態度を測定するIATの作成を試みた。同IATの妥当性と信頼性を検討するため,本研究では,リスクマネジャーを務めている医療従事者51名に同IATを実施した。その結果,IATのブロック間の反応時間と誤答数の差からツールとしての構成概念妥当性が示された。また,試行間のばらつきから信頼性(内的一貫性)が示された。リスクマネジャー任用以外の安全に関わる委員会経験の有無で,IATを得点化したIAT得点を比較した。看護師の場合,委員会経験がある群はない群よりIAT得点が高く,違反を不快だとより強く感じていることが示唆された。既知集団を用いた検討からも,妥当性は支持された。
  • 松田 憲, 細見 直宏, 長 篤史, 三池 秀敏, 楠見 孝
    セッションID: O1-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では, 自動車画像を刺激として用い,背景情報の呈示方法を操作することで形成される親近性, 新奇性が, 単純接触効果に与える影響を検討した。実験1では学習時の背景情報と呈示回数を操作した。実験2では学習時の背景を固定し,評定時の背景と呈示回数を操作した。18名ずつの参加者には,自動車画像を3秒ずつ連続呈示したあと,自動車について好意度,親近性,新奇性の7段階評定を求めた。実験1では, 学習時に背景情報を変化させた方が呈示回数に応じて自動車への好意度が上昇した。反復呈示による親近性の増大と, 学習ごとの背景変化による新奇性付加が,好意度の上昇に繋がると解釈できる。実験2ではいずれの背景条件においても好意度の上昇が見られなかった。学習時に同一刺激を見続けたことによる心的飽和が好意度の上昇を抑制したと考える。以上より,学習時にその都度新奇性を与えることが, 単純接触効果の生起に有効であることが示された。
  • 中垣 辰徳, 松田 憲, 楠見 孝
    セッションID: O1-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,マルチメディアコミュニケーションにおけるアバターへの印象評価に,背景情報の情動価(快・不快)及び,接触頻度が与える影響を検討する。実験1は8つのセッションからなり,セッション7と8の間に1週間のインターバルを設け,セッション1,3,5,7,8では好意度,教育水準,信頼感評定,セッション2,4,6では背景の快不快評定を行った。実験2ではセッション2,4,6での教示をアバターと背景の一致不一致評定に変更し,実験1と同じ手続きを用いて与える影響の検討を行った。実験の結果,実験1と2のいずれにおいても,好意度と信頼度評定において背景の条件間で大きな差が見られた。また,呈示回数が増すごとに快背景条件で評価の上昇が見られ,逆に不快背景条件で評価の低下が見られた。実験1では1週間後では背景の影響を見ることができなかったが,実験2で教示を変更したことで1週間後にも背景の影響を見ることができた。
  • 北神 慎司, 村山 航
    セッションID: O1-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    自己効力感 (self-efficacy) とは,課題をやり遂げる自信のことであり,これが高いと課題への動機づけが高まり,困難な課題にも粘り強く取り組むようになることが指摘されている。これまで,自己効力感を高めるプログラムはいくつも開発されているが,いずれもコストと時間がかかることが問題として挙げられる.本研究では,課題の図と地のコントラストを操作することにより,知覚的流暢性 (perceptual fluency) を高めるだけで,自己効力感が高まり,課題への粘り強さが高まることを示した。研究1では,知能検査の課題を,低いコントラストで呈示する条件と高いコントラストで呈示する条件で比較したところ,低コントラスト条件に比べて高コントラスト条件では,課題に対する自己効力感が高いことが明らかになった。研究2では,知覚的流暢性の操作が行動に与える影響を調べるため,知能検査の課題に解決不可能課題を挿入し,どちらの条件で実験参加者が粘り強く取り組むかを比較した。その結果,高コントラスト条件の課題の方が,低コントラスト条件の課題よりも,より長く取り組まれることが明らかになった。
  • 青林 唯
    セッションID: O1-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では作動記憶容量の個人差が感情制御に及ぼす影響を検討した。作動記憶容量の個人差は認知的活動のみならず、様々な社会的活動や感情的現象に影響することが示されつつある。感情的現象の中でも、感情プライミング効果は精神疾患のネガティブ感情持続の基礎メカニズムとして考えられており、感情制御を反映しているといわれる。本研究ではこの感情プライミングに着目し、作動記憶容量個人差との関係を検討した。作動記憶容量個人差の測定にはディジット・スパン・テストを用い、感情的過程の測定には感情誤帰属手続きという感情プライミング課題を用いた。結果として、作動記憶容量の低い人は感情プライミング効果が顕著に認められたのに対し、容量の高い人は感情プライミング効果が低減していた。このことから作動記憶の感情制御効果が示唆される。
口頭発表2(言語・推論・意思決定)
  • 服部 雅史, 織田 涼
    セッションID: O2-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    よいアイデアは突然やってくるように感じられる.われわれの認知過程の多くは潜在的(無意識的)であるが,潜在認知は洞察問題解決においても重要な役割を果たしている.一方,メタ認知も創造性を高めるために有効であることが知られている.しかし,両者の相互作用についてはほとんどわかっていない.本研究は,意識的に知覚できないヒントに洞察問題解決を促進する効果があるかどうか,さらに,メタ認知的コントロールを促す教示が,この効果とどのように相互作用するかを調べた.146人の参加者が,サブリミナルヒント映像提示の有無,およびメタ認知教示の有無を掛け合わせた4条件のうちの1つに割り当てられ,9点問題に取り組んだ.実験の結果,サブリミナル映像もメタ認知教示も,単独では解決率を上昇させたが,両者が組み合わさると効果はほとんどなくなった.この結果は,メタ認知的コントロールがモニタリングなしで働くことを示唆している.
