抄録
我々は同じ値引き額であるにもかかわらず,高価格の商品からの値引きより低価格の商品からの値引きに対してより価値を見出し,その価値を得るために移動のコストをかける(電卓とジャケットの購入問題)。この結果は,基準価格に依存した非線形の価値評価によって説明されてきた(プロスペクト理論)。本研究では,この結果を解釈するために商品価格による購入のためらいを新たな説明要因として提案する。実験1では追試に加え,各商品に対する購入のためらいの程度を測定した。その結果,実験参加者は高価格商品よりも低価格商品に対して購入のためらいが小さいために,移動のコストをかけた可能性が示唆された。実験2では,高価格商品と低価格商品の購入が確実である旨を問題文に明記しただけで,実験1や先行研究で生じた効果は消失した。本研究は,電卓とジャケットの購入問題を解釈する際にプロスペクト理論を想定する必要がないことを明らかにした。