近年,認知的な課題成績における感情や動機づけの効果が注目されてきている。本研究では,高齢者の動機づけが防止焦点へ変化するという報告(Ebner, Freud & Baltes, 2006)や,制御適合が生じる場合に認知的柔軟性を必要とする課題成績が向上するという報告(Maddox & Markman, 2010) から,高齢者は,損失が強調される状況下で課題を行う際に認知的課題の成績が向上するという仮説を立て,実験的に検討した。認知的課題には,異なる課題特性を持つ3つの食品を調理し,客に提供するという新朝食課題(原田・大川,2014)を用い,ボーナス報酬を獲得する獲得群,エラーなどに応じて報酬を減じる損失群,報酬条件を設けない統制群とを比較した。その結果,損失群の高齢者において一部のエラー数が少なくなることが示されたが,その影響は複雑な形をとり,また制御適合の影響を受けないエラーや達成成績が示された.今後,制御適合が影響をおよぼす範囲や,メカニズムについて検討が必要である。