  • 西崎 錬平, 乾 敏郎
    セッションID: O2-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    先行研究では、左脳損傷患者に対する行動実験と損傷部位の相関から、道具使用においては、その使用法に関する知識が側頭葉、対象物との関係からの新奇な道具の機能の推論、すなわち力学的推論は縁上回が関連していることが示唆された。本研究では、力学的推論の役割をより詳細に解明することを目的とし、健常者に対する行動実験及びfMRIによる脳活動計測を行った。行動実験では、視覚刺激として、物体の形状や位置の変化を表す2枚の図、そして道具の図を順番に呈示し、実験協力者には物体の変化が道具により実現可能であるかどうかを判断させた。力学的推論を必要とする条件として、道具の形状の新奇性及び道具の使用法の新奇性の二つを仮定し、これらの要素の有無から4条件の課題を設定した。反応時の脳活動の課題間比較により、力学的推論が道具の形状、使用法のどちらの新奇性に対して関連しているかを検討した。
  • 省察と知識変換モードとの関連
    楠見 孝
    セッションID: O2-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    ホワイトカラーの実践知の獲得に及ぼす批判的思考態度の影響を明らかにするために18-69歳のホワイトカラーの男女400人にインターネット調査をおこなった.そして,実践知を支えるテクニカルスキル,ヒューマンスキル,コンセプチュアルスキルの獲得レベルに影響する批判的思考態度,省察,挑戦性,知識変換モードの影響を,共分散構造分析を用いて検討した.その結果,(a)新しい経験に挑戦し,挑戦する態度は,批判的思考態度に影響を及ぼした.(b)批判的思考態度は,知識変換モードに影響を及ぼし,テクニカルとコンセプチュアルスキルの獲得レベルに影響を及ぼした.(c)経験年数と管理職経験年数はテクニカルスキルとヒューマンスキルのレベルに影響を及ぼした.(d)そして,テクニカルスキルとヒューマンスキルのレベルがコンセプチュアルスキルの獲得レベルに影響を及ぼすことが明らかになった.
  • 都築 誉史, 菊地 学
    セッションID: O2-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    意思決定における現状維持バイアスに焦点をあて,ネガティブな結末となるシナリオにおいて,先行経験(ポジティブ,ネガティブ)と,選択結果(現状維持,現状変更)を操作し,後悔推測,反実仮想,反実幸福の度合いを測定した。追求者尺度に基づく意思決定スタイル(Maximizer,Satisficer群)が,現状維持・現状変更効果に及ぼす差異を検討し,Maximizer群では現状変更効果が大きいことを見出した。
  • 三浦 大志, 伊東 裕司
    セッションID: O2-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    目撃者が犯人を識別する際、複数の容疑者の中から一人を選択するラインナップ手続きに比べ、単独の容疑者が犯人であるかを判断する単独面通し手続きは誤同定判断が増加すると言われているが、日本では単独面通し手続きを用いた実証研究はほとんどなされていない。本研究では、容疑者は真犯人 である、という思い込みを操作するために、難しい、または簡単な容疑者選定作業を経験した後で、ビデオを見て貰い、それから犯人識別を行って貰った。その結果、単独面通しよりラインナップの方が誤同定判断が多く見られた。またラインナップ群において、簡単な容疑者選定作業を経験した群の方が、難しい作業を経験した群より危険な誤同定判断が多い傾向が見られた。事前の経験が作り出した「写真群の中にきっと犯人はいるだろう」という思い込みが、ラインナップにおける比較判断を増加させ、その結果、誤同定を増加させることが示唆された。
口頭発表3(英語セッション)
  • Natalia Efremova, Nobuhiko Asakura, Toshio Inui
    セッションID: O3-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    This paper presents an inferotemporal cortex model for object recognition and classification. The model is based on the modular network SOM, and produces a self-organized map of RBF networks. It can be trained to classify artificial 3D objects according to their structural similarity, and its properties are consistent with those in the TE area of the brain of macaque monkeys. We show that the model is able to distinguish between canonical and noncanonical views of objects. We further demonstrate that this ability leads to view-invariant recognition of objects by incorporating a mental-rotation type mechanism. Finally, we discuss the similarities and differences in view canonicality between the model and human observers.
  • Jeounghoon Kim, Chobok Kim, Chongwook Chung
    セッションID: O3-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    Recent functional neuroimaging studies suggested that distinct neural networks are recruited for regulating response and perceptual conflict separately. We employed a conflict adjustment paradigm using a modified Stroop task to verify the multiple conflict-driven cognitive control networks. Neuroimaging results demonstrated that the cdACC and the pre-PMd are involved in detecting and regulating perceptual conflict, respectively, which is analogous to the recruitment of the rdACC and the DLPFC in control processes for response conflict. We also investigated neural networks for detection and regulation of stimulus/response conflict in multiple-conflict situations by developing the OX-arrow conflict task, where "stimulus + response" and "response + response" conditions could be manipulated to measure stimulus-conflict and response-conflict separately. With the experimental results, the independence of underlying neural networks for conflict-driven cognitive control will be discussed.
  • Kwangoh YI, Sungbong BAE
    セッションID: O3-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    The role of semantic transparency in the recognition and learning of Sino-Korean words was investigated with four experiments. It was found that semantically transparent words were easier to recognize and learn than semantically opaque ones, suggesting lexical representation of Sino-Korean words based on morpho-syllabic units.
