抄録
実際の運転課題を代理する課題として、直線運動する複数の物体から指定された数の標的を視覚的に追跡するMOT課題(Multiple Object Tracking)の有用性を検討した。追跡する標的の数で課題要求を操作し、視覚・触覚・聴覚へとランダムに提示される刺激への反応を求めるマルチモダル刺激検出課題(Multimodal Stimulus Detection Task : MSDT)を同時に行い、その成績を課題要求による精神的負担の指標とした。その結果、追跡数が増えると追跡成功率は低下し、MOTの課題要求が増加していることが示されたが、MSDTの成績には差が見られなかった。また、刺激モダリティごとの平均反応時間は「触覚 < 視覚 = 聴覚」の順に長くなっていたが、MOTの難易度変化による成績変化の傾向はモダリティ間で同様であった。したがって、MOTの課題要求は運転課題と同様に視覚的注意資源を多く消費すると予想したが、特定のモダリティに依存する注意資源を要求しない可能性が示唆された。