抄録
井上 (2010) は、単文の理解において、(i) 文中の名詞の指示対象数が複数になると、単文全体の意味解釈パタン (e.g., 累積的解釈・集合的解釈) が増加し、(ii) そうした意味的曖昧性の増大に伴って一時的に解釈決定が遅延されることを示唆した。この仮説を直接検証するため、(1) 「警官が犯人を捕まえた男性を…」のような裸名詞句だけからなる単文/関係節構造的曖昧文と、(1) の主語・目的語・主語+目的語それぞれに「2人の」のような複数の数量詞を付加した3つの条件を設定し、これら4つの条件について「男性を」でみられる再解釈のための処理負荷量 (ガーデンパス (GP) 効果) を比較した。その結果、数量詞を付加した3条件のGP効果は、(1) の条件よりも有意に小さくなった。この知見は、名詞の数によって文の意味的曖昧性の程度が異なることにより、構造的曖昧性の即時解消/遅延が決定されることを示している。