  • 日本人、中国人、台湾人、韓国人での比較
    大北 葉子
    セッションID: O3-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    日本人、中国人、台湾人、韓国人を対象に漢字を視覚刺激としたときの反応を脳磁図で検証した。刺激として、漢字1(平均画数8)、漢字2(平均画数13)、簡体字、繁体字(平均画数13)及びハングル文字の5種類が使用された。文字の複雑な分析の指標とされている刺激提示約150-200秒の反応M170を分析対象とした。M170の面積を求め、被験者内、被験者間で比較を行った。M170の反応はすべてのグループで画数に比例して大きくなるわけではなく、個人差が非常に大きかった。中国語の学習歴があり台湾在住経験がある日本人被験者は漢字2と繁体字の反応が他より大きかった。母語での漢字使用よりも個人の言語使用環境が漢字認知に影響を与えていると思われる。また刺激後提示200ミリ秒内というごく早い時期に無意識に漢字に対して何らかの判断がなされている可能性も示された。
  • Florence Isabelle KLEBERG, Keiichi KITAJO, Masahiro KAWASAKI, Yoko YAM ...
    セッションID: O3-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    Familiarity and recollection are believed to be two distinct processes of recognition memory in humans. Subjectively, familiarity provides a sense of 'oldness' to perceiving a previously encountered stimulus, whereas recollection recovers events and their contextual details. Despite many investigations involving ERP, fMRI, and behavioural measures, an EEG approach is lacking. With a 2-alternative forced-choice recognition memory task, using abstract visual stimuli, we set out to investigate the role of neural synchrony as measured by human scalp EEG during both encoding and retrieval of recognition memory. In particular, we show that the prestimulus period theta and beta band power may support encoding of stimuli that are subsequently recollected, compared to being familiar. These findings are suggestive of a favourable brain state for a particular type of memory processing.
口頭発表4(記憶1)
  • 想起した出来事の時点が時間的距離概念に与える影響
    伊藤 友一, 服部 陽介, 川口 潤
    セッションID: O4-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    エピソード記憶を想起する能力と未来の出来事をイメージする能力には深い関連があるとされている.我々はこれまで,異なる記憶想起が時間概念活性に与える影響について,エピソード記憶あるいは意味記憶想起後に時間的距離に関する単語の語彙判断課題を用いて検討した.その結果,エピソード記憶想起後にのみ遠い未来語よりも近い未来語へのRTが速くなっていた.これは,過去のエピソード情報が未来の時間概念活性に影響する可能性を示している.しかし,過去の時間概念活性には差が見られなかった.その原因として,想起した出来事の時間的距離に大きな分散が想定されたため,明確な結論は得られていなかった.そこで今回は,想起エピソードが近い過去と遠い過去で違いが見られるか分析した.その結果,両条件で過去語へのRTに違いがみられた.これは,エピソード記憶想起により,未来だけでなく過去の時間概念も活性化されていたことを示すものと考えられる.
  • 波多野 文, 川口 潤
    セッションID: O4-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、顔の全体情報の言語化は後の再認を妨害しないという仮説を検証した。一度記憶した顔を言語化すると、後の再認が困難になることがある(言語陰蔽効果)。顔の再認には全体情報が重要とされるが、言語化によって部分処理過程が活性化するために言語陰蔽効果が生じると説明されている。この説明に基づくと、顔の全体情報の言語化は後の再認を妨害しないと予測されるが、先行研究の結果は一貫していない。先行研究は、全体情報の言語化にターゲット顔の印象や職業を記述させるという方法を取ってきたが、この方法では、部分処理が活性化される可能性がある。本研究では、全体情報の言語化として、顔の布置情報を示す形容詞の評定を行わせた。実験の結果、通常の言語化条件では言語陰蔽効果が生じたが、全体情報言語化条件では生じなかった。この事から、言語化は必ずしも顔の再認を妨害しないことが示唆される。
  • 西山 めぐみ, 川口 潤
    セッションID: O4-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    情景内において視覚的に大きな変化が生じても,それらの変化に気づかないことがしばしばある。これは変化の見落としと呼ばれ,実際の対人場面においても生じることから,通常の視覚処理を反映していると考えられている。変化検出において視覚的記憶は重要な役割を担っていると考えられるが,課題以前に獲得された視覚的長期記憶が変化検出過程においてどのように利用されているかについては明らかになっていない。そこで本研究では学習フェイズを設け,変化検出課題に出現する変化前の画像をあらかじめ学習することにより,その後の変化検出率がどのような影響を受けるか検討を行った。その結果,学習フェイズで呈示された変化前の画像を含む試行の変化検出率は,新奇な変化前の画像を含む試行の変化検出率よりも高くなることが示された。この結果は,事前に獲得された視覚的長期記憶が,変化検出過程において自動的に利用されていることを示唆している。
  • 宮代 こずゑ
