抄録
行為生成における視覚-運動変換過程を検討するために,頭頂葉損傷患者を対象に,到達把持運動とそのパントマイム動作の運動学的特性を検討した.視線条件として,中心視と周辺視(提示物体から10度)の2条件を設けた.パントマイム動作時は,最初の物体提示後,ゴーグルにより5秒間見えが遮断され,その間に物体が取り除かれ,再びゴーグルが開いた際,物体が提示されていた位置へのパントマイム動作が求められた.到達把持運動時は視覚遮断中に物体を取り除かなかった.背-背側経路(dorso-dorsal stream)に主に損傷された患者では,周辺視条件における到達把持運動の障害とパントマイムによるつかみ幅の改善が認められた.腹-背側経路(ventro-dorsal stream)も損傷された患者ではパントマイム時の改善は認められなかった.これらの結果は,行為生成における,それぞれの背側経路の役割の違いを示唆する.