    セッションID: O4-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、単語の意味の印象と文字表記形態(タイポロジー)の印象一致度を操作し、潜在記憶に与える影響を調査することを目的としたものである。予備調査では、ひらがな及び漢字表記された154語と、行書体・ポップ体・古印体との印象一致度を調査した。その結果から、本実験にて使用する単語60語を選出した。次に行われた本実験_I_においては、単語の意味-文字表記形態の印象一致度が潜在記憶に与える影響を調査するため、単語完成課題が実施された。実験計画は項目(印象一致/印象不一致/新; 被験者内要因)×文字形態(ひらがな/漢字; 被験者間要因)の3×2要因であった。本実験_I_は学習課題、妨害課題、テスト課題の3段階から成っていた。結果、単語の意味-文字表記形態の印象一致度が潜在記憶に与える影響は見出すことが出来なかった。その次に実施された本実験_II_においては、顕在記憶に与える影響を調査するために再認課題が行われた。結果、本実験_II_においても単語の意味-文字表記形態の印象一致度が持つ明らかな影響は認めることが出来なかった。
  • 山田 陽平, 永井 聖剛, 北神 慎司, 川口 潤
    セッションID: O4-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    記憶内の一部の情報を検索することは,それ以外の関連情報の検索可能性を低下させることがある。この現象は検索誘導性忘却と呼ばれ,検索時に競合する記憶が抑制されたことによるものと考えられている。本研究では,高自閉性傾向者(日本語版自閉症スペクトラム指数にて測定)が検索誘導性忘却を示すかどうかを検討した。実験参加者はカテゴリと事例のペアを学習した後,一部の学習ペアについて手がかり再生を行った。最後に,カテゴリ+語幹手がかりを用いて全ての学習ペアの再生を行った。その結果,自閉性傾向が低い群では検索誘導性忘却が見られたのに対し,高い群ではみられなかった。このことから,高自閉性傾向者は競合する記憶を抑制できない可能性が示唆される。
  • 大塚 幸生, 川口 潤
    セッションID: O4-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
     本研究では,線画オブジェクトを用いて統計的な規則性の学習において意味情報の柔軟性が見られるか検討した。学習フェイズでは線画オブジェクトが1つずつ呈示され,刺激列は3つのオブジェクトが常に同じ系列順序で呈示されるトリプレットによって構成されていた(例えば,りんご,椅子,犬)。テストフェイズでは,学習フェイズで呈示された線画オブジェクトと同じカテゴリーからなる別のオブジェクトで構成させるトリプレット(オレンジ,テーブル,猫),および学習フェイズでは順序としては呈示されなかったフォイルが呈示された。実験参加者は,学習フェイズを参考にして2択によるfamiliarity判断を行った。実験の結果,学習段階で呈示された順序のトリプレットを選択する割合はチャンスレベルであった。視覚的統計学習において意味情報の柔軟性は見られず,順序情報と事例レベルの意味情報が連合して学習されている可能性が示唆された。
口頭発表5(記憶2)
  • 坪見 博之, 渡邊 克巳
    セッションID: O5-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    日常生活において高次認知活動を遂行するためには、目標行動に必要な情報をアクティブに短時間記憶することが必要である。この記憶機能はワーキングメモリと言われるが、保持できる容量は物体3個程度であり、保持機能に厳しい制約がある。外界には目標行動に不必要な情報も存在するので、効率的な行動達成のためには、妨害情報を排除しながら現在必要な情報のみを保持するようコントロールすることが必要となる。本研究では、これらのワーキングメモリ機能の発達過程を横断的に検討した。その結果、保持に関するワーキングメモリ容量は10才で、コントロール機能は12才で、成人と同様にまで発達することが明らかになった。また、単純な保持ではなく、コントロール機能が高い児童ほど学業成績も高いという正の相関を持つことも示された。
  • 有賀 敦紀, 鍋田 智広, 山田 祐樹, 小野 史典, 渡邊 克巳
    セッションID: O5-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    特定のルアー語(眠る)から連想される単語で構成されたリスト(ベッド,起きる等)を学習した被験者に対して,再認テストを行うと,実際に学習されていないルアー語が誤って再認される(虚再認)。虚再認は,意味の自動的活性によって生じるとされており,学習時における単語の意味的側面への注意に依存しない強固な現象であると主張されてきた。本研究では,ストループ刺激を用いた偶発学習において,被験者が刺激の意味的側面を抑制すると,虚再認は減少するのかを調べた。このとき,刺激の一側面は,単一文脈下よりも複数文脈下で強く抑制されるという知覚学習の知見を利用した。その結果,意味抑制時の文脈が複数の場合,虚再認は減少することがわかった。この結果は,従来の主張に反して,虚再認が学習時における意味的側面への注意の影響を受けることを示すと共に,偶発学習時の文脈数の操作が,虚再認を防ぐための効果的な方法であることを表している。
  • 堀内 孝
    セッションID: O5-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    一般的に自分自身の名前に関する反応時間は短いことが知られている。本研究では,その処理の速さが自己名前の熟知性の高さに起因しているのか否かを検討した。具体的には,名前を繰り返し提示することによりその熟知性の高さを操作した。実験1では,自己名前と3人の他者(親友,男性有名人,女性有名人)の名前が設定され,4回の反復提示が行われた。1回目の反応時間は,自己<親友<男女有名人であった。これは従来の研究知見と一致するものであり,熟知性でも解釈可能な結果である。しかしながら,4回目では他者3名間の反応時間の差は消失したにもかかわらず,自己名前は他者3名の名前よりも反応時間が短かった。さらに,実験2では自己名前と親友の名前が設定され,30回の反復提示が行われたが,それでも,自己名前は親友の名前よりも反応時間が短かった。以上の結果は,自己名前に関する処理の速さは熟知性の高さでは説明できないことを示している。
  • 再認テストを用いた検討
    川崎 弥生, 厳島 行雄, 山 祐嗣
    セッションID: O5-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では虚記憶の生成を説明する活性化-モニタリング理論とファジートレース理論のどちらが支持されるかを,自己選択効果が虚記憶の生成に与える影響を用いて検討した.自己選択効果とは,複数提示される記銘項目の候補の中から,実験参加者自身が選択した項目を記銘するほうが,あらかじめ実験者によって決定されている項目を記銘する場合に比べて記憶保持が優れる現象のことである.本研究ではルアー語を連想する単語リストを用いて虚記憶を検討した.実験参加者は大学生22名であった.実験参加者は4つの単語リストを,自己選択条件及び強制選択条件の2つの実験条件で学習した.その後再認テストを受けた.その結果,リスト語とルアー語で自己選択効果が見られた.したがって,リスト語およびルアー語で自己選択効果が見られたことから,活性化-モニタリング説が支持された.
  • 池田 賢司, 北神 慎司
    セッションID: O5-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,メタ理解の正確さへのワーキングメモリと文章の難易度の影響を検討した。実験参加者は,まずワーキングメモリ容量の測定のために,オペレーションスパンテストに取り組み,その後読解を行った。難易度低条件では,局所的連接性を修正した文章の読解を行わせ,難易度高条件では修正を行っていない文章の読解を行わせた。その後,各文章の理解度を自己評定させ,理解テストを実施した。その結果,メタ理解の正確さへのワーキングメモリ容量と文章の難易度の交互作用的影響が示された。難易度低条件では,ワーキングメモリ容量による正確さの違いはなかったが,高条件では,ワーキングメモリ容量が高い読者の方が,メタ理解はより正確であることが明らかとなった。この結果は,難易度の主効果が有意でなかったことを考慮すれば,文章の処理努力を低減させることが必ずしも正確さの改善に結び付くわけではないということを示唆するものである。
口頭発表6(社会・コミュニケーション)
  • 紀ノ定 保礼, 臼井 伸之介
    セッションID: O6-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究の目的は、高齢自転車利用者が自動車接近中の道路を横断する際において、横断可能と判断する接近自動車までの時間的かつ距離的な間隔を決定する、ギャップアクセプタンス行動に影響を及ぼす心理的要因を解明することであった。高齢者の参加者は自転車にまたがった状態で、右方から接近する自動車を見つめた。自動車の接近速度は20km/hと30km/hの2通りであった。参加者は、「これ以上自動車が接近すると横断できなくなる」と判断した時点で反応をした。日常的に「自動車側が道を譲ってくれる」と期待している高齢者ほど、道路横断時により近くまで自動車の接近を許容し、不安全な判断を行う傾向があった。また、予想と実際の横断所要時間の乖離も、高齢者の不安全な自転車運転行動の原因である可能性が示された。教育的介入によりこれらの要因の影響を低減させることで、高齢者の自転車事故を抑止できる可能性があると考えられる。
  • 綿村 英一郎, 分部 利紘, 藤尾 未由希, 高野 陽太郎
    セッションID: O6-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    素人は,量刑判断をするとき,犯罪が重大であるほど被告人に重い刑罰を与えるという方略をとる。本研究は,その方略が潜在的なレベルでもはたらいているという仮説を,潜在連合テスト(IAT)を用いて検証した。実験では,参加者を次の2群に分け,映像を見せる前後で2回IATを行った。一方の群には,量刑判断の判断材料として,残酷な犯罪の報道映像を見せた。別の群には,スポーツ映像を見せた。実験の結果,犯罪映像を見せた群では,重さの均衡がとれた犯罪概念と刑罰概念の組み合わせ(例.強盗殺人と無期懲役)が,不均衡な組み合わせ(例.駐車違反と無期懲役)に比べ,映像後に強まることが示された。一方,スポーツ映像を見せた群では,そのような変化は見られなかった。量刑判断の判断材料の呈示によって犯罪と刑罰の均衡性が強まるというIATの結果から,犯罪が重大であるほど重い刑罰を与えるという方略が潜在的であるとする本研究の仮説は支持された。
  • 齋藤 洋典, 大井 京, 李 宗鳳, 趙 文雋
    セッションID: O6-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    Gestures are produced for listeners to decode message and for speakers to encode information. Bilinguals need more encoding work in their second language (L2) than in their first language (L1). To examine the role of gesture production in an animation narration task in L2, we measured the brain activity of Chinese-Japanese bilinguals using near-infrared spectroscopy. The average change in the concentration of oxy-Hb was calculated for the left inferior frontal gyrus (IFG) and the left inferior parietal lobule (IPL) for three 2s-measurement periods: a pre-gesture, a gesture production, and a post-gesture one. We obtained a significant interaction between the two areas and the three periods. The activation in the left IFG significantly increased throughout the three periods, but decreased marginally in the left IPL. The present results suggest that gesture production is closely related to two functions of story planning in the left IFG and storytelling in the left IPL.
  • 周辺分布および同時分布の歪みが錯誤相関に及ぼす影響
    菊池 健, 道又 爾
    セッションID: O6-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    錯誤相関とは相関がない2変数の間に相関を知覚する現象である。本研究では、各変数ごとの度数分布である周辺分布と、2つの変数を組み合わせた度数分布である同時分布の歪みが錯誤相関に及ぼす影響について検討した。参加者は呈示されたプリディクタ(正方形/円)からターゲット(A/B)を予測した。この時、半数の試行は正答が呈示されないマスク試行であった。これにより歪みなし群(2群)ではプリディクタの周辺分布(正方形と円の度数分布)、あるいは同時分布(正方形とAの組み合わせなどの度数分布)のいずれかに歪みのない状況が作られた。歪みあり群(2群)と統制群では周辺分布と同時分布共に歪んでおり、統制群では全試行で正答が呈示された。実験の結果、歪みあり群と統制群では錯誤相関が生じたが、歪みなし群の2群では錯誤相関が生じなかった。これは周辺分布と同時分布双方の歪みが錯誤相関の生起に重要な役割を果たしていることを示唆する。
口頭発表7(動作・行為)
  • ポジティブ・イリュージョンとリスク認知またはリスクテイキング行動の関連
    大島 和, 南部 美砂子
    セッションID: O7-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    近年,ポジティブ・イリュージョンという概念が重要視されているが,この概念に関する研究は十分には行われていない.本研究ではポジティブ・イリュージョンに対する理解をより深めるために,リスク認知とリスクテイキング行動との関連に着目した.質問紙調査では外山(2000)の自己認知尺度および,本研究で作成したリスク認知とリスクテイキング行動の尺度を用いた.分析の結果,自己の将来に対する楽観主義において,高揚的な認知が危険行動を抑制することが明らかになった.将来に対する前向きな思考が,危険な出来事に遭わないようにするためにはどのような行動をとるべきかを適切に判断して,危険を回避していると考えられる.しかし,これはポジティブ・イリュージョンの与える影響の一つを確認したに過ぎない.今後はさらにポジティブ・イリュージョンの効果に対する理解を深めることが重要になると考察した.
  • 高橋 知世, 大塚 幸生, 服部 陽介, 北神 慎司
    セッションID: O7-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    これまで,エレベータ開閉ボタンの押し間違いという問題の解決を目的とした研究では,主に,開閉ボタンに用いられているピクトグラム(マーク)のデザイン面に焦点が当てられてきた.しかしながら,押し間違いの原因は,デザイン面のみならず,それを認知する人間側にもあると考えられる.そこで,本研究では,注意研究の基礎的なパラダイムを援用することによって,タイムプレッシャーおよび視点移動という認知的要因が,エレベータ開閉ボタンの押し間違いにどのような影響を及ぼすかを検討した.その結果,マークを単独呈示した実験1,対呈示した実験2のいずれにおいても,視点移動の影響が最も大きく,逆に,タイムプレッシャーの影響は最も小さいことが分かった.これらの結果から,押し間違いというエラーを低減するためには,たとえば,開閉ボタンの配置上の工夫として,視点移動が最小限ですむように配慮すればよいということが考えられる.
  • 家元 真司, 戸田 真志, 南部 美砂子, 櫻沢 繁, 秋田 純一, 近藤 一晃, 中村 裕一
    セッションID: O7-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    私たちは様々な道具を扱い、家事や仕事、趣味などの日常行動を行っている。このとき、慣れている道具で、慣れている行動を行う場合は、人はほとんど迷ったり戸惑ったりすることなく、道具を使い行動を行う。しかし、慣れていないものならば人は戸惑い、慣れている場合とは違った行動を行う。本研究では、それらの繰り返し行われる動作の中から非定常行動の分離を目的とし、インタフェースへの応用を目的としている。
  • 高速道路での合流行動に及ぼす注意と決然性の影響
    河原 純一郎, 佐藤 稔久, 根本 英明, 西崎 友規子, 永井 聖剛, 相馬 優樹, 熊田 孝恒
    セッションID: O7-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    自動車の運転,とくに高速道路での合流が得意な人と不得意な人の違いは何に起因するのか?本研究では,運転行動の基盤となりうる認知機能を測定する課題を開発し,それらの成績から特定の場面での個人の運転行動・傾向を推定することを目標とした。本発表では,タスクスイッチングと資源配分を中心とする注意課題の成績と,タイミングの適切さ,意思決定力を反映すると考えられる決然性課題が合流行動に及ぼす効果について報告する。実験参加者を注意課題の成績(高/低)と決然性(高/低)に基づき4つの群に分け,ドライビングシミュレータを使って高速道路への合流行動を調べた。その結果,低注意機能群では,本線を走る他車両が遠くにいても,合流操作開始が遅れることがわかった。また,低決然性群では,他車両が迫っているときに方向指示器を出すのが遅れること,高注意機能の場合は,合流操作を開始した後に方向指示器を出すことがあることがわかった。
  • ビル中央管理室の作業を例とした実験的検討
    緒方 啓史, 須藤 智, 熊田 孝恒
    セッションID: O7-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    就労現場の環境を,高齢者向けにデザインするために,加齢による認知特性の変化が就労作業にどのように影響するのかを調べた.まず,作動記憶,注意,タスクスイッチングについて認知機能を検査し,それぞれの機能が一つだけ低下した3群(WM群,AT群,TS群),および全てが比較的高い群(全高群)を選別した.就労作業の例として,ビルの中央管理室を調査し,中央監視作業のシミュレータを作成した.全高群を対照群として他の各群の作業パフォーマンスを調べたところ,WM群にとって点検作業の負担が高いことが明らかになった.またこれに対して,作動記憶への負担を減らす画面デザインの指針が得られた.一方,エラー率は,TS群が有意に高かった.以上より,高齢者の就労環境を整える上で,加齢による認知特性の変化を考慮し,その補償方法を講じることには意味がある.
口頭発表8(脳・神経)
  • 朝倉 暢彦, 乾 敏郎
    セッションID: O8-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    物体の心的回転および回転運動の知覚において,物体固有の参照枠あるいは環境中心の参照枠が重要な役割を果たすことが知られている.本研究では,これらの空間参照枠の競合により,時間の経過に伴って回転軸が切り替わって知覚される多義的回転運動が生じることを報告する.刺激として,回転軸が曖昧で,最小回転を実現する物体固有の回転軸とともに垂直あるいは水平の環境軸を可能な回転軸として含む仮現運動刺激を用い,一定の時間間隔において各参照枠での回転運動が知覚された割合を測定した.その結果,環境軸回りの回転角度が一定であれば,物体固有軸回りの最小回転量を大きくしていくに従って環境軸回りの回転運動が知覚される割合が多くなり,その効果は水平軸より垂直軸の方が多大であった.この競合事態における垂直軸の優位性は心的回転においても生じるものであり,回転イメージ生成と仮現運動知覚に共通のメカニズムが関与すること示唆している.
  • 岩渕 俊樹, 乾 敏郎, 小川 健二
    セッションID: O8-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトの言語が持つ大きな特徴のひとつとして,文の中に文が埋め込まれている階層的な複文構造を取り得る,という点が挙げられる.このような階層的処理を行う脳内メカニズムの詳細は明らかになっていない.本研究では中央埋込み文(例.「CをBにしかられたAはけとばした」),左分枝文(例.「BにしかられたAはCをけとばした」),等位接続文(例.「AはBにしかられてCをけとばした」)の3種類の文刺激を被験者に提示し,それを理解している間の脳活動を機能的核磁気共鳴画像法によって計測した.さらにこの時,主節もしくは従属節の動詞直前に副詞(「はげしく」)を挿入することで節の切り替わる位置を変化させた.その結果,左背外側前頭前野は階層的構造を持つ中央埋込み文で活動が増加し,さらに節のシフト位置が遅れることで活動低下が遅くなることが示された.これは同部位が複文理解における階層的な処理に関与していることを示唆している.
  • 遅延フィードバック条件についての検討
    笹岡 貴史, 乾 敏郎
    セッションID: O8-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    自他認識において,運動を行ったときに予測された感覚情報と,実際のフィードバックとの比較が重要な役割を担っていることが示唆されている.そこで本研究では,右手でタッピングを行っている被験者に遅延・変換視覚フィードバックを与え,脳活動をfMRI によって測定することにより,自他認識に関わる脳内基盤の検討を行った.本発表では,遅延フィードバック時の分析結果について報告する.被験者が他者の手のように感じた試行では,右角回が活動し,自分の手のように感じた試行は,左体性感覚野や小脳の活動が見られた.しかし,これらの領野の活動は遅延時間の長さとは相関を示さなかったことから,単に遅延時間の長さをコードしているのではないと言える.先行研究との比較から,左体性感覚野や小脳の活動は,遅延よる感覚の予測誤差を補償し,自己所有感を保つ過程を反映しており,自己所有感が保たれない場合に右角回が活動していることが示唆される.
  • 小川 健二, 乾 敏郎
    セッションID: O8-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    脳内には外界の状態を記述するための様々な座標系が存在する.物体の左側を無視する半側空間無視の症例から,ヒトの右頭頂前頭領域における物体中心座標系の存在が示唆されているが,その神経基盤は明らかではない.そこで本研究は,機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)とマルチボクセルパターン分析(MVPA)を用いて,ヒト物体中心座標系の神経基盤の存在を直接的に検証した.実験では,左右いずれかの視野に縦線と横線が交差した刺激を提示した.実験協力者は,網膜座標系(固視点),あるいは物体中心座標系(横線の中央)のいずれかで,縦線位置の左右判断を行った.MVPAの結果から,右半球の腹側運動前野(ventral premotor cortex: PMv)では,網膜座標系や注意の移動方向とは独立に,物体中心座標系で刺激位置に対する有意な識別精度が得られた.本研究から,右PMvにおける物体中心座標系の存在が示唆された.
  • 機能的MRIによる実験的検証
    水原 啓暁, 乾 敏郎
    セッションID: O8-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    全身の移動にともなう単一物体の空間位置の脳内表象が頭頂葉において実現されていることが指摘されている.この脳内表象は身体運動にともなう運動指令信号により頭頂葉でのegocentricな物体位置表象が更新されることで実現されると考えられている.一方,複数物体の空間位置情報の記憶は海馬において実現されていることが知られており,身体移動後の視点不変的表現についても海馬が重要であることが海馬損傷患者を対象とした研究により指摘されている.つまり身体移動後の物-場所連合記憶を想起するためには,海馬において物-場所連合のallocentricな表象が形成される必要がある.そこで,身体運動にともなう頭頂葉でのegocentricな物体位置表象の更新が海馬での複数物体位置のallocentricな表象を形成する脳内機構であると考え,身体運動をともなう物-場所記憶課題遂行中の機能的MRI計測を実施した.
ポスター発表1(記憶1)
  • 松田 祐貴, 漁田 俊子, 漁田 武雄
    セッションID: P1-1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    個別実験で,テスト文脈(SC vs. DC)× 文脈の種類(sensitive vs. insensitive)の2要因実験参加者内計画を用いた。34名の大学生が,6秒/語で提示される60個の単語(ひらがな3音節綴り,熟知価3.0以上)を意図学習した。テスト文脈は,学習時と再認テスト時の画像の一致(SC条件)・不一致(DC条件)とした。文脈の種類は,項目を提示するのに適している画像 (sensitive条件, e.g.,教室の白板) ・適していない画像 (insensitive条件,e.g.,お風呂の浴槽) とした。5分間の保持期間後,旧項目に60個の新項目を加えた120項目を用いて再認テストを行った。その結果,sensitive条件では文脈効果が生じたが,insensitive条件では生じなかった。これは,ICE理論の予測に反し,画像の種類が文脈効果の生起を左右することを示唆している。
  • Baker-bakerパラドックスの成立について
    上田 卓司, 安田 孝, 椎名 乾平
    セッションID: P1-2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    同じ名でも職業名として憶えるより名字として憶える方が顔との対連合記憶が低下する.Baker-bakerパラドックスとして知られるこの現象は,Bruce & Youngの顔‐人物認識モデルの枠組みでは,顔と結びつく氏名情報が職業名等の人物属性情報と比べ弱い,という観点で説明される.本研究では属性情報として地名を用いた日本版 Baker-baker 刺激を考案し,顔写真の提示方向(正立 / 倒立)による地名または人名記憶への影響も合わせて顔と名前の記憶過程について検討した.名前に対する手がかり再生課題および顔の再認課題の結果は,倒立顔に対する記憶成績が低下する倒立効果が見られたが,Baker-bakerパラドックスの成立は確認されなかった.文化心理学的要因および意味記憶表象の性質からパラドックス不成立の原因が検討された.
  • 判断時期の遅延がもたらす影響
    富高 智成
    セッションID: P1-3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    これまでの研究において,学習者が行う運動学習に対して観察者が既学習判断をする場合,判断を行うタイミングを遅延するとその判断と実際のパフォーマンスの一致率が低下することが示唆されている.しかし,それらの実験は同一の観察者に求めた学習直後判断と遅延判断を比較するものであった.このため,一致率の低下は遅延による低下ではなく,判断を繰り返したことによる低下という可能性もある.そこで本実験では,実験参加者を学習直後判断群と遅延判断群の二群に分け,それぞれに映像として映し出された運動学習を観察させて判断を求めた.その結果,学習直後判断は遅延判断に比べてパフォーマンスとの一致率が高く,運動学習に対する観察者としての既学習判断は遅延により不正確になるということが確認された.
  • 大塚 一徳, 宮谷 真人
    セッションID: P1-4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本邦では苧阪(2002)による日本語リーディングスパン・テスト(Japanese version of the reading span test,以下Jrspan)は,もっとも利用されているワーキングメモリ(WM)スパン課題の一つである。Jrspanは,実施する手続き上,刺激のコントロールやデータの収集に実験者のコントロールに負うところが多い。そこで,本研究では実験者による介入を極力少なくし,実験参加者によるマウス操作だけで実施可能で,自動的に得点を集計する機能を有する自動化された日本語リーディングスパン・テスト(Automated version of the Japanese reading span test,以下AJrspan)をUnsworth et al.(2005)による自動化WMスパン課題をもとに開発し,その信頼性を検討した。AJrspanを237名の実験参加者に実施し,内部一貫法による信頼性係数と再テスト法による信頼性係数を算出した結果,Jrspanと同様の信頼性が得られた。また,Unsworth et al.(2005)による自動化WMスパン課題とも有意な高い相関があった。このような結果から,AJrspanの信頼性が示唆された。
  • 猪股 健太郎
    セッションID: P1-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    境界拡張(boundary extension)は,ある画像を想起する際,実際には写っていなかった広い範囲までも,あたかも見たかのように想起する現象である。観察者は,画像の記銘時に,描写されたシーンに関する様々な情報を生成する。境界拡張は,観察者が画像を想起する際に,これらの多くの情報と実際の画像から得た見えの情報が区別できずに,実際の描写範囲と比較して情報量のより多い,広い見えを想起してしまうことで生起すると解釈されている。ここでいう,シーンに関する様々な情報とは,アモーダル知覚によって得られた情報と,シーンの空間的な文脈に関する情報であるとされている。そこで本研究では,空間的な文脈情報に影響を与えると考えられる画像のラベルの呈示が,境界拡張の生起に与える影響を検討した。具体的には,記銘時に描写されたシーンを説明するラベルを呈示する条件と呈示しない条件における,境界拡張の程度を比較した。
  • おみくじ法と血液型診断法
    重森 雅嘉, 佐藤 文紀, 増田 貴之
    セッションID: P1-6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    一般的に多くの人に当てはまる事柄であっても、心理検査や占いの結果として提示すると、自分に特別な内容として受け取られやすい(バーナム効果)。この効果を注意や警告を強化するものとして用いることができれば、安全や教育においての有効な活用が期待できる。本研究では日常的な展望記憶課題(一連の実験セッションの最後にID札を返却する課題)を用い、展望記憶エラーに対する警告をおみくじのように被験者が選択することにより、同様の内容を実験者から与えられるよりも警告の効果が高まることを明らかにした。
  • 内海 健太, 齊藤 智
    セッションID: P1-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    情報の選択的な検索は当該の情報に対する記憶を向上させる一方で,それらと意味的に関連するが実際には検索されていない情報の忘却を導くことが知られている。この検索誘導性忘却は,非検索項目における記憶表象が検索練習に抑制されるというプロセスが反映された結果として論じられている。しかしこの現象は,過去の事象についての記憶を意味する回顧的記憶の領域において論じられることがほとんどである。そこで本実験では,こういった検索誘導性忘却が展望的記憶課題のパフォーマンスにおいても観察されうるかを検討した。結果,非検索項目ではあるが実際に検索練習を課された項目と意味的な関連性を持つ刺激が展望的記憶のキューとして出現した場合の検出率は,統制刺激に対するキュー検出率よりも悪くなる傾向が観見られた。この結果より,検索練習の経験が展望的記憶課題のパフォーマンスにも影響を与えるという可能性が示された。
  • 山本 晃輔
    セッションID: P1-8
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,におい手がかりの言語ラベルと命名が自伝的記憶の想起に及ぼす影響を検討した。40名を対象に,におい手がかりの命名率(高,低)および言語ラベル提示の有無を操作した実験を行った。その結果,言語情報が利用可能な条件(言語ラベル提示あり,命名率高)の方が,言語情報の利用が困難な条件(言語ラベル提示なし,命名率低)よりも想起された自伝的記憶が鮮明でありかつ検索時間が短いことが示された。このことは,言語情報の付加によってにおい手がかりによる自伝的記憶の想起が促進される可能性を示唆している。
  • 高橋 純一, 河地 庸介, 行場 次朗
    セッションID: P1-9
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,物体の空間配置に対する選好が視覚的短期記憶に及ぼす影響について検討した。参加者の課題は,9,7 または 5 個の物体からなるパターンについて個々の物体の空間位置を再生すること (空間記憶課題: 実験1) 及び反復呈示されるパターン上に配置された線分の傾きに変化があるか否かの判断をすること (非空間記憶課題: 実験2) であった。記憶課題後,偶発的に行われた好み評定課題 (5 件法) の結果から,パターンを好き (1-2) と嫌い (4-5) に分類して選好の影響を分析した。その結果,空間記憶課題においては,9 パターンで,嫌いなパターンの方が好きなパターンよりも再生成績が良かった。また,非空間記憶課題においては,全てのパターンで,線分が嫌いなパターン上に配置された場合の方が好きなパターン上に配置された場合よりも再認成績が良かった。以上より,空間/非空間記憶にかかわらず両記憶に視覚的選好が寄与することが明らかとなった。
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